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107話

 最下層にはボスは存在せず、一つの宝箱と大きな石の台座があるだけだった。

 宝箱の中には《古の物語の欠片(5)》というものが入っていた。宝箱の中身を回収し、石の台座を調べると宝箱から入手した《古の物語の欠片》と同じようなものがいくつか納まっていた。


 「どうやら、この欠片を台座にはめることで何かが起きるみたいですね」


 ゼリンが思ったことを言う。もちろん私もそういうものだとはすぐに思いついたけどそうだねと返すことは忘れない。ちなみにゼリンはこの階層では戦闘がなさそうなので丁寧な言葉遣いに戻っている。


 「早速欠片をはめてみよう」


 「そうですね。それじゃあアイリ、お願いしますね」

 

 ゼリンの意思も確認したうえで手に入れたばかりの欠片を台座にセットするが、ぶっちゃけハメる位置がわからない!どうやら台座に嵌まっている他の欠片の位置とかが違うものがあるらしい。


 「アイリ、悪いけど私はこういう頭脳系は苦手ですからあとはお任せします!」


 えぇっ!?私もパズル系はあんまり得意じゃないんだけど……。まあやるだけやってみるけどさ……。

 その後、位置を替えたり向きを変えたり三十分くらいかけて何とか形にはなった。アイテム自体に番号が振られてた時点で何となく気づいていたけど、どう見ても欠片の総数が足りてない。手に入れた欠片と元からあった欠片の大きさを考えると少なくともあと四つは足りないのだ。


 「へぇ、欠片の数が足りないんですね……。っていう事はアイリー、どうすればいいのでしょうか?」


 「欠片がこのダンジョンで集まるなら探せばいいけど……他の場所にある場合、時間が無駄になるんだよね。だからこういうのはさっさと掲示板にあげてプレイヤー皆で《古の物語の欠片》の情報を集めた方がいいと思う」


 とはいったけど、このダンジョンはアサシンギルドに情報を提供するために隅々まで歩きまわったし、道中に隠し通路があるかどうか、ゼリンに聞いて確かめたんだよね。だからたぶんこのダンジョンの中にはないと思う。


 「確かにそうですね。わかった。じゃあこの情報は私の方で掲示板にあげておきますね」


 こういうの好きな人が欠片集めをするかもしれないから共有できる事は共有しておいた方がいいと思うんだよ。


 「そうなると、もうここでやれることは無いから、ダンジョン探索終了だね。あっ、掲示板にあげるならSSを撮っておいた方がいいよ」


 「大丈夫。それはアイリが入れ替えをする前と後の両方をすでに保存してあります。ついでにもう掲示板にも載せ終わりました」


 「おぉ……仕事が早い。それじゃ、ダンジョンを出て昨日の分と今日の分の狩りの成果を清算しちゃおう」


 「別にこれはアイリへのお礼だから清算しなくても……」


 「ダメ!こういうのはちゃんとしないと」


 「うっ、わかりました……」


 以前プレイしたゲームで清算をしない人がいて金銭関連ですごく問題になったんだよね。ほら戦闘で消耗した分の補填(経費とか?)したい人が多いじゃない?やっぱり知り合いでも野良でもパーティを組んだ以上然るべき報酬は得るべきだもん。

 ゼリンが言うにはこの十層にも転移ポートがあるみたいなのでそれを使い脱出を果たした。


 「清算だけど対象はモンスターから得た素材とダンジョン内の宝の分け前って感じでいいよね」


 私としてはダンジョンの十層までのモンスターデータとマップ情報などが揃ったので言う事は何もない。六層のイカから出たドロップ装備に関しては私が鑑定士に依頼し、結果が出てから連絡を取り、清算するという形になりました。


 「あっ、そういえば昨日四層でPKから得たものはどうするの?」


 「それに関してだけどPKから得たものはランダムでその人個人へ与えられるものだし、含めなくてもいいと思うけど……」


 「そうなのね。わかった。それはそうとアイリがPKから得たものって何だったの?」


 「私の?えっと、普通のツインダガーだね。多分うちのルドラが倒したPKからの分かなぁ」


 「へぇ?私のは盾だったよ。性能はいいんだけど私は盾系のスキルがないし、いらないんだよねぇ」


 ゼリンは手に入れた盾はすぐにバザーに流してお金に変えるつもりみたい。私のツインダガーはティアに渡して【魔導付与】の実験材料にしようと思う。

 そのまま清算は滞りなく終了し、次の目的へと頭を切り替える。その目的とはもちろん高原エリアで覚えることができる【騎乗・馬】のスキルである。馬自体は持っていないし、仲間にもしていないけど、せっかく誰でも取得できるものなんだから得ておきたい。


 「アイリ、また機会があれば一緒に組んでくれる?」


 「もちろん、いいに決まってるじゃない」


 こうして私とゼリンはダンジョンを出てすぐの所で別れた。


 ここに居ても邪魔になりそうだから移動しようとすると、これからダンジョンに向かうだろうプレイヤーパーティからいくつか質問されたのでそれに答えていく。まあ大抵は三層の魔粘体地帯のスムーズなクリア方法だけど、それはもう掲示板の方で話題になっているのでそれ以外の攻略法は今の所は無いと返答しておきました。

 それ以外にも自分達の攻略を手伝ってほしいとかそういうお願いもあったけど笑顔を浮かべつつ、丁重に御遠慮させてもらいました。


 ついでに……と言うとなんだけど、私が笑顔になる事で称号の効果で引き起こされる魅了の状態異常も調べたかったので丁度よかったって言うのもある。こういう風に不特定多数のプレイヤーが沢山いるうちに試しておけば、誰がこの状態異常を引き起こしてるのかわからないだろうし。


 だけど、予定外の事もあった。効果範囲ぎりぎりのところで狩りをしていたプレイヤーが魅了による行動不能に陥り、戦闘してたモンスターに殺されちゃったんだよね……。

 このせいで一時的に高原エリアでは突発的な状態異常による死亡に注意というコメントが流れることになる……。軽い気持ちで行った実験が大変な結果になった。この先の暗闇の山にはこれと同じくらい厄介な地形効果があるんだし大丈夫だよきっと。

 なんて言い訳をしたけど、やっぱり今の私はこの魅了の力を垂れ流しにしてるようなモノなので、抑える努力をしないといけないみたい。放置してたら街を歩けなくなりそうだしね。


 ちなみにこの魅了による事故に関しては、PKのように相手を特定して発動したわけじゃないのでPKに当たらないんだって。

 ほら、PKって出会ったりした相手を認識してから攻撃行動に入るじゃない?その行程が私の魅了にはないからって事なんだってさ。あっ、でもちゃんと魅了する対象を決め、その魅了された相手が殺される直接の原因になった場合は私自身がPKした犯人と判定されるんだとか……。



 ダンジョンから離れて数分。高原の集落に立ち寄り情報を集めると少し離れた場所に牧場があるという情報を得たので向かう。

 放牧地には高原に出現するダークホースという馬のモンスターが放牧されているが、敵勢モンスター扱いではないので戦って倒すことはできない。


 「おや?君もウチの牧場の見学かい?」


 馬たちを見ていると話しかけてくる人が一名。つなぎとかを着ているから多分この人が情報にあった騎乗スキルを教えてくれる住民ひとなのだと思う。


 「そうですね。集落でここの噂を聞いて来たんです」


 「なるほど。じゃあ君は騎乗体験希望の冒険者だね?」


 「そうです」


 「……うん、君なら馬たちにも好かれるだろうし……いいだろう、ウチで訓練していくと良いぞ。だがそのためにもいくつかこちらからの頼みを聞いてほしいんだがいいだろうか?」


 「もちろん大丈夫ですよ」


 牧場の住民はその返答を聞くと頷き、私にクエストの提示をしてきた。


 《牧場にいる馬たちのエサを集める》

 《牧場の馬を狙って現れる不届き者の討伐》

 《牧場の馬との信頼度の形成する》

 《すべての依頼をクリアした時、スキル【騎乗:馬】獲得》


 まず最初の方は馬たちのエサとなる牧草を採取すればいい。その牧草も高原の通常の採取ポイントで得られる素材系アイテムなので問題なく集められると思う。牧場周辺の採取地って一箇所しかないから、争奪戦が激しいらしいんだけど……情報自体が出て結構たつしもう大丈夫だよね?


 次の不届き者退治というのが、普通の山賊だったり亜人系の魔物の群れだったりとその時によって相手が違うらしい。掲示板によると一番遭遇しやすいのはやはり亜人種モンスターの群れで、次点で山賊だった。


 最後の信頼度の形成というのは牧場の馬に好かれるようにコミュニケーションをとれって事だと思う。通常通りブラッシングなどをするのもいいけど最低でも数日かかるらしいのよね。一応短縮できそうな裏の方法も一つ考えてるけど……まあクエストをするときに考えよう。

 ちなみにブラッシングする以外にも馬の好物集めとか、遊びに付き合ってあげたりすると良いらしい。その為にも色々な所を行ったり来たりする必要もあるんだってさ。




 そういう訳でまずは牧草集めだー!……おわったぁぁ!(早っ!


 採取ポイントには予想した通り、狙いが同じプレイヤーが何人かいましたけど、私が牧草が欲しいんですと言ったら男女問わず赤面しながらも手持ちのものを譲ってくれました。一度は断ったんですけど、相手も「どうぞどうぞ」と全然引いてくれなかったので貰っちゃえって事でいただきました。この牧草採取地の滞在時間はわずか十分ですね。

 あっ、もちろん牧草を提供してくださった皆さんにはしっかりお礼を言っておきましたよ?なぜか握手まで求められたけど、ちゃんと神対応?しておきましたし。……私って何様だろうね?

 それにしてもまた魅了が発動しちゃってたのかもしれない。厚意がうれしくて微笑んだ顔を見られただけで駄目なんだったら表情が隠れるようなファントムマスクとかフード付きローブをまとわないといけないかもしれないなぁ。ティアが作れればいいんだけど合成で作れるのかなぁ?


 もしティアが作れないのなら他の生産系プレイヤーにお願いするしかないけど……。あっ、そういえばヘリオストスにあの子がいるはずってギンちゃんが言ってたっけ。PKに狙われる程の良い装備を作れるのなら探してお願いしてみよう。会いたいっていう理由もあるしね。


 「マスター!人探しですね?私に任せてください!」


 しまった……。独り言をティアに聞かれた……。成長したティアに頼んだりしたら余計な情報まで入ってきそうで怖いんだけど……まあ今の錬成が終わったら情報収集に行ってもらいますかぁ。

 あれっ、でもプレイヤーの情報は集められないって説明されたような気がするんだけど……。まいっか。



 次に不届き者退治だけど……例に挙げたどちらでもなく両方だった。山賊と亜人モンスターの群れの両方が来たんだってばよ!?

 亜人族系モンスターであるブラックゴブリンには遠慮なく覇気を使い魅了。その魅了したモンスターで山賊を討伐し、残ったモンスター達は配下へ勧誘することで依頼終了。クエストで出現するとは言っても所詮は通常モンスターだからね。こんな感じで私の手を汚さずにクエストクリアです……どうかな?悪役っぽいし魔王っぽくもあるよね?



 さてさて、最後の牧場の馬たちとのコミュニケーションだけど……

 馬用ブラシを借りて近寄ろうとしたら、なぜか馬たちが逃げる逃げる。……解せないっ!


 「のぅ主よ、ワシらがいたら馬たちは寄り付かんと思うんじゃが?」


 ロアンからの苦言があった。あぁ、目からウロコってやつじゃないかな?猛獣っぽい子たちを連れて馬に近寄るとか逃げられても仕方ないよね。でもロアンもセツナも見た目だけで怖い子達じゃないんだからね?


 皆を収納に戻し、しばらく時間をおいてブラシをもって近づいてみると今度は逃げられなかった。

 赤毛・青毛・黒毛・白毛・栗毛と様々な毛色の馬たちの鬣をモフりながら、体にブラシをかけていく。馬たちの体をしっかり堪能したところで、覇気を発動。先ほど言った裏の方法がこの覇気の事。馬たちからの信頼度……いえ、好感度が上がり切っちゃいました。


 「まさか一日でうちの馬たちの信頼を勝ち得るとはな……脱帽だよ。じゃあ早速懐いた馬たちの中から一頭選んで騎乗の練習を始めようか」


 牧場主が驚きの表情を浮かべている。ここまで早く馬達に認められた人はいなかったらしいね。さすが覇気様様さまさまだね。


 「やったぁー」


 私が選んだ練習用の馬は黒。私の銀髪と対象の感じだったから。黒い馬に銀髪ってなんとなく映える気がするでしょ?

 練習する事二時間経過。なんとか馬に乗れるようになり、走らせることができるようになった。だけど勘違いしないでほしい。普通ならこんな早く乗れたりしないから!この辺はきっとゲーム補正だよ、おしりも痛くならないし。その辺は馬が気を使ってくれたに違いない……。


 「良いだろう、合格だ。これで今から君はホースライダーだ!」


 《プレイヤー:アイリが称号【ホースライダー】を得ました》

 《プレイヤー:アイリがスキル【騎乗:馬】を習得しました。以後スキルを使用することで馬を呼び出し乗ることができます。馬に乗るとフィールド移動速度が増加したり、歩きでは侵入不可能なエリアへの侵入が可能になります。※注:町の中では騎乗することができません》


 やりました。なんとか午後までにスキルを得られた!ていうか騎乗スキルすごっ!?


 「ところで……だっ。君さえ良かったら騎乗用に馬を一頭買わないかい?」


 「買いますっ!!」


 牧場主さんからの提案に一も二もなく返答した。お金ならあるしね!

 ちなみに私が購入したのは練習に付き合ってくれた黒い馬であることは言うまでもありません。ただ乗るために呼び出すのでシステム的な名前を付けたりはできないので、呼び出した時に適当に呼ぶことにしよう。どんな名前がいいかな?騎乗用の馬だけにシルバーとか?あっ、これは私の髪の色と同じだからダメっぽい。かといってブラックもそのまま過ぎてなんか呼びづらい……ほら私のネーミングセンスを疑われるとかそんな感じ……どうしよう。


 でももう実家に行かないといけない時間だった。今回はここまでにして帰宅後にじっくり考えよう。

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