139話 閑話 赤髪ツインテール視点①
この閑話➀と次回の➁は樹齢王のまとめみたいなものになるので樹齢王戦UZEE!という方は読まなくて大丈夫です。
➁まで終わった後はヘリオストスで四人目に出会って交流する感じになる予定です。その後は魔人王戦……。ここは申し訳ないけど大事なところ以外端折ると思います。
魔人王戦終わればその流れでとある強者たちとのバトル。そして……
やっほぉ~~!!!みんな元気ぃ~?
私は【Eternal Story】を初版版からプレイしている所謂ベテランプレイヤーってやつだよっ!
言うまでも無いけど初期キャラ制作時の見た目に関してはリアルモジュールを利用して作り上げたの。今までもリアルモジュールを使用したゲームはたくさんあったけど、この【Eternal Story】はそれらとは比べ物にならないくらい細部まで作り上げることが出来るというのもこのゲームが人気な理由なんだよね。
最初の一カ月は同じ時期にプレイ開始した妹と遊んでたんだけど、一カ月も経てばお互いにやりたいことが浮き彫りになるわけでスイカの種集めというイベントが終わった二カ月目に入るころには話し合って別れて行動するようになったの。
私は種族適性のAGIとINTを活かした動きながら魔法で攻撃していく戦闘方法を重点的に鍛えたし、妹は種族適性を活かした生産関連に力を入れたいといってたからね。ちなみに妹のメイン攻撃は作製した爆弾による投擲攻撃。あの子も生産職という事でDEXが高く意外と攻撃の命中率が高いんだよね。
で私の方の魔法戦闘ってのはさ、火力も大事だけどやっぱりまずは当てる事が大前提だと思うんだよね。
弓とか銃みたいに魔法もある程度は練習をしないと最初のフィールドにいるモンスター以外に当てるなんて難しいし。その当てるに関しては私にとってはすぐに慣れた事だったけどね。
というのも、私ってオンライン系FPSゲーム世界大会の常連でさ、そういう狙いを定めるとか言う事は得意中の得意な訳よ。
話がそれたけど命中率に何の問題もない私が次に目指したのは高火力の魔法。
当然ながらショボい魔法を何度当てても強いモンスターを倒すのは難しいからね。そこで目を付けたのは【火魔法】。言うまでもなく火力魔法と言えば真っ先に思い当たる属性だよね。
それを自分のベースレベルよりも高い敵に繰り返し放ちながら修練することで【火魔法】から【炎魔法】へ。そしてそこからさらに【煉獄魔法】か【焦熱魔法】に変化することになって私が選んだのは後者の【焦熱魔法】。
なんとなく【煉獄魔法】はI-LINEでつながりのある知り合いが選びそうだから選ぶのをやめた。
【焦熱魔法】は炎による攻撃だけでなく周辺環境にも影響を及ぼす効果もあるので地味に戦闘時間が長引き場長引くほど私に有利になるから、攻撃を回避しながら魔法を放つ私とは相性が良かった。
あれこれと修行を繰り返し、気づけば三カ月が経過していた。
この頃の私の狩場はヘリオストスより西方の高山エリア。周辺住民の話によるとこの山には強力な武器を落とす王種モンスターが居ると言うので周辺で魔法をぶっ放し、その王種モンスターというのが襲ってくることを期待してたんだけど、運が悪かったのか出会えずじまい。
しょうがないから近くにいるもう一体の王種、樹齢王に八つ当たりがてら力試しをしようと《迷いの森》へ入った。森の中では運よくなんどもギアメタルラビットと遭遇、それを撃破し、かなりの経験値を稼ぐことが出来た。レベルも55と良い感じだよね。この位レベルがあれば流石にソロで王種に勝てるとは思ってないけどいい勝負にはなるはず……。
何度も迷いの森で迷った末、到達した最深部の広場。
そこには顔のある巨大な木があり、目を閉じていた目を開けながら話しかけてきた。
「ひょひょひょ……久しぶりの客じゃのぅ……さて若きゴーストよ。樹齢王たるワシに何か用かの?」
「当然戦いに来たに決まってるでしょ!勝負だよっ!」
「ひょひょ。良いじゃろう。先日来たダークエルフ同様、すぐに屠ってやろう!」
こうして戦闘が開始。私は【焦熱魔法】のイ・ブ-スを使用し、体力を削ろうとしたけど全く減る様子はない。
「ひょひょ。その程度の熱ではワシにダメージを与えるなど無理じゃよ」
樹齢王はそういい枝で振り払ってくる。直撃は避けたもののその体の大きさの違いから攻撃範囲のリーチも違い、私は思うように攻撃に移れない。
「くっ、ならばこれでどう!?」
回避に専念しつつ、次に放ったのはブレイズ・ドライブ。【焦熱魔法】を覚える前の【炎魔法】の一つだけど単体に放つ魔法としては今の私のできる最大火力魔法。
しかしその魔法も樹齢王には大したダメージを与えることが出来なかった。
「ひょひょひょ。先日のダークエルフと言い、お主と言いワシが樹木じゃからと言って炎が弱点とは限るまいに……」
樹齢王が私の足元から次々と尖った根を突き出し、私を仕留めようとする。
それを紙一重でかわしつつ隙を見て炎魔法エクスプロージョンを放っていく。この魔法は直撃すれば大きいが非常に使い勝手が悪い魔法と言われているけど、私にとってはメイン攻撃魔法の一つだ。なんといっても爆発による範囲攻撃も出来る上に消費魔力も少ないからね。
その回避に要する集中力も長く続かず、とうとう私は樹齢王の根っこ攻撃を食らい吹き飛ばされてしまった。
「ねえ、良かったら手伝うけど、どうする?」
そこで私はこのフィールドに別のプレイヤーが来ていることにようやく気付いた。顔を上げると私から見ても見惚れてしまう程綺麗な女性が心配そうに私を見ていた。
「……こほっ……アナタは誰ですか?」
もしかしたら私が挑戦した後の樹齢王を狙ってきた人かもしれないので警戒しつつ尋ねる。だってその女性の後ろにはなんかすごい強そうなモンスター達が居たし。
表情と雰囲気から察するに樹齢王と同等かそれ以上の風格を感じる。特に奥にいる白いサーベルタイガーみたいなヤツはヤバい雰囲気しか感じない!
「私はアイリ。そこの樹齢王を倒す為に来たプレイヤーよ」
自信満々というか当然と言った素振りで女性は答える。どうやら私と同様に樹齢王に単身挑みに来た物好きなプレイヤーらしい。
物好きとは言ったけど私はこの人の名前を知っている。掲示板とかワールドアナウンスで有名な人だしね。聞こえてくる評判から女性とは知ってたけどここまで綺麗な人だったとはね。
まあリアルモジュール作成じゃなかったらこの感想は無意味なんだけど、なんとなく直感でこの人も私と同じくリアルモジュールでキャラ作成してるだろうなって思った。
「!?……へぇ、アナタが最近目立っている王種狩りの人だったんだ。アナタならあの樹齢王を倒せるとでも?」
「まあ勝てる算段がないと、ここにはこないかなぁ」
ウインクしながらそう答える女性。私が男の子だったら今のウインクで堕ちてたかも知れないけど私はまっとうな女の子だからほわーってなった位で済んだ。
それと同時になんとなくそのウインクの仕方にデジャヴュ?っていうのかな見覚えがあるように感じた。
どこだったかなぁ?と思い返してみるとなんてことは無い一年ほど前にやったオンラインゲームで同じようなことがあった。
その名は《天帝オンライン》。
オンラインにしては珍しく九年続き、半年前にサービス終了を迎えたゲーム。
詳しくは端折るんだけど、そのゲームで後半の四年間、天帝の座を守り続けた元初心者プレイヤー《アイちゃん》。その彼女と最後の日に行われた《お疲れ様最終防衛戦》で見たんだ。
その最後の戦いは最終天帝アイちゃんVSその他有象無象軍で行われた。もちろん私は有象無象軍所属の騎馬銃士!
戦力差は互角。……そう、アイちゃんは一人でその他のプレイヤーの軍と同じ戦力を投じてきたんだよね。
アイちゃんは有象無象軍の建てた戦術をことごとく読みつぶしていく。
でその一つに私が居たんだけど、私の役目はアイちゃん軍の後方にある鉱山から侵入し背後を取るというもの。だけどそれもアイちゃんは対策済みで鉱山の中に伏兵を配置し、私たちを迎え撃った。
最後にはアイちゃん本人が現れ、鉱山内の有象無象軍を蹴散らした。最後に残った私も善戦した方だけど結局補給断ちによる弾切れでやられた。
その際に何故この鉱山から私達がくるというのが分かったかという質問に対してアイちゃんがあのウインクして答えたのだ。
「そこ(後ろ)に鉱山があるからよっ!」
うん、まったく意味不明だった。要するにこんな怪しげな場所に陣を張ったんだから目の届かない鉱山からも襲ってくるのは予想済みだという事ですね。
……アイちゃんに簡単に見破られるような鉱山侵攻作戦を立てた先代天帝、許すまじっ……だよ!
とまあそんな感じの事があった。
で、そっくりと言って申し分ないウインクを見て目の前のアイリがアイちゃん(=アイ姉)じゃないかとおもったわけ。
ちなみにアイちゃん……もといアイ姉とは最終戦前から知り合いだったけど、最終戦前に一緒に行動するのはお互いの為にならないからという事で控えていた。その時にギンの字とかエレノアとも知り合っている。
「ねぇ……今の発言となんとなく聞き覚えのある声……もしかしてと思ってたけど、その慎重な性格……まさかアイ姉?」
「正解!そういうあなたは、ミスティ……なのよね?」
私はその問いに頷きを返した。樹齢王が動かないことを良い事にその場で少し会話を行った。
まあ話はここまでかな。いまするべきはアイ姉と話すよりも樹齢王を倒す事だし。
「ここまで来たアイ姉には悪いけど、あの樹齢王は私が一人で倒すよ!」
そう宣言し、樹齢王に対峙する。とはいったものの本気で攻撃しているのに樹齢王の体力はまだほんのわずかしか減ってない。さっき樹齢王が言ってたけど、火属性魔法を使ったのがいけないんだろうとは想像がついてたけど今更引くわけにもいかないもんね。
ぶっちゃけ次に挑むときは他の属性魔法を鍛えておこうと心に決めている。
「でも見た感じ回復アイテムもないし、魔力も尽きてるよね?回復しながら戦うにしてもあと12時間くらいはかかりそうだけど続けるの?」
アイ姉に言われ、ウッと言葉を詰まらせる。実はこの数日ずっとスキル上げに費やしてたから眠気がひどいんだよね……。
それにここまで具体的な時間を出されたら居座るのは先に来ていたとはいえ流石に悪い気がしないでもない。それならここは一旦アイ姉に譲って復活した樹齢王相手に私が頑張ればいいかと思い直した。
そう考えてた私にアイ姉は妥協案としてこんな条件をつけてきた。
「それならここは協力して倒すという事でどう?せっかく削ったんだし、ミスティちゃんも王種を倒したいのでしょ?」
そう、王種モンスターが落とすという装備品は性能がいいらしいという噂だ。もちろんプレイヤーで王種を倒しているのは目の前のアイ姉だけなのでプレイヤーからの情報ではなく、住民からの情報であることは分かってもらえると思う。
と言う訳でアイ姉と協力?という形で樹齢王戦が再開。だけど樹齢王はアイ姉と白いサーベルタイガーを見て本気を出すとか言い出してきた。その言葉通り樹齢王はたくさんの取り巻きモンスター?を呼び出し、樹齢王に集中できる状態ではなくなった。
「この数なら何とかなるわね」
横でアイ姉がつぶやく。……えっ?それ本気で言ってる?普通ならたった二人しかいない私たちが圧殺されるんだけど?
だけどアイ姉は出来ないことはちゃんと出来ないという人だ。
数分後、私たちの周りにいたモンスターはきれいさっぱり倒されていた。……そう、アイ姉の連れてた柴犬とか狼とかに倒されてね……。可愛らしい見た目と手入れがきっちりされていることがよくわかる綺麗な毛皮から癒し担当かと思ったら思いっきり前衛だったんだね。
続けて他の場所に呼び出されたモンスターの討伐に向かうそれぞれのアイ姉のペットモンスター達。
残ったのは鉱物を纏ったドラゴンと七色に輝く魚、あとは樹齢王とは見た目は違うけど樹木系のモンスターだけ。
そしてアイ姉のモンスター達と樹齢王の戦いが始まった。樹齢王の攻撃はドラゴンが耐え時折反撃をし、樹木のモンスターが植物にあるまじき魔法を使用した移動方法を見せたりと、普通に魔法を使う事に凝り固まっていた私の頭が柔らかくなった気がする。
この得たヒントから焦熱魔法もいろいろ応用が利く使い方が出来るようになる気がするし。
そのまま戦闘が続き、樹齢王が攻撃スキルと見せかけて本当の取り巻きを複数召喚した。
それを見たアイ姉は七色の魚にその討伐を指示していた。このままアイ姉の戦い方を見て応用方法を考えるのもいいけど、一応私もボスと戦っている以上戦利品を獲る条件位は満たしておきたいからその取り巻きの討伐に出ることにした。
アイ姉からは樹齢王との戦いに参加しなくていいの?と聞かれたけど私はそこまで樹齢王にこだわっているわけじゃないしね。どうせあのまま戦闘を続けてても負けてたのは間違いないし。
と言う訳で樹齢王はアイ姉に任せると答えてから飛んで行った魚を追いかけた。
樹齢王の新しく呼び出した取り巻きは《樹齢樹》という魔樹タイプのモンスターで種子みたいなものをバンバン飛ばしてくる敵だったんだけど、種子攻撃はアイ姉のペットの魚くんが水魔法ですべて撃墜し、続けて放った光魔法で樹齢樹を沈めていった。
ぶっちゃけ魚くんが樹齢樹をどんどん倒していったので私が相手で来たのは数体だけだったんだよね。
樹齢樹を倒した後、アイ姉の所に戻るのかと思いきや方向転換し、別の方向へ向かっていく魚くん。
ペットモンスターが勝手な行動をとるとは思えなかったんだけど魚くんが向かった方を見て納得がいった。アイ姉たちの戦闘域に向かっている取り巻きの一団があったのだ。
生命力の高い魔蟲やら魔樹の系統が多かったが、魚くんの光魔法の前にあっさりと消え去っていく。
このままでは私の出来ることが全部なくなると思った私は魚くんに少しモンスターを譲ってもらえないか交渉してみた。
「クピポッ?」
気の抜ける返事だけど、なんとなくどうぞと言っている気がする。魚くんが目を向ける方向を見ると、まだまだモンスターがうろついている。どうやらあれらを譲ってくれるみたい。
「ありがとね、魚くん」
「クピッ!」
魚くんは私に光魔法のバフを付けると「ここは任せたよ」と言わんばかりに空を飛び、北方のエリアへ飛んでいく。アッチは確か柴犬ちゃんが向かって行った方向だったよね。手助けに行くのかな?……あっさりモンスターを殲滅してた柴犬ちゃんたちの?
……まあいいか。とりあえず私は目の前の群れの殲滅を頑張ろう。
弱点属性である【焦熱魔法】やら【炎魔法】で魔樹やら魔蟲をある程度片付けていくと、取り巻きモンスター達も危険を感じたのか、南方向へ移動を始める。
このまま放っておいたら反転してアイ姉の居る場所まで来る可能性があるので潰しておかないといけない。
モンスターを追い南方向へ進む私の目の前で突然モンスター達が凍り付き全滅した。
何事かと思い見ると、アイ姉の横にいた白いサーベルタイガーと巨狼が居た。
「むっ、たしか主の知り合いの小娘であったか……もしや今のモンスターは小娘の獲物だったのか?それならば悪いことをしたのぅ」
白いサーベルタイガーが流暢に話し出す。……私の反応?もちろん驚きで固まってるよ?
……そうか、さっきアイ姉たちの元からこの子たちが散開した時に喋ってたのはサーベルタイガーだったんだね。納得できた。
「それなりに貢献は出来たはずだから別に倒してもいいよ。ほっといたらアイ姉の所に行くかも知れなかったから追ってただけだし」
「ほぅ?我が主の手助けをしようとする姿。良い心がけじゃな」
「そりゃ、アイ姉と一時的とはいえパーティを組んでるし、もともと知らない仲じゃないからね」
そんな感じで会話を交わし、このサーベルタイガーはロアン、狼はセツナという名前だという事が分かった。アイ姉の名前のセンス……普通だったね。てっきりもっとキラキラした名前を付けてると思ってたよ。
開拓系ゲームで飼っていた家畜たちに当時人気のあったアイドルの名前を付けてたりしたからそういうのが好きと思ってた。(アイリの名誉のために言っておくと、別にアイリはアイドルに興味はなく、他プレイヤーと会話をするときの切っ掛けになるから付けていただけである)
「ふむ、話すのも良いのじゃが我らは主の元へ戻らねばならぬゆえ、移動しようではないか」
それもそうだと思いアイ姉達の居る中央部へ向かって移動を開始。
聞けばロアンとセツナでこの南エリアにいるモンスターは余すところなく全滅させたらしい。強くなかったのかと聞くと「主の本気程ではない。余裕過ぎて欠伸が出おったわ」とかいってた。
……アイ姉の本気。一体どんなの、超気になるんだけど?
そんなこんなで戻ってきてしばらく経過したとき、私はアイ姉の怒る姿を見た。




