124話
「アイリ様っ、しばらく見ないうちにまた強くなられたようですね」
「え?あれ?パーシヴァルさんが何故ここに?」
お互いの会話がかみ合っておりませんね。と言うかお互いに予想外の人物がいたからそうなっただけ。
確かにパーシヴァルさんには砂漠の領地があるという事を話はしましたけど、数ある砂漠の中でもこの東部砂漠であるということまでは言っていないから私がここに居るのは予想外だっただろうし、私からしてもユールから動けないと聞いていたパーシヴァルさんがここに来るのは予想だにしないことだよ。
「んっ??あっ、そうでしたね俺……ではなく僕は大事な用事のために兵力を集めるべく周辺の集落に声を掛けている所なんです。いやっ、まさかここでアイリ様に会えたのはまさに天命。先日頂きましたメッセージについて詳しくお聞かせいただきたいのですが……今お時間の方いいでしょうか?」
ふむむ……、会話の内容と格好(装備)から察するにパーシヴァルさんは何かと戦う事になったようです。
でもこの集落から人を集められると困りますね。集落の人材はまだ増やしている最中ですし……。とりあえず返事をすることと、彼がなぜ兵力を必要としているかを聞かないといけないかなぁ。
「えぇ、時間は大丈夫よ。そうね……この広場じゃ他の人にも話を聞かれるかも知れないから領主館へ行きましょうか」
そういって私が歩き出すと後ろからパーシヴァルさんもついてきた。なんとなく困惑しているような気配を感じるなぁ。やっぱりこれも【感応】スキルが関係してるのかな。
「はっ!しかし領主館ですか?アイリ様がなぜそのような場所に出入りを?」
「言ってなかったと思うんだけど、この砂漠が私の一つ目の領地なのよね」
「なっ!なんですとぉ!?そ、それは存じてませんでした……。(まじで?俺、アイリ様の領地から勝手に兵を奪い取ろうとしてたのか?やばい!バレたら嫌われるのではっ?い、いや、アイリ様なら説明をすれば許していただけるかもしれない!謝罪をするならこの場で……だな)」
「あっ、気にしなくていいですよ?多分ですけど、この集落で募集しても誰も乗り気じゃなかったですよね?」
「はっ、その通りです。なるほど、この集落での兵力確保がうまくいかなかったのはアイリ様の力で守られているからでしたか……。そうとは知らずにアイリ様の領民を奪うような行為を取ってしまった事、謝罪します」
そこまで話したところで私やトリビアがちょくちょく利用している領主館へ到着する。そこには住民のメイドや執事が数人並んでいる。
私としてはこんな対応してほしくないんだけど言ってもやめてくれないからもう諦めてる。代官のトリビアの時は迎えに来ないらしいのにね。
パーシヴァルさんをサロンに案内し、メイドに飲み物を持ってくるように頼む。メイドはいつも通り顔を赤くしてお辞儀をした後、優雅に部屋を後にする。
しばらくしてお茶を持ってきたメイドにお礼を言って下がらせると今まで様子を見ていたパーシヴァルさんが口を開いた。
「やはり、この領の民はアイリ様に心酔なさっているようですね。私程度では勧誘できないのも仕方がない」
「心酔……やっぱりそうだったんだ……」
「やっぱりと言う事は思い当たる節でもおありですか?」
パーシヴァルさんに聞かれたので領地化した後に自分の覇気の威力と範囲を調べるために集落内で力を発揮したことと、それに伴って起きた住民へロヘロ事件について話した。
「なるほど。確かにその覇気もきっかけの一つになったようですが、今の彼らは本当にアイリ様に心酔しておられる。その理由は言うまでもなくアイリ様の領民に対する態度です。領民からの困りごとはアイリ様が自ら動き解決し、かつ(珍しい)資材(私財)を投じて領の発展を応援するその姿に心酔しない領民など出るはずがありません」
「そういうものかしら?」
「もちろんです。僕がこっちに戻ってからユールを治めていた時も住民の声は聞き、僕自身が解決することで、住民たちは秘めていた思いも口にしてくるようになりましたからね。おかげで今回もユールの住民の協力者は多いですよ」
「なるほど……ってあれ?なんで治めてたって過去形なの?」
「あ~それはですね。実は仕えていた王が気に入らない行動をとったので一方的に契約を破棄し、宣戦布告をしたんですよね~」
「えぇっ!?なんでそんなことをしたの!?」
「……それを話すには僕がここに来た理由を話さなくてはなりません」
パーシヴァルさんが話した内容は私に驚きを与えた。
パーシヴァルさんが仕えていた王が私を狙っているという魔人王だったという事。
そのパーシヴァルさんが自分の第二の主候補に決めていた私が魔人王に狙われていることに憤慨したという事。……ところで第二の主って何?いやそもそも、第一の主である魔人王に牙をむくほど私って思われてるの?直球で言われるとちょっと照れるよぅ~。
コホン……そして今は魔人王に立ち向かう戦力を集めるため各所の集落をめぐっているという事。
ちなみに魔人王と戦うにあたり、パーシヴァルさんも相手が今活動期なのは承知している。そしてパーシヴァルさん自身も活動期であり、魔人王の活動期と自分はほぼ同じだから戦うのは今が一番都合がいいらしい。
なんでそうなのかと聞くと心臓病が治り、魔人王と張り合っていたころのような力が戻りつつあるから……だという。だけどそれでも自分一人では魔人王には到底勝てない。だから兵力を集め、私に合流して魔人王を倒そうとしていたんだそうです。
その兵力を集めきる前に私に会ってしまったから先に自分と協力して魔人王を倒してほしいとお願いされたわけですけどね。そりゃ私としても魔人王を早期に倒せるならその方がこの後の行動がしやすいから助かるんだけど……。
「それに私は魔人族の力をすでに一段階とはいえ覚醒済みですので足手まといにはなりません」
「えっと、その前に覚醒ってなにかな?」
「あっ。それはですね……」
「それは私が説明しましょう!」
パーシヴァルさんの声を遮ったのは大河の集落から戻ってきたトリビアだった。お帰りと声を掛ける前に話し始めるトリビア。
「魔人族の覚醒と言うのは魔人族のみが持つとされている太古の力の解放を行う儀式です。その覚醒の儀式には一段階から三段階までありまして、解放するごとに力とスキルが強化されるというものですね。そしてその解放条件と言うのは……」
「自分の肉体を極限まで鍛え上げ、闇の領域にある魔素渦巻く各所で儀式を行うことで覚醒を促すことが出来ます」
最後の締めはちゃんとパーシヴァルさんが口を紡いだ。トリビアは説明途中の口を開いたままがっかりした感じを見せていた。ドンマイ……。
なるほど。パーシヴァルさんはその儀式を一度やっているから普通の魔人族よりは強いと言う訳ですか。ちなみに魔素渦巻く各所というのは単に魔素が濃い場所であるという事なので魔素さえ濃ければどこでもできるらしい。なお、この辺で魔素が濃い場所は……闇の森深遠部にある祭壇らしい。
確かに光の領域でお城攻略中に離れて行動してた時にパーシヴァルさん側に大量の敵が向かっていたのにいつも普通の会話が出来てたっけ。あの時はてっきり敵に会わなかったのかと思ってたけど、会った敵を全滅させてたわけですかぁ。
そうでしたかぁ……当時一人で行動してたのに……。パーシヴァルさん、こわっ!?
「あの?アイリ様?なぜ僕を恐怖対象の目で見るのでしょうか?」
「気のせいだよ?パーシヴァルさんに関しては大丈夫って分かったけど、協力って言うのはどうすればいいの?」
「僕が兵力を集めますのでアイリ様には軍勢と御家族の方々をお貸し願いたいのです」
「うーん、それなら私も一緒に行くという事でいいよね?多分みんなは私が居ないということ聞いてくれないよ?」
「……で、ではロアン殿なら……」
「我か?我は主の言う事であれば聞くが、主が居ない場所では勝手に動くじゃろうな」
いつの間にロアンを呼び出してたのかって?呼んではいないよ?収納の中からでも外の様子が分かるという事から、自分の名前が出たことに反応して声だけを出してきたってだけ。ロアンが入ってからいろいろ収納機能の便利さを気づかせてくれるよね。
「そういう訳だからみんなの力を使いたいのならパーシヴァルさんが私を守ってくれればいいんだよ。出来ないって言うならこのお話は断ることになるけどどうする?」
「無論、命をかけてお守りしますともっ!」
「だそうだけど……ロアンたちは問題ない?」
「よいじゃろう。我らが主を守るというのなら我らの力も貸してやる。コウガ達も強い相手と戦えると知り嬉しそうにしておるぞい」
もちろん私にはルドラと言う現在最強の壁が居るので物理的には大丈夫だろうし、私も封印以外の状態異常と魔法攻撃には強いから大丈夫と思う。
私がパーシヴァルさんに頼む守りとは魔人王の事を良く知るパーシヴァルさんにしかできない守りの事。
私は魔人王がどんな攻撃を得意にしているかも、どういったスキル構成をしているのかもわからない。だからその辺をパーシヴァルさんから仕入れる予定なのです。
「ですがまだ活動期が終わるまではしばらく時間があります。その間にアイリ様には僕が見つけた王種を倒し力をつけていただきたいのです」
お、王種!?いいよ?倒せる相手なら倒しに行くよ!?と言う気配を一瞬だけ浮かべた私。
パーシヴァルさんはそんな私に苦笑しながらも続けた。
「僕が見つけた王種は魔粘種の王種で星粘王と言う名です。住処は闇の領域南西にある海岸エリアの東西南北に広がる海洋系ダンジョン内部です。魔粘体の王種は分裂してその各所に滞在しており、すべてを倒したその場に本体が現れるようになっています。
僕も挑んでみましたが残念ながら僕の力と技術では魔粘体との相性がよろしくなかったので撤退を余儀なくされましたが……。
ですが、アイリ様のご家族でしたら魔法にも優れていますし、既に王種のロアン殿もいらっしゃいますので心配はないかと……」
ほぅほぅ、新しい王種の発見かぁ。星粘王……いかにもキラキラしてそうな名前だね。地壊王は仲間にし損ねたけど星粘王なら仲間に出来るかな?テイムの強化もされたし勧誘イケるはずだよね!
「あっ、そうでした。海岸エリアには新しい港街 《シーホルン》と言う町がありまして、そこでしたら魔人王も吸血王の影響もないのでいろいろと安心かと思いますよ」
えっ?大きな町があるの!?それはいいことを聞いたよ!早速準備していこう!
「えっ?もう発たれるんですか?(できれば僕と二人っきりで話し合いをさせてほしいのですが……なんて言えない自分がつらい…)」
「新しい街が私を呼んでいるからね!出来るだけ早く星粘王とか言うのを倒してくるからパーシヴァルさんは兵力の増強お願いね。私の方も軍勢による配下を増やしておくから」
「はいっ!お任せください!あっ、そうでした。アイリ様の配下の軍勢モンスターのランクと総数は何体程に?」
「ん?配下は~えっとね、ランク7の将軍職が50体で、ランク6の部隊長クラスが200体……ランク4と5が残りの1750体……合計で2000体かな?まだ配下を400体増やせるけど……少し前に地壊王を倒したおかげで呼び出せる配下の種族が増えたからねー。ラッキーだよ~」
「……はっ?えっ?あのぅ~アイリ様、冗談……ですよね?」
私が軍勢スキルの詳細を見ながら答えると鳩が豆鉄砲を食らったような顔をして驚くパーシヴァルさんの姿があった。
「え?本当だけど、もしかしてうちの子達じゃ弱すぎた?もっと鍛えた方がいい?」
「い、いえ。そうではなく、アイリ様の軍勢の配下だけで今の魔人王を倒せるかもしれません……いえっ、高確率で軍勢戦であれば勝てるでしょう。魔人王本人が出てきたとしても五割以上は勝てるかと……」
「えっ?それこそ冗談だよね?」
今度は私が驚く表情を見せる番である。そんな顔を見ながらパーシヴァルさんは顔を赤くしながら答え……ようとしたところで、またしてもトリビアがインターセプトしてくる。
「残念ですが本当ですよアイリ様。私も今アイリ様の配下についての話をお伺いしましたが、現在の王種の基本ランクは6です。魔人王が活動期の影響で仮にランク7になっていたとしても、アイリ様の軍勢だけで事足りますね。予想を超えてランク8だった場合は……半分近くは蹴散らされるかも知れませんが深手を負わせることはできます」
「えー、軍勢って……私の軍勢ってそんなに強かったんだ。もしかして私の家族が戦うより強いの?」
「そ、それは聞き捨てならんぞ主よ!わ、我ならば主の軍勢を蹴散らせるぞっ!(多分……きっと。できるはず……じゃ)」
ロアンが会話に参入してくる。……珍しい事にものすごく焦った様子で。
「大丈夫だよ?ロアン。軍勢の方が全体的に強いんだとしても私が一緒に居たいのは家族である皆なんだから」
「う、うむ。そこまで我らの事を思ってくれているのなら問題はないのじゃがな……(危ない危ない。まさかこんなところで事実に気づかされてしまうとは思わなんだわい……トリビアと言うダークエルフ……要注意じゃな……)」
「ふふっ、もちろん配下となったモンスターの場合、能力は本来より下がりますが、そこは数でカバーできますからね。ですがそこに役職付与まで出来るとなればその低下も気にならないものになりますよ。役職を付与された個体は本来の力を発揮できますからね」
って事は私って実際にコウガと同等以上のランク6以上のモンスターを250体使役してるってわけ?……自分のことながらすごいねぇ。だからってロアンに言った通り、コウガ達を見捨てるなんて在り得ない。配下は配下で可愛い存在だけど家族であるコウガ達とは私の気持ちの比重が違うからね。
でもまあ、これからの戦いでは遠慮なく軍勢スキルも使って大丈夫そう。なんてったって、パーシヴァルさんや、トリビアのお墨付きなんだし。暗闇の山とかカタコンベで配下を鍛えておいて正解だったよ!
その後も三人で近況報告などをしたんだけど、一番印象に残ったのは最後にパーシヴァルさんから魔人王を倒した暁には自分を家族にしてほしいと懇願されたことだよね。
もも、もしかしてこれってプロポーズだったりするの?だって魔人族だよ?確かに私のスキルには魔人族からの好感度表示があるけどさ……これっていいの?




