106話
翌日、いつも通り早朝に起床し身だしなみを整えてからログイン。
なぜ身だしなみを整えているかというと、一人暮らしを始めてもうすぐ三カ月たつのでそろそろ両親に報告がてら昼過ぎに実家に帰ろうと思ってるの。それに今行っておかないと大学も始まっちゃうしね。
とりあえずゼリンとの待ち合わせはあと一時間ほど後だから、その間にいろいろ確認をしちゃおうと思う。
「マスターから預かった素材を錬成した結果、いくつか良さそうな素材を作る事が出来ました。なお全体的な成功と失敗の割合は2:8程度となっております。申し訳ありません」
ログインして早々ティアからの報告を聞く。私としては成功が二割もあっただけすごいと思う。
だって私が渡した素材って事はこの高原で採取できるなかなかアイテムランクの高い素材って事だよ?ヘリオストス周辺地域である高原の素材で成功率二割もあるなら上出来だよ、ほんとに。
そんな労いの言葉を言っておきました。
「お褒め頂きありがとうございます~!もっと褒めていただけるようさらに精進しますね!」
とは言うものの失敗だと経験値がほとんど入らないから、一旦闇の森まで戻って扱い易い素材を集めておいた方がいいかな?あっ、わざわざ戻らなくてもバザーがあるじゃない。
まだまだユール辺りにはプレイヤーが多いはずだし、闇の領域の新規プレイヤーも参入してきているはず。という事はあの辺の素材がバザーに並んでいてもおかしくはない!
そう考えた私はすぐにバザーの画面を開き、闇の森で採れる生産系素材を購入していく。お金はあるんだし、こういう時にパッーと使わないとね!
とりあえず並んでいる素材を安い物から順に購入していき、数を稼いだところでティアに渡す。
私からの無言のエールを受け取ったティアは「マスター、私、頑張りますっ」といい錬成するべく収納へ戻っていった。
ここまで来ても約束の時間まで四十五分くらいあるので、獣型三人衆 (コウガ・セツナ・ロアン)を呼び出しモフモフタイムへ突入した。
「主よ……そ、そこはダメなのじゃぁ。ゴロゴロ……ニャファァ~ン(ビクンッビクンッ……)」
真っ先に陥落したのはまさかのロアンだった。
うーん、ロアンはモフリによる快楽耐性が低いみたいだから長い時間をかけてしっかり調きょ……じゃなくて教育しておかないとね。王様だったから毛繕いとかよくされてたのかと思ったけどそういった経験は少なかったんだねぇ。今回みたいに早々に脱落されたら、落ち着くまで軽く撫でるくらいしかできないもんね。
その点、長い付き合いのコウガとセツナは慣れたものだ。的確に喜ぶポイントを刺激していくと、さりげなく転がったり伸びをして位置をずらしていく。それに気づいた私が抱き付いて続行すると「キャフキャフッ~」とか「クルォーン……」という悩ましげな声を出すんだよ。
そういう声を出したら私のモフリ本能が刺激、抱き付き行動に移るため手が止まることを計算に入れているのが始末に悪い。いや、そこが可愛い!
「おはよう、アイリ!……ってなにやってるの……」
そうこうしている間に約束の時間になってしまってた!くぅ~、モフッてると時間がたつのが早くて困るよ。
「あっ、おはよう、ゼリン。何してるかって言われたら皆で遊んでるっていう感じ?」
「そ、そうなんだ?ところでそっちのおっきい子、昨日は見なかったけどその子もアイリの?」
「そうだよ。一番最近仲間になったロアンっていうんだ。可愛いでしょ~?」
ゼリンがロアンを見ながら質問をしてきたのでそれに答える。ちなみにロアンにはゼリンがいる時は極力しゃべらないように言ってあるので、よほどのことが無い限りは大丈夫だと思う。
「そう……ね?でもダンジョンに連れていくには大きすぎるかな?」
なんでゼリンが首をかしげたのか理解できない。ロアンも何か不満そうに私をツメでツンツンしてくるし……。どう見てもロアンはかっこよくて可愛い子……あっそうか。
「カッコイイ子の方で紹介してほしかった?」
「グルァッ!」
そっか。確かに王種ともあろうものが可愛いと紹介されたら戸惑うよね。不満があるのにロアンったらちゃんと私の言いつけを守って、言葉を出さずにいる……いい子だね!
……まあ後で文句言われそうだけど、それはいいか。
とりあえずゼリンにはロアンを連れて行かないことを告げている。本日の探索メンバーはコウガとセツナは固定でルドラを連れて歩こうと思ってる。
コウガ達がレベル上げに専念するためにも、私の守りを固めておかないとダメだからね。
と言う訳で戻ってきました五層の転移ポート。半信半疑だったけどほんとに戻ってこれるんだねぇ。
これから先ダンジョンに行くことがあればこういうのを探すのもいいかもね。毎回一層目から目的地まで行くのが面倒になるかもしれないし。だけどゼリンみたいに隠されたものを探すスキルとかがないから全部手さぐりになるのもちょっとなぁ。
あっ、そうそう、転移ポートにも【転移】スキルに使える転宝石(永久使用可能な方)らしきものが付いてたけど取り外すことができなかったです、無念。そう上手くはいかないと思いました。
「それじゃ行こうっ」
ゼリンとともに六層への階段を降りるとそこには鍾乳洞が広がっていた。所々に水溜りがあり、その中からモンスターが飛び出してきたり、深すぎて嵌ったらまずそうな場所もあった。後者は具体的に言うと死ぬかもしれない。水中行動系スキルがないと上がれなさそうだよ。
残念ながら私たちはそういうスキルを持っていないので水溜りがある所は大きく迂回して危険を回避した。ただ水が関係しているという事で臨時メンバー扱いでイリスを呼んでおいた。イリスがいれば水溜りの中からモンスターが出て来ても大丈夫!
「クポォ~クポー!!」
そのイリスが間もなく七層に降りる階段があろうかという部屋の手前で停止し、注意を促し始めた。
ゼリンがいなかったらロアン先生の通訳でイリスの言ってることがわかったんだろうけど……。
たぶんイリスは部屋の中に何かが居ると言っているのだと判断した私はゼリンにそのことを伝え、注意しながら部屋の中に足を踏み入れた。
部屋の中には中心に大きな池が一つとその周りに十個の小さな水溜りが存在していた。小さなと言っても私たちが嵌れば生きて戻れそうにないサイズですけど……。
ザッバァァン!
私たちが池に近づくとその中から現れたのは頭に三角のひれがついてる触腕と腕が合わせて十本あるウネウネしたアイツ!そして食べたらおいしいアイツ!
「ここでボス戦ね。アイリー、どうする?」
「うーん、とりあえずイリスに任せてみるから、ゼリンはボスの行動を覚えて対応できる様にしてほしいな。私は他の子にも指示を出して相手の行動を引き出してみるよ」
「わかった。任せといて!」
「クポァ~!」
私の言葉を聞いていたイリスが池に現れたイカのボスに向かって突撃していく。使っているスキルは【豪・突撃】と【重撃・乱打】だ。なんで魔法の方が得意なのにいきなり物理攻撃から行くかな?あの子はっ!
イリスの【豪・突撃】で体当たりの威力とその速度が増加し、そこから次のスキル【重撃・乱打】へつなげることでコンボボーナスのとっかかりが発生する。このコンボボーナスはプレイヤー間でも発生し、その条件は攻撃を食らわずに一定時間内にたくさんの攻撃を当てる事。
コンボが発生する前でも、発生後でも敵の攻撃をコンボに参加した誰かがダメージを食らえば途切れてしまうし、コンボへつなげる時間にも制限があるので連続でつなぐのは非常に難しい。
「イリス、もうすぐコウガが行くからそれまでコンボが繋がるようにがんばって!」
「クポォー!クポックポックポクポォァァ!」
さらに激しいヒレビンタ(ただし威力はそこまで高くない)がボスにヒットする。そのヒレの速さは某世紀末に出て来そうな何とか拳と見間違いかねない。ボスのイカも文字通り手足も出せずに殴られ続けている。
「ワオンッ!」
ここで追いついたコウガが【乱れ爪牙】を使う事でイリスからコンボ役を引き継いだ。
後退する前にイリスはコウガに光魔法のステータスロックの魔法をかけ帰還した。ステータスロックというのは一定期間状態異常を防御する魔法だ。イカってスミを吐くし、それにボスなんだから毒とかが含まれていないとも限らないでしょ。用心に越したことは無いのです。
「グルルッ……ガウッ!」
セツナも氷魔法を使うことで氷の魔法の追加効果である鈍足を狙っているみたい。鈍足になったら動きが緩慢になるからコンボを狙いやすくなるんだよ。この辺もキャンプでいっぱい練習したなぁ。
あっ、ここまできてやっとイカが腕を出してきた。やっぱり周りにある十個の穴はそういう使い方をするんだね。ボスがイカだと知った時点でそうだと思ってたよ。
「ゼリン、悪いけどセツナの魔法で触手の動きが鈍ってると思うからその触手たちの相手をお願いしたいんだけど……いい?」
「そろそろ暴れたかったから引き受けますっ!行くよぉっ【飛天】っ!」
ゼリンは槍のスキルで習得した特技というかアーツ?を使う。魔法もだけど武器系スキルで覚えるアーツは魔力を消費するので何度も使いたかったらINTを上げておかないといけないんだよね。
ゼリンは高く飛び上がり一番動きが遅い触手目掛けて落下。ドガッ!グシャッ!という感じの音とともに触手の一本を破壊したみたい。ゼリンは次のターゲットを見て飛天を使い続けている。
あとで聞いてみた所、飛天は消費魔力が少ないからメインアーツにしてるんだって。それ以外の理由として上から落ちる時の爽快感がたまらないとか言ってたかな?ゼリンは高所好きって事だね。ちなみに私はそこまで好きじゃない。
まあ、触手の相手はセツナとゼリンに任せておけばいいよね。で、本体のイカだけど……あら?まだコウガのコンボが繋がってて攻撃行動をとれてないね。攻撃を止めるための触手はゼリンに倒されていくから本体が攻撃行動をとれないっぽい。見る見るうちに体力を減らすボスのイカ。
「ワオォ~~ン!」
攻撃しながらコウガが咆哮を使う。どうやらとどめを刺すという意思表示らしい。そういう意思がなんとなく感じ取れた気がした。
結局ボスのイカはまともな行動などなに一つせず倒された。レベルが上がるほどじゃなかったから、経験値はまあそれなりってとこかな?ドロップアイテムは未鑑定の武器と装飾品が一つずつだね。町に戻ったらまたあの上級鑑定士に持っていこう。
「お疲れ、皆。それにゼリンも」
「ワフンッ!」「グルルゥ」「クポッ!」
「あのイカ、深いところで出る割に大したことのないボスだったみたいね」
「そうだね。六層に出るくらいだから強いと思ったんだけどね~」
なお後日、ゼリンが別のパーティとこのイカ退治に向かうとあっという間にボコボコにされ負けたらしい。その時のイカは、複数の腕を使い縦横無尽な軌道のぶん殴り攻撃とスミを吐いてこちらの攻撃命中率を下げてくる攻撃をしてきたらしい。
そのことを聞いたあと私もソロで潜ったけど、やっぱりコンボでハメた事でイカは何も行動できずに倒せた。やっぱり鈍足効果とコンボによるハメは大事だってことだね。
イカを倒した私たちは次の七層から九層まで踏破し、最下層らしい十層にたどり着いた。
アサシンギルドから受けた二つの依頼のうちの一つであるダンジョン情報集めが終了するまでもうすぐだね。




