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魔女の世界  作者: 小林久奈
レド編
7/19

無限の魔女

 目の前で微笑むレドの姿をした魔女に、バルムは恐怖を感じていた。彼女の周りを漂う魔力が威圧感を放ち、息苦しさを与えている。6魔女の1人である自分をこんなにも恐れさせる存在、それが、世界を狂わす力を持つといわれる無限の魔女だった。


「あ!ごめんなさい。外に出るのなんて初めてだから、魔力のコントロール忘れてた!」


 怯えているバルムに気づいたのか、無限の魔女は慌てながら「ちょっと待ってね」と言って意識を集中し、魔力を抑え始める。すぐに威圧感を放っていた魔力は薄れ、バルムは深く呼吸する。これほどの魔力を持っているとは思わなかった、彼女なら簡単に、この世界を破壊できるだろう・・・それだけ危険な魔女だと、バルムは認識を改めた。


「改めて挨拶するわ、私はバルム・バッカード。6魔女の1人で、西の国を管理するもの。無限の魔女、あなたには聞きたいことが山ほどあるんだけど・・・まずは」


 バルムはちらりとエリカを見る。エリカとイルニールは少し怯えた表情を浮かべ、二人から少し離れた場所でこちらを見ていた。あの二人にも、無限の魔女が放っていた、息苦しい威圧感を感じていたんだろう。


「彼女がこの世界に来てしまったのは、あなたが原因なのかしら?」

「うん。」

「なぜこんなことを?」

「なぜって・・・面白そうだったから」


 悪びれた様子もなく、まるでいたずらをする子供のように無限の魔女は笑った。そんな姿にバルムは驚きを隠せない。目的もなく、ただ面白そうと魔力を使う魔女・・・私利私欲ではなく、ただの好奇心で。悪意がなければ、どんな相手だろうと魔女は裁けない。それを知っていて彼女は嘘をついたのか、それとも、本当に好奇心で・・・?バルムにはまだ、それを判断できない。


「でも、まさか召喚魔法だったなんて・・・エリカには悪いことしちゃったかも。」


 一応、悪いとは思っているようだ。目の前にいる弟子の姿をした魔女は、ニコニコしながら、次の質問を待っていた。人と話せることが嬉しいのかもしれない。


「・・・つまり、最初から悪用するつもりはなかったと?」

「もちろん!」


 はぁ。と大きなため息をついて、バルムは無限の魔女を見る。世界を混乱させる危険な魔女。そう言われ続けていた無限の魔女が今、目の前にいる。しかし、彼女にはまったく危険性が感じられない。少なくともバルムの目には、ニコニコと楽しそうに笑う少女にしか見えなかった。


「あなたの目的は?肉体という器を手に入れたあなたは、次になにを望むの?」

「なにって言われても・・・うーん、なんだろう?」


 無限の魔女は首をかしげ、腕を組み「うーん」と悩み始める。その姿は、彼女が本当に無限の魔女なのか疑わしいものでもあった。


「・・・あなたは本当に、無限の魔女なの?」

「んー・・・多分?」

「え?」


 その言葉は、バルムには予想外の言葉でしかなかった。


「私ね、記憶がないの。自分が、無限の魔女と呼ばれてたことと、使える魔法をなんとなく覚えているだけで、生きていた頃の記憶が全然ないの。」


 バルムは理解し、そして納得した。どうして、危険な存在である無限の魔女が、こんなにも屈託のない笑顔で自分と接しているのか。そして、その気になれば自分を消すことなど容易いのに、それをせずに会話を続けているのことを。それは、生前の記憶がないから、過去の自分がわからないからこそ、彼女は何もしないのだ。

 それを知ったバルムは、突然笑い出す。警戒し恐れた相手は、世界を混乱させた無限の魔女なんかではなく、記憶を失い、無限の魔女と呼ばれるだけのただの無垢な少女なのだ。それに今まで気づかなかった自分に、笑いがこみ上げてくる。


「ふふ・・・あなたは確かに、無限の魔女かもしれない。けれど、あなたはまだ警戒するほどじゃない。監視は続けるけど、少なくても私は、あなたと敵対するつもりはないわ。」


 バルムがそう言うと、無限の魔女は驚いて目を見開いたが、すぐに笑顔を見せて「ありがとう」と言って目を閉じた。それは合図だったのだろう、一瞬のうちに無限の魔女と呼ばれた人物の雰囲気が変わった。次に目を開けたとき、その人物は無限の魔女ではなく、俺に戻っていた。


『少し疲れちゃった。おやすみなさいー』

「ん?あぁ・・・戻ったのか・・・っ!?」


 魔女が眠り、肉体が自分のものに戻った瞬間、俺は言い表せないほどの激痛に襲われた。全身に痛みが走り、立っていることさえ出来なくなり、俺はその場に倒れこんだ。


「・・・いってぇ・・・なんだこれ・・・」

「無限の魔女の魔力に、身体が耐え切れなかったみたいね。当然だけど」


 激痛に悶え苦しむ俺にバルムはそう言った。なるほどな・・・強すぎる魔力は、その分、身体に負担がかかる。つまり、弱い魔力に慣れきっている俺の体が、無限の魔女の強大な魔力を受け入れたことで、その身体に異常な負担がかかりこうなったと・・・。あいつ、知ってて寝やがったな!

 倒れこんだ俺を心配してか、イルニールとエリカがこっちに走ってきた。


「レド!大丈夫?お師匠様、今のはいったい何なんですか?それに無限の魔女って」

「なぁに?あなたイルニールにも話していなかったの?」

「話す必要はないだろ。」

「まぁ、自分から話すことじゃないかもね。」


 無限の魔女が俺の身体に宿っていることは、イルニールには話していなかった。それを知っているのはおそらく、師匠であるバルムだけだろう。いや、もしかしたら、他の6魔女には知られているかもしれない。俺の存在は、魔女集会で報告しなければならないことだろうからな。


「いい機会だし、話しておきましょうか。無限の魔女のこと・・・」

「・・・・・・そうだな」


「ところで・・・あなたたち、召喚魔法を試す余裕があったってことは、私の部屋の片付けは、もう終わっているのかしら?」


 バルムの笑顔に、俺とイルニールは、ぎくっ!と引きつった。それをババアが見逃すはずもなく、言い訳する暇もなく俺たちは、バルムの操り魔法で、部屋の片付けの続きを強制的にやらされた・・・。俺、魔女の魔力のせいでボロボロなのに、さらに働かせるとか・・・本気で死ぬかと思った・・・

 ちなみにババアはその間、エリカと一緒に楽しくお茶をしていたらしい。


 部屋の片付けが終わり、魔法から開放された俺たちは、操り魔法の反動でさらなる疲労を味わった。しかも、すっかり夜が更けていたため、話をするのは明日に持ち越しになり、家に帰れないエリカのために空いている部屋を用意した俺は、もう限界を通り過ぎて普通に動けている・・・これはこれで明日が怖いな・・・


「ここがお前の部屋だ。必要なものは明日以降に揃える。」

「ありがとう・・・でも、体は大丈夫?」

「さぁな。」


 こればっかりは、明日になってみないとな・・・魔力の回復は早い方だけど、体力はどうだったか・・・。明日、全身疲労で動けないとか、ないといいんだが・・・


「と、そういえばお前・・・さっき、責任取れとか言ってたけど」


 あれはなぜだ?と言いかけた俺に「ぎゃー!」という悲鳴があがった


「取らなくていい!取らなくていいから、忘れてーーーーー!」


 両手を顔の前でぶんぶんと振りながら、顔から火が出そうなくらい真っ赤な顔でエリカは叫んだ。なんか、触れてはいけないことだったのだろうか?そう思った矢先、エリカは語りだした。


「私・・・素敵な人と恋をするのに憧れてて、それで、その・・・ファーストキスはその時のためにって思ってたの・・・」


 あぁ、うん、なんか夢をぶち壊したようで、ごめん。


「あの時は、突然のことで混乱してて、私はもう、レドと結婚するしかないんだ!って思い込んじゃって・・・それで、あんなことを・・・」

「・・・・・・」


 えーと、まとめるとこうか?素敵な恋でファーストキスをする予定が、魔力を抑えるためとはいえ、俺が無理やりキスをしてその夢を壊したから、そのショックに頭が混乱し、俺に責任をとって結婚しろ言い出したと・・・。ずいぶん理不尽な気もするが・・・それだけショックだったということか?


「俺にはわからないな。」

「・・・だよね。うん、自分でも夢見すぎだと思ってる」

「俺のことは道具と思えばいい」

「え?」

「俺はお前の魔力を抑えるための道具だったと、そう思えばいい。」

「レド?なに言ってるの?」


 気を使ったつもりだったが、エリカには通じなかったようだ・・・


「・・・気にするな。そういうことだ」


 俺はエリカの頭を軽く叩き、部屋を出た。扉を閉めるとき、エリカから「おやすみなさい」という声が聞こえたが、それには答えなかった。いや、答えられなかった。


 長い一日がようやく終わる・・・俺は、なんとか自分の部屋にたどり着くと、部屋のベッドに倒れこみ、目を閉じた。すぐに意識は遠のき眠りに落ちる。余程疲れていたのか、翌日の朝に俺は起きれず、目が覚めてみれば、もう昼過ぎという時間だった・・・


 働きすぎは体に良くない。そんな言葉を痛感した・・・


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