140話 閑話 赤髪ツインテール視点②
南部に居たモンスターを討伐し、サーベルタイガーことロアンと巨狼のセツナとともに中央部に戻ると、樹齢王はその体の変化させており樹人形態というものになっていた。ロアンが言ってたんだけど、あの形態は樹齢王の本気形態らしくモンスターランクで言うと7~8だという。
モンスターランクというのは各モンスターに設定されている強さの目安であり、ランク1が種族内最弱、ランク10が種族内最強と言う感じ。
かいつまんで説明するとランク1~2は初心者プレイヤーでも普通にレベルを上げてれば倒せるモンスター。ランク3~5はランクを10倍にしたプレイヤー(ランク3モンスター相手ならレベル30程度という感じだね)が4~6人でパーティを組んで挑めるくらいの強さに急変化する。
そう聞くと目の前の樹齢王はレベル70~80のプレイヤーパーティ、もしくはレイドならもう少し低くてもいいけどたくさんのパーティが必要になるだろうという事。……うーん、でも樹齢王の攻撃って範囲攻撃が多いから弱いパーティが数をそろえても勝てるとは思えないね。
そんな樹齢王をアイ姉達は魚くんことイリス、魔樹のモンスターのカエデ、そしてさっきから樹齢王の攻撃を防ぎまくっている鉱物を纏うドラゴンのルドラの最初からいた三体、そしていつ出したのかわからないけど高レベルの火系魔法を使う鳥のモンスター二体と鋼っぽいけどプルプルしたスライム系のモンスターで相手取っていた。ちなみに私がソロでこの鳥やスライムとあったら勝てる気がしないのはあえて言わない。それはアイ姉のモンスターのだれにでも抱ける感想でもあるけどね。
一体アイ姉はどういうプレイをしてこんな強い存在になったんだろう。すごく気になる……。
とりあえず、ここまでで分かったことはアイ姉はロアン達をテイムしているスキルに加えて、他のモンスターを召喚するスキルも持っているみたいって事。ぶっちゃけテイムスキルはテイム率の低さとかの関係から不遇扱いされてるため私自身も持っている情報は少ない。だけどアイ姉を見る限りテイムスキルって実はかなりすごいんじゃないかって思う。
もう一つの召喚系スキルに関しては、この考え事のしばらく後にその脅威を目の当たりにすることになった。
「ぐぬぬ……この姿となったワシをここまで追い詰める存在がおったとは素直に驚きじゃ……じゃがワシは古き王として負けるわけにはいかぬっ!本気の本気を出す時が来たようじゃな……刮目するがよい【秘樹・覚醒】!」
樹齢王の体力が半分を切り、この発言後に繰り出した攻撃でアイ姉のスライムがやられた。
その瞬間アイ姉の雰囲気が変化した。VRだというのになんとなく冷たい感じの憤怒が伝わってくる。
「コウガ……それにロアンとセツナ……もう遠慮はしないでいいわ。私も力を貸すから速やかに私を怒らせた樹人を始末しなさい」
どうやらさっきの樹齢王の攻撃はアイ姉の逆鱗に触れたらしい。もしかしてあのスライムってアイ姉のお気に入りだったのかな?そうだとしたら……樹齢王に対して言えるのはご愁傷さまって言葉だけだね。
私の横で静観していたロアン達にまで指示を飛ばし、樹齢王を倒すように言ったのだ。アイ姉がその際に樹齢王の事をザコって言ってた気がするけどそれはきっと気のせいに違いない。
「マ、マスターがお怒りですぅ!?ちち、近寄ったら危ないですよ?」
いつの間にか隣にいた羽の生えた女性。どうやらこの人もアイ姉のテイムモンスターらしい。全てにおいてその所作に魅力を感じるアイ姉とは違う肉感的な意味で魅力があるのが妬ましい。特にその動いてないのに弾んでる胸とか非常にもぎたくなる。……なぁーんてね!私はまだ14歳でまだまだこれから成長する予定だしっ!
ちなみにこの人はティアというらしく、アイ姉達の戦闘する様子や、仲間たちがこの後に繰り出すだろう攻撃をあらかじめ教えてくれたりする。
……なんでわかるのかは謎だけど、おかげでアイ姉達の戦闘の様子を追いかけることが出来てありがたい。
アイ姉の出す指示に応えるロアン達。彼らが動くたびに樹齢王の膨大なはずの体力ががりがりと削られて樹齢王は悲鳴を上げている。
私が三時間粘って与えたダメージは彼らの攻撃なら数秒なんだよ。自信なくすよね。これでもかなり強くなったつもりだったんだけどアイ姉の壁は、まだ越えられそうもない……。
「もうさっきまでみたいに甘いことはしないわ。そっちが叫ぶ事で気が済むのならそのまま死んでなさい……来なさい私の可愛い配下たち!
【軍勢・魔獣/獣】・【軍勢・魔鳥/鳥獣】・【軍勢・亜人】・【軍勢・魔樹/植物】・【軍勢・物質/魔動機】・【軍勢:死霊/精霊】・【軍勢:魔蟲/虫】!!」
アイ姉が呼び出したのは先ほど樹齢王が呼び出した取り巻きとは桁違いの数のモンスターの群れ。
えっ?いままでの攻撃でも本気じゃなかったの?ていうか配下とか軍勢って何さ?そう疑問を抱いたらティアが説明してくれた。
「マスターが家族と仰る私達ペットモンスターに対し、彼ら配下たちはマスターに忠誠を誓いただひたすらにマスターの命令を聞き敵を殲滅する者たちです。もちろん私たちもマスターの事は大好きで忠誠を誓ってますよ?」
……それって要するにロアン達よりも強いってこと?あの子達だけで十分胸囲……じゃなくて脅威なのにまだ上が居るの?……うん、これはアイ姉に勝てる要素が全く無いよね。
パーティ戦ならロアン達と対することになるし、運よくアイ姉と戦えてもあの軍勢とか言う配下達を呼び出されたらもう勝ち目など皆無だよね。
……しかもアイ姉自身にも樹齢王の行動を制限したりした謎スキルがあるし……。
アイ姉が軍勢を呼びだした後の樹齢王の末路はみじめの一言だった。
大きな狼の体当たりで空へ吹き飛ばされその先で耐性があるはずの火属性魔法による攻撃を受け(なのにダメージがしっかり通っているのが解せない)、馬鹿みたいにデカイゴーレムの一撃を受け、あげくの果てに柴犬に空中キャッチされた時の着地の衝撃で噛み砕かれるという最後を迎えたのだから……。
≪あるフィールドにおいて、プレイヤーパーティが王種モンスター《樹齢王コンヴァイン》に勝利しました≫
《プレイヤー名:アイリとミスティのパーティによって迷いの森エリアの樹齢王が討伐されました》
《樹齢王討伐に貢献したプレイヤーにドロップ品が与えられました》
「終わったわね。皆お疲れ様。全員戻りなさい」
アイ姉が軍勢のモンスター達……とくに活躍していた火魔法を使っていた鳥やゴーレムたちを労った後送還していく。残ったのはアイ姉が家族という八体のペットモンスターだけ。
その彼らに対しても一体一体愛情をもって労わっている。彼らも嬉しそうにアイ姉にすり寄っている所を見るに関係はすこぶる良いのが分かる。
アイ姉がペット達を可愛がっている間、私はレベルからは想像もつかないその強さについてアイ姉に質問をしていた。……当然詳しくは教えて貰えなかったけどね。
「あっそうだ。ミスティちゃん、少し待っててね、戦利品分配関連で設定かえるから……」
アイ姉が声を掛けてくる。……あ、そうか戦利品の確認しないとね。
そうして戦利品一覧を見て驚く私。そこには装備品(《万年樹の張弓》・《万年樹の捩杖》)二つと、高ランク木材が十個以上表示されていた。
「ちょっ!アイ姉、この戦利品って樹齢王のドロップ全部じゃないの?」
「そうだけど?ミスティちゃんはボスドロップの装備品とか素材とかこれから必要になるよね?」
「それはそうだけど、樹齢王を倒したのはアイ姉だし、私が全部貰うのはおかしいよ!というか必要になるかどうかで言えばアイ姉も同じじゃない」
「そう言われても、ミスティちゃんも私のレベルを見てわかってると思うけど私は樹齢王のドロップした装備品を何一つ装備できないし、素材に関しても樹齢王を周回すればいつでも手に入るからどうしても欲しい物では無いし」
「……し、周回……い、いくら理由があっても全部はだめ。私のプレイヤーとしての矜持が許さないし、何よりアイ姉から施しを受けてるみたいでイヤなのっ!」
「……そういうつもりはなかったんだけど、ミスティちゃんがそう感じたのならごめんね。それじゃあミスティちゃんが装備品関連、私が素材をもらうって事でいいかな?」
「それでも私が断然得してる気がする。せめて素材プラス装備品のどちらかをアイ姉が持って行ってくれないとっ!」
「うーん、そうね。ミスティちゃんがそこまで言うなら私に渡してもいい方を選んで。私はどっちをもらってもいいから」
くっ、アイ姉ったら私に選択肢を丸投げするなんてひどい!私が選ぶ方分かってて言ってきてる!
弓と杖。魔法攻撃をメインとしてる私が選ぶのは当然杖。もちろん弓も遠距離攻撃をする上で私が使い慣れている武器だけど、こっちではそこまで弓スキルを育ててないからね。
「ミスティちゃんは杖なのね。じゃあ私は弓をもらうわ。……そうねエレノアの主武装が弓だったはずだし売りつけてみようかな」
「エレノアさんならその弓を渡せば喜んでくれると思うよ(そっぽ向いて頬を染めてる様子が目に浮かぶなぁ。あれでアイ姉に対する感情を隠せてると思ってる辺り残念な人だけど……)」
戦利品の分配が終わるとアイ姉はヘリオストスに向かうという。理由は私が教えた妹の工房に装備品作成依頼をしに行くらしい。ちなみにアイ姉に今のままでも装備はイケてそうなのになぜ新調するのかと聞いたら驚きの事実が判明したのだ。
「ん?あぁ、それはね、私の領地に魔人王が攻めて来てるのよ。今はまだ私の領地である砂漠エリアに入ったばかりだけどあと数日しない内に戦闘になるから少しでも能力を上げておきたいの」
えっ?アイ姉ってば、たった今樹齢王を倒したばかりなのにすぐに次の王種と戦闘が控えてるの?
というか、私みたいな他のプレイヤーでは名前しか聞いた事のない王種と戦闘になるまでの関係になってるのが凄い。……戦闘には参加しないけど面白そうだから見に行ってみようかな……。
さっきの樹齢王戦みたいにアイ姉の力を見れるかも知れないし。
「へぇ、大変なんだね。一応応援しておいてあげるよアイ姉。がんばって!」
「ふふっ、ありがとうミスティちゃん。まあ頑張るのは私じゃなくて私の心強い味方達なんだけどね」
……アイ姉の様子がおかしい。魔人王といえば話に聞く限りめちゃくちゃ強い王種のはず。
でもアイ姉から感じる雰囲気はそこまで気負ってないというか、むしろ塵芥を相手にしてるという感じを受ける。
……ますます気になって来た。アイ姉の領地というのも気になるし絶対見に行こうっと。あっ、もちろん妹のカティも連れてね……。
この後私はカティの工房で面白そうな戦いが見れるかも知れないから一緒に砂漠に行こうと誘い、渋る妹を何とか説得し、現地へ向かった。
そこで私たち姉妹は圧倒的強者の存在を目の当たりにしたのだった。




