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少女と男のお話

作者:

 季節は4月。天気は晴れ。森に囲まれた木造の一軒家に、一人の少女が住んでいる。彼女は真っ白なワンピースを身に纏い、庭にある木と木の間に作られたハンモックの上で心地良さそうに眠っていた。

 すやすやと眠る彼女の胸元には小さな黒猫が一匹、尻尾を丸め主と同じように眠っている。

 そんな時、ふと少女は目を覚ました。まだ寝惚けている目を擦り、頭を左右に数回振り、頬を軽く叩きようやく覚醒した。黒猫は素早く状況を察し少女の胸元から降りて辺りを警戒する。

 それから数秒後、突然地響きを感じた。

 少女はハンモックから転がるように落ち、無難に着地をしてすぐに家の中へ走った。家の中はまるで何もなく、誰かが物を持って引っ越したと言われれば納得する程に綺麗に片付いていた。そんな事は気にせず少女は自分の部屋の扉を蹴り破り強引に入り込む。部屋の中には勉強机のようなものと衣装ケースが各一つずつ。壁や床は白色で統一され、ベッドが無い事からここが就寝する為の部屋ではないことがわかる。

 机の引き出しから小さな時計を取り出し、右手にしっかりと握り締める。

 その時、周りから色が消えた。少女が見ている物、全てが薄い何かで統一された。それを感じ取った瞬間、何か巨大な物が家の壁を壊しながら少女に衝突した。

 「弱いな、所詮ペットはペットか」

 低い声がした。事を起こした原因の男は、先程自分が吹き飛ばした黒猫のようなものを思い浮かべながらそう吐き捨てるように言った。

 「酷い事をしますね。こんな事をしたら動物愛護団体が黙っていませんよ」

 少女は自分の頭に乗った家の破片を手で落としながら、ため息混じりにそう言った。

 少女の横には先程の黒猫、というには余りにも愛嬌がない。体は三メートル以上にもなり、その姿は黒猫の形をした化物だ。そんな化物でも大人しく、いつでも襲えるように戦闘態勢に入り少女の命令を待つ。

 男は黒色のコートに黒色のフードを被り、足には黒色のブーツと全身真っ黒。それに比べ少女は変わらず真っ白なワンピースを着ており、この緊張感が漂う場面では少々場違いなような気がする。

 最初に火蓋を切ったのは男。足で地面を蹴り、一瞬にして少女との距離を一気に縮めた。そのまま拳を握り締め彼女の心臓へと的確にその拳を運ぶ。

 ズドン、と鈍く嫌な音がした。

 堪らず血を吐き出す少女が倒れるその前に、男は更に追撃を一切の躊躇なく放つ。体をくの字に曲げた少女の頭を両手で押さえつけ、その綺麗な顔を自分の膝に叩きつけた。それはもう潰すという表現が似合うような感じさえする。

 口から血を吐き出し、鼻の骨はぐちゃぐちゃで目も失った少女に止めを刺すようにして蹴り飛ばす。少女は大木に衝突し、誰が見ても生存は絶望的だった。

 しかし男はまだ緊張を解こうとはしない。心臓は壊した、脳も潰した、それでも彼女が死んでいるとは到底思えなかった。何故か、それは彼女が化物だと知っているからだ。

 「生きているんだろ、さあ早く立て。続きをしよう」

 男が少女に一歩近付いた瞬間、横から黒猫が牙を剥き出しにして襲いかかった。男は虚空から刃の長い剣を取り出し、黒猫の攻撃を避けながら剣を水平にして斬る。血飛沫を撒き散らしながら黒猫はその姿を消した。

 男は目を少女が居る大木に移したが、そこには誰も居なかった。

 また逃がした、男はそう思い落胆した。


 男がその場を去って一時間程経った頃、少女はハンモックの上に戻ってきた。黒猫を撫でながら、先程の男を思い出す。

 実はあの男とは初めて会ったわけではなかった。最初の出会いは少女が男の両親を殺した時。特別な理由はなく、その場にいたから殺した。それだけだ。

 では何故男は殺さなかったのか。それは少女自身も分からなかった。今回だって殺ろうと思えばいつでも殺れたのに、一切の抵抗もせずボロ雑巾のように扱われてしまった。

 彼は何か大切な存在なのかもしれない、少女はそんな事を思ってから有り得ないと否定した。

 そこで我が家が壊されている事に気付いた少女は、時計を使って元の綺麗な木造の一軒家に戻した。

 きっとまた、すぐにあの男は戻ってくるだろう。

 少女は悪戯を思いついた子供のような笑みを浮かべ、その時を待つ事にした。

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