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129話

 カエデに案内されてたどり着いた場所は、今迄大きな木々に囲まれていたのが嘘のように急に視界がひらけていて、目の前には大きな大きな……それはそれは大きな(大きなって何回言うんだろう)広場があった。具体的な広さで言ったら夏に高校野球児が行く○子園球場が3つくらいは余裕で入るんじゃないかってくらい。……野球なんて見に行ったことないけど多分そんな感じ?



 ゴォォォッ!


 「嘘っ、この魔法でもダメージが通らないの?なんでっ!」


 そんな広場の大きさに感心している私の目の前のマップ中央辺りで巨大な木……ソロで樹齢王と戦っている赤髪をツインテールにした少女がいた。どうやらソロで樹齢王に挑んでいるみたいだけど、エレノアみたいな命知らずが他にもいたんだね~。強い相手に挑むというゲームを楽しんでるって言うのがひしひしと感じられるから、こういうプレイヤーは嫌いじゃない。むしろ好感が持てる。


 少女はプレイヤーが選択できる種族である邪霊種で比較的魔法攻撃に特化している《ゴースト》ですね。ゴーストというのは死霊種のモンスターとしても出てくるんですけど、敵の場合は物理攻撃を無効にしてくるし、障害物の中から突然顔を出して出会いざまに魔法攻撃を放ってきたりと結構面倒な敵なんだよね。私の場合なら魔法攻撃は効かないから心臓にダメージを受けるくらいで済んでるけどさ。


 でもプレイヤーが操る初期種族の邪霊種のゴーストは物理無効の効果も持ってないし、障害物を透過したりすることも出来ないけど初期INTとAGIが高く設定されていることから魔法型と言われているのです。詠唱速度はやや遅いみたいだけど、この少女みたいに縦横無尽に走り回りながらの魔法攻撃も可能というわけ。



 そんな彼女が地面から生えてくる樹齢王の根っこによる攻撃を器用に避けながら炎系魔法を次々と叩き込んでいるのが見える。だけど樹齢王はそんな魔法攻撃などものともしていないけどね。


 実際樹齢王の頭の上にある体力ゲージは僅かしか減っていない。体力があるのか、もしくは樹齢王だからって火属性が弱点ってわけじゃないからなのかもしれない。

 もしくは少女の魔法攻撃能力……INTが適正より低いので火力不足なだけかもしれないけど。後者が濃い線だけど、樹齢王の体力が高く少女のINTが低いという事も十分に考えられる。

 そもそも王種戦での適正ステータス数値っていくつなんだって言いたいよね。私も知らないから答えられない。


 赤髪ツインテールの少女は、移動しながらエクスプロージョンの魔法を連続発動させた。止まってても当てにくいと評判の炎魔法エクスプロージョンを走りながら全弾ヒットさせている事には素直に驚いたよ。かなり魔法の使い方がうまい子だね。……こういうのを見るたびに思うんだけど私も魔法が使いたい。

 エクスプロージョンによる連鎖誘爆が発生しているが、樹齢王の幹には大きなダメージを与えられないでいる。やっぱり樹齢王は堅いのね~。魔法防御型ってところかな?


 苦労してるみたいだけど、うーん……手助けした方がいいのかなぁ?


 「くっ!私の大魔法がここまで効かない相手は初めてだよっ!でも絶対負けないんだからっ!」


 ……むぅ、なんとなくだけど高確率で自分の力に自信があり協力を申し出ても断ってくるか、そもそも人の話を聞かないタイプの人っぽいなぁ。しょうがない。私の時の参考になるかもしれないし見ておこうっと!情報収集は大事だもんね。危なそうなら手助けがいるかどうかを聞けばいいよね。


 少女は攻撃を避けながら延々と魔法を使う事を繰り返していたけど、とうとう魔力が尽きたらしい。回復アイテムも持っていないか使い切ってしまったようだし……これは終わりかな?

 ちなみにここまで頑張っていても樹齢王の体力はまだ5%程度しか減っていない。うん、どう見ても赤髪少女の力不足だったね。そもそも炎魔法だけしか使ってないのはおかしい。なぜ他の属性魔法を使わないのかな?


 「あぐぅっ!?」


 そしてとうとう少女は樹齢王の根による攻撃を食らい吹き飛ばされる。その先に私が居るわけなんだけど……


 「ねえ、良かったら手伝うけど、どうする?」


 「……こほっ……アナタは誰ですか?」


 「私はアイリ。そこの樹齢王を倒す為に来たプレイヤーよ」


 「!?……へぇ、アナタが最近目立っている王種狩りの人だったんだ。アナタならあの樹齢王を倒せるとでも?」


 「まあ勝てる算段がないと、ここにはこないかなぁ」


 私は赤い髪の少女にウィンクをしながら答えた。その時少女は一瞬何かを考えこむ素振りを見せた後にハッとしたように顔を上げた。


 「ねぇ……今の発言となんとなく聞き覚えのある声……もしかしてと思ってたけど、その慎重な性格……まさかアイ姉?」


 「正解!そういうあなたは、ミスティ……なのよね?」


 「そうだよ。そっかぁ……アイ姉が最近巷で噂されてる美人さんかぁ。いつか誰かが目立つだろうな……とは思ってたけど、思慮深い感じのアイ姉がこんな早い段階で目立ってくるなんて思ってもいなかったよ」


 そう、この子こそ、エレノアやギンちゃんに続くI-LINEでつながる友人の一人ミスティちゃんと言い、ギンちゃんがヘリオストスで会ったという方の双子の姉。ギンちゃんが会った妹の方は基本口数が少なくおとなしい性格なんだよ。でこっちは基本うるさい方。


 あとアイ姉と呼ばれているけど、私と姉妹関係であるわけじゃないからね?いつの間にかこう呼ばれるようになっただけで。

 前回一緒にやってたゲームでは大砲や銃器を使った遠距離攻撃を得意とする銃騎兵アバターでスナイプ系スキルをたくさん持つプレイヤーでした。機動力が高く、馬上からの狙撃も可能という壊れ性能に泣かされたプレイヤーは多かった。私も初戦ではやられちゃったからね。


 エスではその辺の武器の種類は少ないし、初期から選べるものじゃないから魔法型にしたんだと思うけど、遠距離攻撃の命中率だけ(・・)は相変らず高いね。

 そして性格はかなり元気満々……なはずなんですけど今の様子は元気満々と言う感じじゃないですよね。


 「ここまで来たアイ姉には悪いけど、あの樹齢王は私が一人で倒すよ!」


 ミスティちゃんはこの樹齢王がドロップする装備品を狙ってきたらしい。……倒された情報がないのになぜ装備品をドロップするか知ってるのかって?それはもちろんボスは基本的に何らかの装備品を落とすように設定されてるからだよ。死霊王だって杖を落としてたでしょ?

 それに地壊王と星粘王もそれぞれ羽飾りのアクセサリと、プレートアーマーを落としてたし。もちろんどちらも装備レベル制限があるものだったので私には不要なものだったけど。一応これの装備品はアイテムボックスに保管されてる。バザーに出しても装備レベル制限でどのプレイヤーも装備できないしね。



 「でも見た感じ回復アイテムもないし、魔力も尽きてるよね?回復しながら戦うにしてもあと12時間くらいはかかりそうだけど続けるの?」


 「……うぐっ、それは無理かも!眠いし……」


 ……だと思った。そう、ミスティちゃんは眠いと落ち着いて頭は回るようになるけど、元気がなくなる子なんですよね。さっき買った魔力回復ポーションを上げても今のミスティちゃんだと時間がかかっても倒せないでしょう。

 聞いてみた感じミスティちゃんがまともに戦闘で使えそうなのは炎魔法だけっぽい。せめてエレノアと同じ高威力進化した爆炎やら焦熱魔法を使えたならもうちょっと短縮できるんだろうけどね。……まあそれも樹齢王の攻撃パターンが変わらなかったらの話ね。

 でもミスティちゃんが炎魔法だけしか育ててないとは考えにくいんだけどなぁ。何か隠してるのかもしれないね?私もされたくないから詮索はしないけど。


 「それならここは協力して倒すという事でどう?せっかく削ったんだし、ミスティちゃんも王種を倒したいのでしょ?」


 「……うん、そうだね。実は無理かなぁという思いがないわけじゃなかったし、ここはアイ姉の言うとおりにするよ」


 やっぱり眠いからか聞き訳がいい子ですね。元気モードの時は人の話も意見も聞かない子なのに。まあ眠い時間のミスティちゃんにあえて私としては助かったけどね~。

 とはいえこのままだとメンバー超過でミスティちゃんをパーティに加えられないので、誰を戻すか急いで考える。


 「……クルス戻ってくれるかな?」


 「クッ、クワァッ!?(な、何故だ主殿ぉ!)」


 「誰か戻さないといけないんだけど、樹齢王と戦うにあたりコウガとセツナは必要だし、ティアはシステム上外せないし……ロアンとイリスもそれぞれにしかできない役割があるからね」


 「クワァッ!(な、ならカエデをっ!)」


 「だめだよ?カエデはここで樹齢王を倒したメンバーとして王種の力を奪い取らない(引き継がない)といけないんだから」


 「クワァッ……(む、無念)」


 「……アイ姉……無理にパーティじゃなくてもレイドを組めばいいと思うけど……?」


 レイド……あっ、そうでした。レイドシステムがあったんですね!

 これは王種などの対大型モンスター戦でのみ組めるパーティ同士を組み合わせるシステム。私のフルメンバーと言うパーティとミスティのソロパーティをレイドで組み込めばここに居る全員が参加できると言う訳ね。

 光の領域の最初のイベントでさらっと一回組んだきりだから忘れてたよ。ミスティ、良い情報をありがとう!


 「クワァッ!(小娘よ、大儀であった。感謝するぞっ!)」


 なんかクルスが偉そうだったけどまあいいや。



 「なんじゃ。先日のダークエルフやら、このゴーストの小娘の次の相手は主ら王種か?ワシの領域に入ってくるとは愚かな……たとえ王種だろうがワシの力でミンチにしてくれるわっ!長年王種を続けておるワシの力を思い知るがよいっ。行け、我が眷属たちよ!」


 こうして樹齢王とのレイドバトルが開始されたのだった。

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