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サッカーの妖精

作者: SA10 in 佐藤

イベントで使用。朗読劇脚本 de す

SE(扉)


青木「はぁ~今日の部活も疲れたな~」

倉崎向美「お疲れ様! 青木君」

青木「あっ倉崎。お疲れ様」

倉崎「今日も最後まで残って練習? 大変だね」

青木「俺みたいなのはコレくらいしないとついていけないからね。練習あるのみだよ」

倉崎「少しは洗濯物集める私の身にもなってほしいかな? じゃあ、そこ入れといてね、後で集めに来るから、よろしく!」


 SE(扉)


青木「……はぁ~倉崎マネージャー可愛いなぁ……こうして最後まで残ってなんとか話す機会作ってるけど、一向に進展しないんだよなぁ……。あれかなぁ……やっぱりサッカーうまくないとダメなのかなぁ……。いまだに二軍。もう来年は無いし……。このまま何もできずに終わるのかなぁ……」


ボール「悩み多き少年よ」

青木「!?」

スパイク「かなえて見せましょう、あなたの願い」

青木「だ、誰だ!? もう部員は全員帰ったはずだぞ!」

ボール「はっはっ。下を見ろよ」

青木「下……? 誰もいないけど……」

ボール「いるだろう、ボールが」

青木「……ボール」

ボール「そう、私はボール」

青木「ボール!?」

スパイク「そして私はスパイク」

青木「スパイク!?」

スパイク「そう、私たちはサッカーもうまくなければ恋愛も下手。そんな掃いて捨てるほどいる少年たちの願いが形を得たもの。妖精かなんかだと思ってくれればいいわ!」

青木「妖精……?」

ボール「妖精でもなんでもいいんだ。私たちは君の味方。いままでうだつのあがらなかった君の生活を変えるために現れたんだ。我々二人で君の青春を協力にバックアップしてあげよう!」

スパイク「うまくいけば恋のハットトリックも夢ではないわ」

ボール「相変わらず君はセンスが昭和だな。目も当てられん」

スパイク「あら、私に踏みつけられ喜んでいるどこぞの変態が偉そうな口を利くようになったものね」

ボール「……私を侮辱する気か?」

スパイク「侮辱してなければ文字通りの足蹴になどしないわ」

ボール&スパイク「……」

ボール「……落とし前は後でつけよう。すまないね青木君、それで──」

青木「……」

ボール「どうかしたか? 青木君」

スパイク「感動で胸がいっぱいなのかしら」


 SE(扉)


ボール「あっ逃げた」

スパイク「小心者ね」

ボール「まぁいい。ここにいれば嫌でも会うことになるからな」

スパイク「また明日ね、楽しみにしておきましょう」


暗転


青木(昨日はのアレは一体なんだったんだ……? まさか本当に……いや、そんな馬鹿な! 妖精だなんて! きっと疲れていたんだな! うん! 昨日のことは忘れて今日も部活頑張ろう!)

倉崎「ちょっと青木君!」

青木「うわ! あ、ああ倉崎……やぁ」

倉崎「青木君、昨日どうしたのよ」

青木「きっ昨日? 何だっけ?」

倉崎「いや、部室の電気もつけっ放しだったし、洗濯カゴの中にユニフォーム入ってなかったから。変だなと思っただけだけど……。昨日何かあったの?」

青木「あ、ああ。えーと、何も無いよ! 部室の電気は消し忘れでユニフォームはたまには自分で洗おうかと思ってね! いつも悪いから!」

倉崎「? そう? 仕事だから気にしなくてもいいのに……」

青木「いいんだよ! 倉崎はいつも頑張ってるからねぇ!」

倉崎「ふーん……。それより青木君なんか顔色が悪いけど……大丈夫? 幽霊でも見たみたい」

青木「まぁ似たようなもの……って違う違う! 全然平気だよ!」

倉崎「ならいいけど。……あっ、そろそろ練習始まるね。それじゃまた後で」

青木「うん! それじゃ後で!(バイバーイ) ……はぁ……そうなんだよな部室行かないといけないんだよなぁ……なるべく行きたくないような気もするけど……仕方ない、行くか。昨日のアレがどうか夢でありますように……!」


 SE(扉)


ボール&スパイク「おかえりー」

青木「ああー!」(前のセリフにかぶせて)

ボール「入ってくるなり騒々しい奴だな君は。ほれ早く用意したまえ、他の部員はもう行ってしまったぞ」

青木「げ、幻聴……」スパイク「なんかではないわよ。私たちはここにいるもの」

ボール「うむ、仮に幻聴だとしても、君にとっては現実の出来事だ、あきらめて受け入れるほうが楽だと思うがね」

青木「……わかった。わかったよ。幻聴だろうと何だろうと声が聞こえることは認めるが、一体何が目的なんだ!」

スパイク「だから昨日言ったでしょう。私たちはあなたを助けに来たって」

青木「助けって……」

スパイク「彼女もいなけりゃサッカーも下手。成績も悪ければ顔が良いわけでもない。何なのかしらそのいがぐり頭は? 野球部と間違えて入ったのかしら?」

青木「後半は関係ないだろ!」

ボール「とにかく。そんな不健康な青春は私たちが許さない。そのために私たちがここにいるのだ」

青木「あー……。つまり、何をしてくれるんだ?」

ボール「君の青春が破壊的なのは自信の欠如だ。何か誇れるものがあればそこを基点に歯車が動き出す。君はサッカーは下手だが部活をサボったことは無いね。つまり基礎的な体力がついていて、逆転が狙えるものはサッカーだ」

スパイク「私たちがサポートして、次の大会までに使える体にするわ。そこで活躍できればあのマネージャーもあなたに振り向くかもね」

ボール「具体的に何をするんだよ?」

ボール「そのいがぐり頭では口で説明してもわからないだろう。そこで君の体に直接教え込む。主にスパイク君が君の足となってドリブル、シュート、トラップ、パス、など必要な技術をすべて叩き込む。君は感覚を掴んで応用すれば良い」

青木「えっ。じゃあお前たちが試合で活躍してくれれば済む話なんじゃ……」

スパイク「それじゃあ あなたの自信につながらないでしょう」

青木「まぁ、そりゃそうだけど……」

ボール「近いうちに開催される大会ででかいものは……インターハイだな。3ヶ月強。それまでになんとかしてやろう」

スパイク「あら? 3ヶ月程度では寝る間も無いけれど?」

青木「えっ……」

ボール「グラウンドで死なれるよりましだろう」

スパイク「了解」

青木「いやそんなおおげさな……」

スパイク「さっ。そうと決まれば早速練習に行くわよ。早く用意しなさい」

青木「はぁ……。まぁよろしく」

スパイク「……ちょっと、何勝手に履こうとしてんのよ?」

青木「は? だってスパイク履かないと──」

スパイク「履かせていただきます、スパイク様、でしょ?」

青木「うん?」

スパイク「履かせていただきます、スパイク様」

青木「……。あいででででで! 足がぁ!」

ボール「はっは。失礼な態度で履こうとすると禁箍呪きんこじゅされるぞ。教官には敬意を払いたまえ」

青木「足がつぶれるかと思った……」

スパイク「はい、サンハイ」

青木小声で(履かせていただきます、スパイク様)

スパイク「聞こえないぞ蛆虫野郎」

青木「……履かせていただきます、スパイク様!」

 スパイクE(扉)

倉崎(同時に)「青木君~? 練習はじ……ま……る……」

青木「あっ……」

倉崎「……え~と、練習始まるから、早く準備してね」

スパイクE(扉)

青木「……あいででででで!」

スパイク「何ぼさっとしてるのよ。早く準備しなさい!」

青木「くそぉ……。コレで失敗したら呪ってやるからな!」

ボール「その意気だ。さぁ行くぞ!」


暗転


青木「それから俺はスパイクとボールの猛特訓を受けた。ボールとスパイクを常時持ち歩くよう強制され昼夜を問わずスパイクの罵詈雑言ばりぞうごんを浴び、ボールのこまっしゃくれた講釈を受け、部活となれば足を締め上げられ、ボールにぶつかられ、倒れれば罵られ、起き上がれば罵倒される。体は悲鳴を上げ、心はそれ以上に悲鳴を上げていた。というより実際、悲鳴を上げた。しかし、そんな2ヶ月の猛特訓のおかげで体は見違えるほど引き締まりサッカーの技術も飛躍的に伸びついに……レギュラーメンバーに選ばれた! それから更なる厳しい練習の日々を乗り越え、ついに大会本番を迎えた」


 SE(雑踏)


青木「とうとう本番か……」

倉崎「青木君。お疲れ様」

青木「あっ倉崎。お疲れ!」

倉崎「とうとう本番だね~。それにしても青木君頑張ったね。最後の最後でレギュラー入りなんて!」

青木「そうかな」

倉崎「魔法にでもかかったみたいに。みるみる上達していくんだもの。みんな目を丸くしてたわ」

青木「あっ、あははは。まぁそんなところかな?」

倉崎「? 最後の大会なんだか頑張るのよ! それじゃ」

青木「倉崎!」

倉崎「? なに?」

青木「その……おれ頑張るからさ……見ててくれよ!」

倉崎「……うん、わかった」

青木「あっ……ありがとう……、それじゃ! また後で!」

ボール「……どうですかスパイクさん。今の会話は」

スパイク「最悪ね、まるでスタローン主演の映画を見せられているようだわ」

ボール「まさに悪夢だ」

青木「……おまえら勝手な事言いやがって」

ボール「そんなことより、君もわかっているだろうが初戦の相手は優勝候補筆頭だ。彼らに勝てれば優勝はたやすくなるだろう。実質、決勝戦だと思っても良い」

青木「ああ」

スパイク「それに大会では私たちは力を貸せないわ。自分の力でやるしかないの」

青木「ああ、わかってるよ。今までありがとうな。お前らがいなかったらこの大会にも出場できなかったかもしれない」

ボール「礼はすべてが終わってからだ」

青木「そうだな、それじゃあ行きますか!」


 SEホイッスル


倉崎「お疲れ様! はい! 水!」

青木「ありがとう……。ていうかあのキーパー硬すぎるだろ……。ブサイクのくせに……」

倉崎「でもこっちも点はとられてないよ! 0対0のイーブン。良い勝負だよ!」

青木「まったく、あのキーパーさえなんとかなれば……」

スパイク「あら? 気づいていないのかしら?」

青木「? 何がだよ」

スパイク「あの醜悪なキーパーのグローブ。私たちと同じものがついてるわよ」

青木「はぁ? お前たちみたいなのがくっついてるってことかよ!」

スパイク「そうね。それで大分力も貸してるみたい。平たく言えばズルね」

青木「そんなのありかよ……何とかならないのかよ!」

ボール「高校のレベルをはるかに超えている。残念ながら我々ではどうにも……」

青木「こっちも同じことしてやればいいんだろ! それで五分五分だ!」

ボール「できないことではないが、それは本来やってはいけないことだ。もしルールにそむくようなことがあれば──」

青木「関係ないよ! 俺はこの試合に掛けてるんだ! なんとかして部員みんなに! 倉崎に! 認めてもらいたいんだよ!」

ボール「しかし──」

スパイク「いいじゃない」

ボール「! 無責任なことを! どうなるか君だって知っているはずだ!」

スパイク「だからこそ叶えてあげるんじゃないの。今日、この日のために頑張ってきたのよ? 最後の最後でチャチャが入るなんて冗談じゃないわ。それに私たちの親戚が不正をしているのよ? 私たちが何とかするのが道理じゃないかしら?」

ボール「~~! 仕方ない。どうなっても知らないぞ」

青木「よし……! ありがとう……!」

ボール「状況は大分厳しい。このままこう着状態でP倉崎に持ち込まれればこちらの負けだろう。相手のゴールには入らないし君の打順が回ってくる前にこちらの体力がなくなる。そうなる前に相手の壁を崩す必要がある。試合中、我々にボールが回ってきたそのときがチャンスだ。力を合わせれば相手の壁を打ち破れるだろう。しかし、正直2回はないと思っておいたほうがいい」

青木「わかった……」

倉崎「青木君! そろそろ時間だよ!」

青木「今行く! ……じゃあよろしくスパイク様。あとボールはお留守番だな。行って来るよ」

ボール「うん……頑張りたまえ」


 SEホイッスル

暗転


青木「そして、そのチャンスは訪れた」


青木「よし! 回ってきたぜ!」

ボール「やあ」

青木「!? お前どうやって!?」

ボール「再開直前にいままでのボール君には眠ってもらったよ。もっと早く来れればよかったんだがあまり不自然な動きをするのもよくないのでね、多少時間はかかったが」

スパイク「まったく最後まであなたを蹴っ飛ばすなんて」

ボール「まぁそういうな。そら、ディフェンスが来たぞ」

スパイク「さっさと抜いちゃいましょう」

青木「!?」

倉崎「今、青木君の足すごい動きしたような……」

青木「あんまりやりすぎんなよ!」

スパイク「まずは一人」

ボール「二人目だ。では次は私の出番だな」

青木「ちょっ……!」

倉崎「今度はボールがすごい動きをしたような……」

ボール「二人目」

青木「少しは大人しくしてくれ! あっ!?」

スパイク「死角から……」

青木「ああっ!」

倉崎「……抜けた!」

青木&ボール&スパイク「三人!」

青木「ってかぶるなよ!」

ボール「もうゴールまでディフェンスはいないぞ」

スパイク「やっとここまで来たわね」

ボール「なかなか楽しかったぞ、青木君」

スパイク「さぁ、最後のシュートよ。力は貸すけれど、最後はあなたの力しだいなのよ。 全力で打ちなさい!」

青木「わかったよ! 必殺ぅ……シュートォ!!」

全員「いっけぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」


 SEホイッスル


青木「……! やった……。はいった! はいったぞ! やったー! ボール! スパイク! ありがとう! ゴールしたよ! お前たちのおかげで……あれ、お前ら……」

ボール「……みっともないところを見られてしまったね……」

スパイク「すこしばかり無理をしすぎたのかしらね」

青木「お前たち……壊れてるじゃないか! まさルールをやぶるって……」

ボール「なに……寿命が来ただけだよ」

スパイク「まぁ、そういうことね」

青木「なっ……。だったらなんであんな、それを知ってたら俺だってこんな無茶なことは……」

ボール「言っただろう。我々は君のサポートをするために来たんだと。コレでいいんだよ」

青木「……ありがとう、二人がいなかったらこのグラウンドに立つこともできなかったよ……。俺、二人のこと忘れないよ」

スパイク「……ブサイクな顔が余計にブサイクになったわね……」

青木「……」

ボール「……もう時間がない最後にひとつだけ伝えておこう……」

青木「……ああ、聞いてるよ」

ボール「我々はね……本当にまったく、ただの寿命なんだ」

青木「……ん?」

ボール「ちょっと勘違いしてるようだから伝えておくと。ルールを破るとだね、その、君に呪いのようなものがかかって、えー、まぁ、なんだ、醜悪な面構えになるというか」

スパイク「ブサイクになっちゃうのよ。それは、もう」

青木「んん?」

倉崎「……ひっ」

青木「……目が合っただけで悲鳴を上げられたぞ?」

スパイク「ブサイクだからね」

ボール「相手側のキーパーもブサイクだったろ? そういうことなんだよ。普段はこんなことしないし、説明をしようとしたんだが君も切羽詰っていたし了承もいただいたから、まぁ、大丈夫だろうということで」

青木「……」

ボール「まぁ、気を落とすな。君はいまや英雄なんだから。誇りを持ちたまえ。……おっと時間が来たようだ。そろそろ次の悩める青少年のもとへ行こうか」

スパイク「そうねー。それじゃあ楽しかったわ。バイバーイ」

ボール「それでは元気で」

青木「……そんなばかな……」


 暗転


青木「その後、初戦を突破し、俺たちは順調に勝ち進み、最終的に優勝した。俺はこのときの活躍が認められエースとして以降も活躍。スポーツ推薦枠で大学に進学できるほど有名になった。だが華やかな功績と引き換えに、俺は大事な何かを失った」

少し間をおいて

青木「あっ、倉崎、お疲れ──」

倉崎「きゃあっ!?」

青木「……」


ボール「勝利とは時にむなしいものだ。彼は身をもってそれを教えてくれた」

青木「お前のせいだろ!」


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