131話
カエデに迫る樹齢王の太い枝による連続攻撃。カエデは数本に一回程度の割合で被弾しているけど、カエデを一撃で沈めるほどの重い攻撃ではないようです。さっきミスティちゃんが私の仲間(コウガやイリス達)を鑑定したと聞いた時に樹齢王の大体のステータスもわかるの?って聞いたら、問題なく情報共有してくれた。
その情報を元に、カエデのダメージを計算すると樹齢王の物理能力は1800を少し超えたくらいだという事が分かった。ちなみに樹齢王は恐らく今使っている物理攻撃よりも魔法攻撃の方が強いだろう……というのはミスティちゃんも同意見でした。
まあ長年王種の座に居たという誇りと実績もあるだろうから、地壊王よりは強いだろうと思ってたけど。まあ樹齢王の物理能力だけで地壊王は倒せるわねー。地壊王って物理特化なのにその物理能力が1700程度しかなかったもんね。
「ひょっひょっひょ。ワシに劣るランクの魔樹モンスター如きがワシの攻撃に耐えた事には驚いたが、次の攻撃は耐えられまいて……食らうがよい!【針葉樹の千の雨】」
樹齢王は物理攻撃を放ちながらもスキルを発動させた。樹齢王の周りにたくさんの硬く刺さったら痛そうな針葉樹の棘が所狭しと出現する。一呼吸後にそれらは私達へ向かって飛んでくる。
「こっ、これは私も完全に巻き添えを食らう数だからルドラよろしくね!カエデはあなたを見下してる目の前の王種に一撃食らわせてきなさい!」
「ギシャァッ!」「ヴヴヴッ!!」
返事とともに二人は動いた。カエデは自分の周囲に【木魔法】を詠唱、展開して、ルドラは【鋼壁】【深海甲殻】【鱗超強化】【防御増強】【竜麟】などのいつもの防御スキルに加えて進化時に覚えた物理カウンター系の【リフレクトカウンター】を発動させ私の前に立ちふさがる。これであの針葉樹の雨でも私の身は守られるね。そうそう、念のためにルドラには【耐え忍ぶ】も使っておいて貰わないとダメね。もしカウンターを失敗しちゃったら本来の倍近いダメージを食らう事になるのでルドラが死んじゃうかもしれないからね。物理カウンターなのに針葉樹の棘のような遠距離攻撃をカウンターできるか……って?多分できるんじゃないですかねぇ?遠距離でも物理攻撃ですし?魔法で生み出した棘ってわけじゃないからこれで行けるはず……。
針葉樹の針がルドラに当たると、カキンカキンッという音を立てながら弾かれていく。どうやらルドラのスキルは問題なく発動した様子。威力のなくなった針葉樹の針がパラパラと私達の足元に落ち、消えていく。
「……!?ば、馬鹿な?ワシの【針葉樹の千の雨】を食らって無傷じゃとぉ?
……ぬぅっ、なるほどのぅ。そのドラゴンはランク6じゃったのか。ならばワシの攻撃を防ぐ力を持っていてもおかしくは無いのぅ……」
「あのさ?樹齢王。驚いたり攻撃を防がれた理由を考えてる暇、あるの?」
「ぬっ?なにがじゃ……ガハァァッ……!!」
巨大な樹齢王の幹が、くの字に折れ曲がるほどの衝撃を受けていた。かろうじて根っこを地面に張っていたため吹っ飛ぶことは免れたが今回に限っては吹っ飛んでいた方が良かったのかもしれない。
なぜなら樹齢王の横にはカエデが立っていたから。
「カエデ、樹齢王がこっちを見くびっているうちに、大ダメージを与えておいてっ!」
「ヴヴヴっ!」
先ほどカエデが詠唱していた木魔法は《コームコースター》。弾力性のある木を召喚し、対象を任意の方向に弾く魔法だ。それをカエデが自分自身に使用し、弾く事で動きの遅さをカバーしたのだ。
氷獣王と戦ってた時はカエデがルドラを投げ飛ばすという形をとったが、この魔法を使えば自分で自由に移動できるようになる。なお、着地地点に関してはカエデの勘によるものなので毎回狙った場所に行くとは限らないのが難点かな。スキルレベルを上げるためにも反復練習しておかないと。
カエデはひたすらに樹齢王に対し【ワン・ツー・フィニッシュ】の攻撃上昇率を上げるために自分の根をベチベチと織り交ぜつつ(格ゲーで言う大攻撃)、自身の太く育った枝(格ゲーで言う中攻撃)で樹齢王を殴り続けていく。
小攻撃は無いのかって?どうなんだろう?カエデの今までの様子を見る限り枝と蔦と根っこの攻撃しかしてないんだよね。消去法でいえば小回りの利く蔦が小攻撃じゃないかなぁ。
「ぬおぉぉっっ!いい加減にせぬかぁぁぁ!このワシをサンドバックか何かと勘違いしておるんじゃなかろうなぁっ!?」
そういいながら樹齢王はカエデの足……もとい根を振り払い転倒させた。あらぁっ、【ワン・ツー・フィニッシュ】を発動させる前に樹齢王に攻撃食らっちゃったのかぁ。それなりに大きな体を持つカエデを転ばせるくらいの強さは持ってるんだね。びっくりしたよ。
どっちにしろ攻撃をされる前にスキルを発動させていても良くて120%位の上昇率だっただろうから大したダメージは与えられなかっただろうし、使えなくされてよかったのかもね。
一度見せたら次回から当てづらくなるのがスキルだもんね。特に王種が相手の場合は一撃必倒を目指さないと。
「ヴヴッ!」
地面に転がされたカエデは【ナチュラルメイク】で各属性の効果を持つ木の実を発生させ【高速連射】で次々と樹齢王の顔がある部分に向け放っていく。もちろん私はどの属性で痛がっているかをしっかり見て置いたけど、やはりミスティちゃんが使っていた火属性を持つ木の実に関しては痛がる素振りは無く、かなり耐性が高いようでした。他の属性では若干風とか雷属性の木の実が結構効いてる感じ。
もしかして火属性が効かなかったからエレノアも樹齢王に勝てなかっただけなんじゃないのかな?まぁその辺は気にしなくてもいっか……。
「ぬっ、ぬおぉぉっ!?か、顔ぉぉっ!わ、ワシの顔がぁぁ!」
樹齢王の顔の周囲にあった木の葉は風属性の魔法で散らされ、雷属性のビリビリで若干木の皮が逆立っているように見える。
苦しむ樹齢王を横目になんとか魔法を使うタイミングを作り出したカエデは《コームコースター》を再使用し、私とルドラの居る位置まで自身を吹き飛ばし、アクロバティックな動きで帰還してきた。
「カエデご苦労様。さっきのナチュラルメイクは良い手だったと思うよ。樹齢王が見てない内に弱点っぽい風と雷属性の木の実を色々な場所に作っておいて」
「ヴヴヴッ!!」
カエデは自分の根を地面に突き刺し、フィールドの至る所にスキルの効果を発現させていく。樹齢王が我に返るまでの間、大体五秒くらいだけどカエデの木魔法を使って樹齢王の死角から攻撃をすることが出来るようになった。
それにしてもボスモンスターの癖に五秒も攻撃可能な時間を作るなんてボスとしてあっちゃいけない隙だよねぇ。まあ私も鬼じゃないからその隙を攻撃ではなく準備に費やしたんだけどね。
えっ?この後の事を考えたら攻撃されてた方が樹齢王にはマシだったかもしれないって?そ、そんな事ないわよ?
「ぐ、ぐぐっ……おのれぇ。せっかくワシが優しくしてやっていたものをわざわざ怒らせるとは余程お主は死にたいらしいのぅ……。良いぞ?そこまで言うならばワシの本気を見せてやろう……。これを見て後悔してももう遅いのじゃよ。ひょっひょっひょ!!」
そこまで言うって私なにも言ってないけど?言ってないよね?
とにかく樹齢王は本気モードに入ったらしく、先ほどまでとは雰囲気が全く違ってきている。というのも氷獣王になる前の巨獣のようにその姿が変化してきているから。
今迄の大きな巨体から木の皮が剥がれ落ち、中から現れたのは二回りほどサイズダウンした二足歩行の樹人タイプ。元が大きいので今の樹人の姿でもサイクロプス級の巨体だ。
ここから想像できるのは樹齢王の木の形態はランク6。そして今の樹人形態がランク7といったところなんでしょうかね。
木の形態と違い、足があるので移動速度もかなり上がっているだろうし油断は出来そうにない。だけど人化しただけあり腕の数が減ったのが救いとなるのかもしれない……。
「ワシがこの姿になるのは百年ぶりじゃよ……魔人王や吸血王ならともかく、駆け出しの魔王如きにこの姿を晒す事になるとは、ワシも力が落ちたものよのぅ……じゃが、この姿になったからにはワシは負けぬよ。このワシに挑んできた自分の無知を呪うがよいわっ!」
いうなり樹齢王は無詠唱で魔法を放ってきた。
王種ボスは人化するけどコウガ達のような仲間モンスターを人化させるつもりは一切ありません。
人化を期待していた方には申し訳ありません。




