第二話
読んでくださる方及びブックマークしていただいた方ありがとうございます。
あまり気分のいいものじゃない。やっぱり妹に心配されるイジメられっ子の兄ってどうなんだろう。
「ごめんなさい兄様。でもその……私が兄様と同じ学校に通わなければこんな事にはと思って……」
僕がイジメられている原因の一部は有希が気にしている通り、有希の成績を妬む学生が絡んでいる事は確かだ。この学園の生徒は成績に過敏に反応する。当然競争が激しくて、上位成績者は妬まれることになる。まして常に学年一位をキープしている有希に一部の生徒の恨み妬みが集中しているのは僕も解っている。でも有希は学園のアイドルだし手は出せない。その腹癒せに僕にイジメが集中する。だけど、このことで有希が気にする事はなに一つないと僕は思っていた。だから僕は同じ学校でも気にしてない。
「有希は気にする事ないよ。イジメられるのは僕の成績のせいだから有希はなにも関係ない。そんなこと気にしていたのか?」
僕は笑って答えた。まぁ笑うのが苦手な僕には何処まで笑えているか解らないけど。
「私、やっぱり他の学校に行けばよかったかな?」
いやいや、そんな事はないだろ。有希もなにか目的を持って白波学園を選んだんだから。どんな目的か知らないけどさ。
「そういえば、何で有希は白波学園に行きたかったんだ?」
前から気になってはいたんだ、その理由。どうして頭のいい有希がこの学校を選んだのか。有希が両親に無理を言って白波学園に通っているのは知っていた。有希の頭脳ならこの学園よりも二ランクは上、もしくは大学だって入れるはずだったのに。
「そ、それは……兄様と同じ学校に通いたかったから」
「へ? 僕と?」
それは驚きだった。なんで僕なんかと? 確かに兄妹関係は悪くない。いやむしろ良好だった、四年前までは。そして有希の今の様子を見ると今も……か。それにしても僕と同じ学校がいいなんて……そんなに立派な兄じゃないんだけどなぁ。
「私その……やっぱりなんでもないです」
顔を真っ赤にして俯いてしまった。
それから何故か一言もしゃべらなくなった有希と僕は自宅へと戻っていったのだった。
夕食も終わった頃、両親はカラオケに行くかと誘ってきた。当然僕ではなく有希に。家庭にまで成績カーストが蔓延している。なんなんだろうこの孤立感。でもいつもの事だけどさ。
有希は両親の誘いを断り、家は僕と有希の二人きりになった。
「ねぇ兄様。勉強教えてあげようか?」
自室で萌えアニメを見ていた僕の部屋に、有希がTシャツにホットパンツというラフな姿で入ってくる。今日はヤケに肌の露出が多いな。妹だから気にしないけど。そういえばこれもまた珍しい。有希が僕を遠ざけるようになってから、僕の部屋に来ることは無くなった。なのに今日はやけに話す機会が多く、しかも部屋にも気軽に入ってくる。今日はなんなんだ? にしても、さすがに大学に入れるほど頭のいい有希、僕が一学年上ということをまったく意に介さないセリフだ。
でも妹に勉強を教えて貰うってなんだかなぁ。
「うーん今アニメ見てるからさ」
などといいながら僕は妹の誘いをやんわり断った。
「いいじゃない。兄様の成績が上がればイジメも無くなるのだから」
確かに有希の言うとおりだけど……それが出来たらやってるけどさ。それにしてもヤケに有希は僕のイジメに固執するなぁ。僕としては触れられたくない領域なんだけど、とくに肉親である妹には。学校帰りにやんわり触れてほしくない事は言ったつもりだったのだが。
「なぁなんで有希はそんなに僕のイジメを気にするんだ? 今までそうじゃなかっただろう?」
今日の有希は何かおかしい。有希が白波学園に入ったときには、すでに僕のイジメは始まっていたんだ。中等部に入学して一学期の成績表が張り出されてから。それから一年後に有希が入学してきた。
それから今まで有希は僕のイジメには触れなかった。だから気にされるのは今更という感がある。
「それは……私が兄様のイジメの一因になっているから……だから私に出来ることは無いかなって」
「有希が白波学園に入る前から僕はイジメられてたんだ。だから有希は関係ないって」
そう言うと有希は顔を伏せた。少しすると嗚咽が聞こえた。
「だって……だって……」
なんで有希がここまで僕のイジメで自分を責めているのか、僕には訳が解らなかった。僕がイジメられている事を有希が今まで触れなかった事を、僕が怒っているとでも思っているのだろうか? いやいや、それはない。多感期の僕としては家族に関わって欲しくないデリケートな問題だったし、何より仲の良い妹がこの問題に入って傷つけられたりしたら嫌だし。だから有希に対して怒りとか憎しみなんてあるわけがない。
とにかく妹が泣くのは兄として放って置けない。もう有希の気の済むようにしてやろうと思って、僕は有希に勉強を教えてもらうことにした。