第九話 あれから百年後
前話から100年くらい経過して、主人公が変わります。
勇者たちが魔王を倒して100年ほど経っているらしい。今、俺は街で日雇いギルドというところに行っては、街中の仕事を受けてこなしては、日々の生活費を稼いでいる。
「それではカツオさん。報酬の8000エルンです」
「どうも。午後にまた来ますね」
「はい。おまちしております」
受付のエルフのお姉さん。たしか名前はヒナタさんだっけかな。かなりの美人だが、男である。向こうの世界にも綺麗なニューハーフは居たが、テレビでしか見た事が無かったので、初めに男だと知った時はビックリした。こっちには性転換手術はないようなので、バリバリついているらしい。男が自信を無くすほどのものを。なぜ知っているかって?そりゃあ、ヒナタさんに告白して付き合い。初めての夜を迎えて悲鳴を上げたというベテラン日雇い通い(デイワーカーを略してデイワーと呼ばれている)のミシマさんがよく宿の一階にある酒場兼食堂で飲みながら仲間にぼやいているからだ。
まあ、そんな話は良いとして、それにしてもこの世界に来てはや3ヶ月。なんで俺はこの街。南国の首都であるナンゴク(なぜまともな名前を付けないのかは不明)で日々、庭の草むしりや犬の散歩、窓拭き掃除に清掃作業などの街中仕事だけをしている。異世界でファンタジーな世界なのに。
他の異世界から来たという召喚者(召喚されてきているらしいが、俺の時は誰もいない森の中だった)は特殊なスキルや称号を持っており、モンスター討伐や盗賊・山賊狩りをしては娼館で派手にやっているのに。
それもこれも、俺に何のスキルも特別な称号も無かったからである。この街に来て、日雇いギルドに登録する際に貰ったブレスレットでステータスを確認して愕然としたものだ。何のスキルもない上に称号が【探索者】というこの世界の1割くらいの人が持って生まれてくる称号だったのだ。最初は何これファンタジーっぽくて良いんじゃね?と思ったのだが。世界で1割というのはかなり平凡な称号ということであり。さらに言えば、未開の地がとあるデイワーに踏破されてからはさらに可哀そうな称号とされているのだ。例えば、合コンをしたとしよう。この世界では合コンで最初に出会った男女は自己紹介と称号と自慢のスキルを発表する。そこで【探索者】の称号持ちと言った瞬間。女性から「え?」って言われるのだ。思わず何それって感じに。なので、【探索者】の称号を持って生まれた者は合コンのような場に出るまでに必死に努力をして、良いスキルを持ち。称号で落としてからの上げをするそうな。「えっ?何そのくそ称号。え?何その超スキル!」と言われるように。
そして、なんらスキルを持っていない俺は現在。必死に街中仕事を受けてレベルを上げようとしているわけだ。三カ月。ほぼ毎日休みなく働いて、ようやくレベル10くらいである。
ちなみに街の外にいるモンスターの推奨レベル(倒すために必要なレベル)は15である。少なくてもあと一カ月半は現状が続くわけだ。
それにしても、レベルは上がるのだが、スキルはいつになったら習得できるんだろう?こんなに必死に頑張っているのに、その辺の子供でも毎日鬼ごっこをするだけで習得できるようになるらしい【俊足】も習得できていない。今度、誰かに相談してみようかな?でも、下手に相談すると召喚者とばれてしまいそうである。こんな平凡な称号とスキルなしが召喚者とばれたら、逆に珍しいと捕まって色々と検査されてしまいそうだ。というのも、俺が日雇いギルドに始めてきてブレスレットを貰っている時、隣で「俺、他の世界から来たんです」と言い出したやつが周りの人に囲まれてどこかに連れ去られて行ったのを見てからは誰にも言い出せないでいる。というか、言えない。何をされるかわからないからね。彼はいったいどこに連れ去られたのか、その後姿を見ていないのでわからない。
そんなこんなで、俺は田舎から来た平凡称号持ちという設定で日々何とか生きている。何でこんなことになってしまっているのかはわからないが、もともとはこちらの世界に来ることを俺が望んだ結果なのだが。あのサイト。いったいなんだったんだろう?誰が何の目的でこちらの世界に呼んでいるのだろうか?調べようにも死ぬような思いで何とか街にたどり着いてから、一度も街の外に出る気がしない俺にはまだまだ先の事だろう。
「ニートよりはマシだと思ったんだけどなぁ。36歳で無職の彼女いない歴を更新し続けるよりはマシだと・・・。はぁ、こんなことなら元の世界で頑張ったほうが良かったんじゃないかねぇ」
そうぶつぶつと呟きながら、この三カ月ずっとお世話になっている宿屋【ひぐらし亭】通称【その日暮らし亭】の一階にある酒場兼食堂で日替わり定食を注文して席に着く。
(お、今日は鮭(に見える魚)かぁ。このしょっぱさはご飯が進むぜ!)
この世界でなんとか仕事をこなして、初めて食事にありついた時に和食が出てきてびっくりしたものである。俺が居た世界のやつらがこの世界に召喚されまくっているって事なのかね?でも、あのサイトが噂になったのは数カ月前からだったと思うのだが、あのサイト以外にもずっと昔からこちらの世界に呼ぶものがあったのかな?
「お・・・おねえさん。ごちそうさま!」危うくおばさんと言ってしまうところだった。
「はいよ!おそまつさま!また食べに来てねぇ~」
おばさんと言うとおたまや包丁を投げてくるこの宿のパートのおば・・・おねえさん。名前はまだ知らないが、三カ月もお世話になっているので顔見知りにはなっている。時々、あまったおかずを乗せてくれる気のいいおば・・・おねえさんだ。
あのおねえさんが女でヒナタさんが男かぁ。神様って残酷だな・・・。と、鏡を見て物を言えというような事を考えつつ、午後の仕事を受けに日雇いギルドに向かった。
午後の仕事は犬の散歩が多い。こちらの世界にも向こうで見た動物とほぼ同じようなのがいるのにはちょっとだけ安心したものである。これで、頭が三つあるような犬の散歩とかなら、受けていない。だが、今日はあいにく犬の散歩の仕事がなかった。楽な仕事で小遣い稼ぎにはちょうどいいので午前に仕事を受けて帰って来たものがすぐに午後の軽作業系の仕事を受けてから休憩に行く事があるので、時々無くなってしまうのだ。こういう時は仕方がないので窓拭きや清掃作業などの街中仕事の中ではがっつり系と言われる仕事を受けるしかない。
他の軽作業系もありはするのだが、営業やら受付やら皿洗いなどの、あまり俺の好みじゃないものばかりなのだ。それらをするくらいなら、がっつり系で稼いで晩御飯を豪華にしたほうが良い。まあ、がっつり系と言っても、窓拭きは高所恐怖症でなければ問題ないし、清掃作業も宿のベッドシーツの交換とか、床拭き掃除くらいのものを受けているのだ。
さて、犬の散歩がないから・・・。あれ?窓拭きも清掃作業もないな。他に残っているのは・・・。薬草採取にモンスター討伐か・・・。ついてないな。今日は仕事を受けらないってことか。
滅多にこういう日は無いのだが、今日は珍しく俺が出来そうな仕事がない。先に仕事を取られたか、仕事が出てないからなのか。一カ月に一日くらいはこういう日があるのだ。しょうがないので今日は帰って飯抜きかな。そう思って、日雇いギルドを出ようとすると。
「カツオさん!丁度いいところに!」
そう言って声をかけてくる人がいた。振り返って声のほうを見るとヒナタさんが笑顔で手を振っている。美人だなぁ・・・。いや、いかんいかん。あれはあれでも男だ。立派なのが付いているのだ。
「はい?なんですか?」
返事をして手を振るヒナタさんの居る窓口に行く。
「カツオさんって、街中仕事が好きなんですよね?」
「え?ええ。まあ、好きというか、それしかできないといいますか・・・」
「良かった。実は清掃作業の仕事があるんだけど、慣れてないと困るって言われている仕事がひとつ残っていて困っていたの。受けてくれないかな?お願い!」
そういって、拝んでくる。か、かわいいなおい。いや、いかんいかん。俺はそっちには行かんぞ!
「ダメかな?」
そういって、顔を斜めにしてちらりとこちらを見るヒナタさん。あなたはなぜ女に生まれて来てくれなかった!
「どんなやつです?慣れてるといっても、そんなに大したことは出来ないですよ?」
「えっとね。部屋の清掃作業の依頼なんだけど。一軒家なの」
「一軒家。広いんですか?」
「ううん。平屋の一階建で、部屋数も五部屋」
「ゴミ屋敷はひとりじゃ無理ですよ?」
「大丈夫大丈夫。もともと空き家だったのが、借主が決まりそうだからって、大家さんが慌ててうちに依頼してきたの。だから、ほこりを払うくらいだと思う」
「へえ~。でも、それじゃあ。なんで慣れている人じゃないとダメなんです?」
「それが、急ぎの仕事なの。1時間で終わらせてほしいって」
「今からですか?」
「そう。依頼が来たのが30分前であと30分後までには人を出さないといけないの」
「わかりました。でも、1時間だけかぁ」
「大丈夫。急ぎで短い時間だから、1万エルンは出さないと誰も受けませんよって言ったから、それに上手くいったらさらに1万エルン出させるように交渉済みだから、はりきってお仕事して来て下さい!」
(グッジョブ!ヒナタさん!もう、男でもいい!いやいや。まて!俺!正気に戻れ!!)
「それじゃあ。場所を送信しますね」
「はい。お願いします」
そう言って、ブレスレットをしている右手を出す。その手をヒナタさんがそっと握って送信端末をブレスレットにかざす。別に手を握る必要が無いと思うのだが、ヒナタさんは毎回なぜかこうやって丁寧にしてくれる。本当に良い子だよなぁ。女だったら告白・・・出来るような度胸は無いが。それにしても、魔法で何とかならないのかね?
「はい。オッケーです。では、いってらっしゃい!」
「は、はい。行ってきます」
やばいな。今日のヒナタさんはなんか笑顔がまぶしい。いつも、そんなに会話しないし、そもそも受付がヒナタさんなのは月・水・金だけだし。話はちょっとそれるが一週間は七曜。前の世界で馴染みのある月曜日や火曜日と言った曜日がある。おそらく召喚者が持ち込んで定着したのだろうなぁ。まあ、そんなことはどうでもいいかも知れんが。
依頼の平屋は日雇いギルドから徒歩10分の距離にあった。こんな都会で庭付きの平屋というのも珍しいな。と思いながら、家の前に付くとでっぷりとした体格(俺もデブだが倍くらいはありそうだな)の男がハンカチで汗を拭きながら近づいてきた。
「日雇いギルドから来た人?」
「はい。そうです」
「ほっ。来てくれてよかったよ。ギルドに依頼を出したら、急だから誰も受けないかも知れないと結構な依頼料を請求されてしまってね・・・。いかんいかん。時間が無いんだった。すまんが急いで部屋の中のほこりをこれで払ってくれ。私は窓を開けて換気するから」
そう言って、はたきとほうきとチリ取りを手渡してきた。一応、手伝ってくれるらしい。この人が大家さんなのかな?
「わかりました。よろしくお願いします。えっと、大家さん?」
「ん?いやいや。私は大家じゃなくて、不動産のタカギと言います。まったく、あの大家は管理費も払わないくせに仲介料払うんだからこれくらいは当たり前だろと・・・」
タカギさんはぶつくさ言いながら、ドアの鍵を鍵束から取り出し、門を開けて入って行く。後半は独り言のようだ。
タカギさんはその大きな体格をゆさゆさと揺らしながら、家の窓を開けていく。俺ははたきで照明の傘や棚の上などに積もり積もったほこりを払い。それなりに手際よくほうきをする。三カ月の成果をいかんなく発揮して、タカギさんに雑巾を渡されて一緒に床を拭いたりしつつ、あっという間に一時間が経過した。
「すいませーん。タカギさんいますかー?」
作業が終わった頃に家の玄関のほうから誰か大声でタカギさんを呼ぶ。
「はいはーい!シノさんですか?」
「はい!そうでーす!」
「少々お待ちをー!えっと、髪みだれてないですか?」
「え?そうですね。ちょっとそこ。はい。そこが乱れちゃってますね」
なんか、急に焦りだすタカギさん。髪形チェックをして汗を拭いて、服を正しはじめた。
「よし!OKだね?」
「え?はあ。大丈夫じゃないですかね?」
「じゃあ。依頼は完了という事でブレスレット出して」
「え?あっ。はい」
「よし!っと。じゃあ、お疲れ様!ほんと助かったよ」
「え?あっ。はい。お疲れ様でした」
タカギさんがいそいそと玄関に向かう。俺は掃除道具を一カ所にまとめて置いてから玄関に向かうとタカギさんがイケメン風な顔を作りつつ、顔を真っ赤にしながら玄関に来ていた女性の相手をしていた。
「いいでしょ?こんな街中に平屋ではありますが、庭付きの一軒家はここくらいですよ。平屋ですので人気がなくて家賃もお安いですし。あと、庭のほうは契約が決まりましたらすぐに業者を・・・」
タカギさんと女性は玄関から入って左の台所側に向かう。俺は反対側から来たので、二人の後姿を見ながら玄関から外に出て行った。特に挨拶はしなくてもいいよな?と思って玄関からちらりとタカギさんを見ると、後ろ手で手を振っている。早く行けって事だろう。そっと、ドアを開けて外に出た。
(後姿だけだったけど、たぶん美人なんだろうなぁ。タカギさん気持ち悪いくらいデレデレになってたし)
顔を見てみたい気もしたけど、まあ美人ならそこらに結構いるので良いのだが。なんか、この世界は首輪をした美男美女が多いんだよなぁ。流行っているのかね?首輪。
一時間とは言え、そこそこ疲れた俺は日雇いギルドに報告して報酬を貰い。普段よりも早い時間帯ではあるが、宿に戻って風呂に入る事にした。まあ、風呂は宿の外にある銭湯のようなところに行かないと無いのだが。三日に一度か、汗をかいた時は入るようにしている。一回1000エルンもするので毎日は無理なのである。アパートかマンションで部屋を借りたら風呂付があるんだが、この辺の家賃相場は15万エルンくらいなので、日雇いでも街外仕事をこなす連中じゃないと借りられない。
報告をしたときにヒナタさんに両手を握りしめられて感謝された。「今度、食事おごるね」とまで言われたが、どうすればいいのだろう?まあ、別に食事くらいは良いよね?大丈夫だよね?ただ、長時間ヒナタさんといると。男であることがどうでもよくなりそうなので、怖いのだが・・・。
次回。今までの主人公はなんだったの?カツオって磯○さんちの?作者涙の謝罪会見!
しないです。




