99話
「ただいまもどりましたぁ」
あれから三日過ぎ、ロアンからきいた大河の集落周辺ダンジョンの探索から戻ると同時にヘリオストスで情報収集をしていたティアが戻って来ました。
その顔には何となく疲れた表情が見えなくもないですが、お肌は相変らずテカテカのツヤツヤで羨ましい。というか出る前よりそうなってる気がするけど気のせいに違いない。
「それではマスター、集めた内容の報告の方をさせていただきますね」
「そうだね。とりあえず私が聞きたいのはアサシンギルドについて、転移に関するアイテムの情報、あとは王種……特に樹齢王について……って所かな?あっ、ヘリオストス周辺で私の配下を増やすために強そうなモンスターの情報もあればお願い」
「わかりました。では報告をさせていただきます!」
ティアから聞いたのは次の通り。
アサシンギルドはその名に恥じないようにヘリオストスの裏を一手に引き受ける強大な組織だった。ティアが言うにはその中の一人の男性と仲良くなったので、連絡を取れば渡りをつけてくれるってさ。それにしても仲良く……ねぇ?まあいいけどさ。
次に転移石や転宝石についてだけど、転移石は経年で劣化したり破棄された町の転宝石の残骸をヘリオストスにある裏っぽいお店で買えるらしい。ただし値段はかなり高い模様。転移石で高いって言うなら転宝石はいくらなんだろうね?とりあえず値段は高いという以外時価らしいので店に行ったときに確認することにしよう。
転宝石のありかについてはロアンからの情報も伝えてあったのですぐに情報が集まったとのこと。
そのダンジョンの名前は海岸エリアにある《闇渦巻く深殿》とかいう場所で以降深殿と呼ぶことにする。その場所にいるモンスターは地上などとは比べ物にならない為、冒険者のランクがかなり高くないと入ることができないんだってさ。残念でした~。
あっ一応言っておくけど神殿ではないのであしからず。
王種に関しては様々なものがあった。わかった王種の種類だけでも樹齢王、駆導明王、四魂王、地壊王という四種類の情報があった。なお、駆導明王(魔動機種)と四魂王(魂種)に関してはその種族についての知識をどこかで得ていないと情報を集められないんだって。ティアの場合、私の仲間だから私の知るそれらの存在についての情報も集めることができた……っぽい。出現場所についてわかったのはこの中の二種類だけで、挑むのはまだ先ですから頭に入れておくだけにしよう。それにしてもティアの情報収集力の根源……気にしたくないのに気になりすぎるわ~。んー、でもマスターとして仲間を信じてふんぞり返っておくのも大事なことなんだよね。
それぞれの特徴は、樹齢王は言わずもがな巨大なトレント系の王種で当然移動も可能、駆導明王は様々な機械で組み上げられているマシンゴーレム系……ガン○ムとかマジ○ガーとかそういう感じっぽい。
四魂王に関してはその姿を見る前に洗礼攻撃で冒険者たちが全滅させられたり潰走したらしく正確な姿は伝わっていない。ただ、状態異常系の魔法や闇系統の魔法が得意だという事だけは分かった。
地壊王というのは名前からすると地面で蠢いてる感じのするモンスターだけど、実は魔鳥種のモンスターで、姿のイメージを聞くと暗闇の山に出現した憎きズーという怪鳥に似てそう。見つけたら遠慮なんかしてやらない!
まあ今回一番のネックになる樹齢王に関しては、今迄に挑んだ冒険者が多かったらしくそれなりに情報を集められた。戦闘方法もエレノアから聞いた内容と被っているし信じてもいいと思う(どっちを……とは言わないけどね)
最後に配下にするモンスターに関してはこの数日の間に新しいダンジョンが常闇の高原で発見されたみたいだからそこがおすすめだって。出現するモンスターの種類は主に魔粘体や魔蟲、稀に物質といった感じ。住民の冒険者やプレイヤー達もこぞって潜っているらしいけど、通り抜け難いエリアがあるらしくて攻略が止まっちゃっているんだって。私ならセツナやロアンがいるなら余裕でしょ~。
それにとうとう蟲系からの印象が好感になったことだし、配下の数が少ない魔粘体も含めていっぱい勧誘しちゃおう。
「なるほどね。ティアご苦労様」
「いいえっ、マスターの力になれたのでしたらよかったです!また情報を集める際には私に申してください」
「わかったわ。また何かあったら頼むことにするね」
とりあえず分かった中での優先順位はどうしたらいいだろう。大河周辺の探索も大方終わったし、一旦ヘリオストスに戻って転移石を買う事から始めようか。そのあとにアサシンギルドのイザベラに会って常闇の高原に移動、騎乗スキルとダンジョンで勧誘、その子たちが育ち次第樹齢王ってとこかな。よぉーっし、頑張ろう!
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「おい、さっきの美女みたか?」
「あぁ……さっきのテ……黒い羽の生えた人の事か?」
「そう、それ!ここ数日でいろんなNPCに話しかけては腕に抱き付いて仲良さげに歩いていくんだぜ?」
「マジか?まあそういう事もあるよなぁ。で、それがどうしたんだ?」
「あぁ、許せないんだよなぁ……NPCのくせにあんな美女に構ってもらえるなんてよ」
「……確かにそうだけどさ、それ単にお前の僻みだよな……」
「そーだよっ。悪いか?俺だってあんな美女に一度くらい胸を押し付けられたい……」
「モテないお前には無理な話だよな……」
「そうモテない俺には無……ってマテやコラ。何故おまえ自身を含めてないんだよ?ま、まさか……?」
「い、いや別に?俺は間近で天使のような笑顔を見たこともないしあの柔らかいお胸様になんて触れたことも朝チュ○なんてことも無い……ぜ?」
「なっ、おまえっ!柔らかいって……堪能したのか?アレをぉぉ?」
「なな、何のことだか分らんなぁ?さ、さてと俺は急用ができたからここで失礼する。ではなっ!フヒッ」
「ま、まて!くわしい話をぉぉ!!」
ヘリオストスのある町の一角でプレイヤーの男とプレイヤーに扮する住民の一幕があった……らしい。この男性プレイヤーは最後に謎の笑い声をした相方が実は住民だったということに気づくのはいつになるのだろうか。
そしていろいろな人と腕を組んで歩いているというその噂の美女とは一体誰なのか……(笑)
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「お待ちしておりました。イザベラ様がお待ちです」
先ほど転移石から買おうと決めたばかりなのにそれはお店の方が一見さんお断りみたいな感じだったため頓挫したので順番を変えてアサシンギルドにやってきた私たち。今私の横にいるのはロアンとティアの二人。
ティアはあのスキルのおかげか住民の人とは会話ができるので連れていても問題は無いし、ロアンも普通に話せるからね。
アサシンギルドにはティアの言ってた人から渡りを付けてもらい、アイリという人物が訪ねてきたという話を伝えてもらったところすぐに返事と迎えの人が来た。
「アイリ様!お久しぶりです。そしてようこそアサシンギルドへ!」
私の目の前のソファーには以前光の領域でお世話になったイザベラさんがいた。相変らず綺麗な女性ですが、これでもアサシンギルドの副ギルド長という役割を持っているのです。
ていうか、副ギルド長程の人がなぜわざわざ光の領域にスパイしに来ていたのかな?
「イザベラさん。ご無沙汰してます。ヘリオストスに来たのでご迷惑かと思ったけど立ち寄らせてもらいました」
「イザベラで結構ですよアイリ様!それに迷惑だなんてこれっぽちもありませんからどうぞゆっくりしていってください。そこのっ、この方々に一番いいお茶をお出ししろ!」
私に対する時とは全く違う表情でアサシンギルド内のメンバーに指示を出すイザベラさん。やっぱ中と外で使いわけをしてるんだね。私も戦闘中の指示はちょっと強気だったりするけどきっとそれと同じなんだろうと思う。
イザベラさんと話した内容は世間話から始まり、光の領域での軍勢のすごさとか彼女視点の感想が多かった。私の方でもトリビアや王種であるロアンを仲間に引き込んだことや魔王として覚醒?したことを言うとすごく感心していた。
まあ彼女ならそのくらいすでに情報を仕入れていたんだろうけどね。
アサシンギルドとウチのティア、どっちが情報収集力が高いんだろうっていうと……まあ圧倒的にアサシンギルドだよね。ティア個人がいくらすごくても集められる情報には限りがあるし。その点アサシンギルドはその在籍数の多さと確かな情報力のイロハを持っている。
このアサシンギルドにティアのスキルを活かすため派遣とかするのは駄目かなぁ。
「マスター……私はもう用済みなんですかぁ!」
冗談交じりにティアに言ったらすごく悲しそうな顔をされたからすぐに撤回して謝っておいた。一方で……
「ふむ、アサシンギルドというと、もともと強欲の古代魔王種が作ったのだったな」
「えぇ、さすが王種のロアン様。よくご存じですね。初代ギルドマスターである強欲は自分の欲望を満たすために、世界の情報……特に三大欲求を満たす項目を集めるため、このアサシンギルドの基礎を作りましたが、彼の存在が突如消えたことで、その目的の意義をなくした結果、いまの情報収集や暗殺などを生業にするアサシンギルドになったといいます」
「うむ、ワシも若いころには強欲の戦う姿を傍目から見ておったものだ。なつかしいのぅ」
ロアン、貴方一体何千年単位で生きてるのさ?ってきいてみたところ、王種は死んでも転生(復活)する際に以前の記憶を引き継ぐらしい。記憶を引き継ぐ代わりに経験をなくすらしいけど、それは死霊王の時で理解できている。今のロアンは二十回ほど転生しているんだって。戦闘で負けない限り一度の生涯で五百年ほど生きるらしく、戦闘で負けたことなどその中の一~二回、それも寿命が差し迫り弱っている間際だという事から、ざっと一万年生きてると計算になるね。トリビアとは比べ物にならないくらい長生きだー。
ちなみに今のロアンの年齢は四百五十歳で、能力の低下が始まっているんだって。
まあ私と冒険してる間は今以上下がることは無いだろうとのこと。最悪転生すればいいとあっけらかんと言い放つロアンはかっこいい気がした。
「それでイザベラ。少しお願いがあるんだけど……?」
「他ならぬアイリ様のお願いです。何でもどうぞ!」
「う、うん。ありがとう。えっとここに来る前に立ち寄った店で転移石を購入したかったんだけどその店へ入れるように紹介してくれる人っていないかな?」
「あぁ、あの偏屈の店ですか……。そうですね。紹介自体はアサシンギルドからも出来るのですが、そのためにはいくつかクエストを受けてもらわないといけない決まりなのです。私としてはすぐにでも発行して差し上げたいのでそこの所勘違いしないでください」
「あぁ、特別扱いなんかしなくてもいいからね?……それより紹介してもらえるのなら何でもやっちゃうよ?」
「本当ですか?アイリ様やロアン様という王種の方にお願いするのはどうかと思うのですが……」
イザベラが言うクエストとはティアからも聞いた常闇の高原で新たに発見されたダンジョンの情報集めとブートキャンプをした暗闇の山で入手できる期間限定の素材採取だった。
「この二つだけでいいの?ダンジョンの方は私の配下を増やすために行くつもりだったからちょうどいいね。後者の素材って言うのはどんなの?もしかしたら私が以前訪れた時に入手してるかも」
「そうなのですか?あのダンジョンにいる魔粘種は魔法にも物理にも強いという特性を持っているうえ、数が多いのでなかなか情報収集がうまくいかずに手をこまねいていたので助かります。
採ってきていただきたい素材は暗殺に使用する毒を生み出す《蛇邪草》という物ですが、お持ちですか?」
私はすぐにアイテムボックスを確認するがその素材は持っていなかった。どうやら暗闇の山でも私が行かなかったエリアにあるみたいだね。
「ごめん、持ってないから山でとってくるよ。高原から山まで近いし大した手間じゃないから任せておいて」
「ありがとうございますアイリ様。ではこれらの依頼の報告をもって店の紹介状をお渡ししますね」
「わかった。じゃあ色々準備をした後にいってくる」
こうして、なぜかアサシンギルドからも依頼を受けることになった。これも転移を使うためだからね。
アサシンギルドから出た私たちは、ヘリオストスの雑貨屋で愛想を振りまき(特にティアが仲良くなった人が多かった)ながら買い物を進め、上級鑑定士関連のクエストの報告をするべく冒険者ギルドへ向かった。




