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魔女の世界  作者: 小林久奈
レド編
6/19

魔力を抑える方法

『私の魔力を、直接エリカに注ぎ込んで、無理やり彼女の魔力を抑えるの。』


 魔女は俺にそう言った。本当にそんなことが出来るのか半信半疑だったが、今はそれしか方法がない、と言われれば、それを実行するしかない。俺は次の言葉を待った


『だから、エリカとキスしちゃってください』


 待て待て、どうしてそうなる?俺は頭を抱えた・・・こいつは何を言い出してるんだ?と。さらに続けられる魔女の言葉に俺は言葉を失った。


『直接魔力を注ぐには、対象と繋がってないとできないの。でも、私には肉体がないでしょ?繋がりを持つこと自体が無理なの。この身体はレドのものだし、私はその中に宿ってるだけなんだもん。だから考えたの、レドの口からエリカに魔力を注げないかな?って』


 つまり、俺とエリカがキスをして繋がっている間に、魔女はエリカに魔力を注いで、彼女の魔力を抑えこもうというのだ。方法が見つかったのはいいが、さすがにこれは・・・気が引ける。

 とはいえ、他に方法がないのでやるしかないんだが・・・キス、かぁ・・・協力は得たけど、さすがにこれ話したら断られそうだな・・・でも、やらなきゃまた、イルニールが襲うだろうし、さすがに俺も、弟弟子を何度も殴りたくはない・・・これが今の最善策だろうし・・・


 一回だ。たった一回のキスで全てがおさまるんだ。ならそれに越したことはないだろう。エリカには悪いが、我慢してもらうしかない。恨まれるかもしれないが・・・俺は覚悟を決めてエリカの身体を引き寄せた。謝罪の言葉を呟いて・・・


「許せ。」


 そう言ってすぐ、俺はエリカにキスをした。抵抗はない。いや、驚きで動けなかったんだろう。それはそれで都合がいい。魔力が注ぎ終わるまで動かないでくれ。

 俺の口から魔力が注がれているようだが、俺自身には何も感じない。わかるのは触れているエリカの唇とその温もりだけ。


『お待たせ。終わったからもう離れても平気だよ。』


 その言葉を聞き、俺はゆっくりと唇を離した。直後、エリカは魂が抜けたようにガクッと崩れ落ちた。俺はとっさに支えたが、立っていられないようだったのでそのまま床に座らせた。


「おい!大丈夫か?」


 覗きこむと顔を真っ赤にし、自分の唇を指でなぞっていた。まさか・・・


「・・・はじめてだった、とか?」


 俺の言葉に俯きながら頷く。まじか・・・


「あー・・・すまん。お前の魔力を抑える方法が、これしかなかったんだ。」


 さすがに無理やりしたのは悪かったか・・・方法を話して「嫌だ」と断られたら困るから強引な手段をとったが、もう少し、彼女の気持ちも考えるべきだったな・・・。


「だが、魔力は抑えられたし、もう襲われる心配もない。・・・悪かったな」


 俺はエリカの頭を軽くぽんっと叩いて、倒れて気を失ってるイルニールの所に向かった。ちゃんと回復魔法をかけて殴った事実を隠滅しないとな。なんか今日は魔力の消費が多いな・・・


 イルニールを回復して、一息ついた俺は窓から外を見る。あれだけ結界の外に集まっていた獣たちがいなくなっていた。魔力の放出がなくなったことで魅了が解けて棲み家に戻ったんだろう。この様子なら、イルニールの魅了も解けているはずだ。そう思って窓から目を離し振り返ると、いつの間にか、エリカが目の前に立っていた。


「・・・・・てよ・・・」


 エリカは小さな声でなにか言ったが、俺には聞き取れなかった。だが、大体予想はつく・・・俺への恨みの言葉だろう。無理やりキスした俺を罵倒するんだろう?すればいい。それでお前の気が済むなら俺は逃げない。

 ・・・そう思っていた俺の予想は見事にはずれた。


「責任とってよ・・・私のファーストキス奪った責任とってよ!」


 俺の胸倉を掴みエリカは叫ぶ。

 ・・・えっと、これは罵倒・・・じゃないよな?どうみても・・・


「せ、責任って・・・俺にどうしろっていうんだよ!」

「・・・責任とって、私と結婚して!」

「はあぁ!?」


 とんでもないことをエリカは言い出した。キスを奪った責任で結婚?ありえないだろ!それとも、お前の世界ではそれが普通なのか?いやいや、いくらなんでもそれはないだろう。そんなことを考えてたら、ふと、自分に注がれる視線に気づく、イルニールが目を覚ましこちらを見ていた。驚いた表情を浮かべて・・・

 うん。目が覚めたばかりのイルニールには、エリカが突然俺にプロポーズしてきたようにしか見えてないだろうな。なんせ、ずっと気を失ってたし・・・


「れ、レド!これはどういうこと?エリカと一体なにがあったの!?どうして僕こんなところで寝てたの?なんか途中から記憶がないんだけど、なにが起きたの!?」

「責任とってよ!レド」


「だぁー!!お前らちょっと落ち着け!!」


 俺は二人の頭に拳骨を降らせ黙らせた。頭の中で、「あははははは」と魔女の楽しそうな笑い声が響いている・・・。くそ、なんで俺がこんな目に・・・


 面倒だったが、俺は一から事情を説明することにした。

 エリカの魔力が身体から大量に放出され、魔力が低い獣たちが魅了されて結界に近づいてきたこと、その魔力にイルニールも魅了されてエリカを押し倒したこと(殴ったことは伏せて、魔法で眠らせたことにした)、そして、エリカの魔力を抑えこむのに無理やりキスしたことを全て話した。話し終わると、イルニールは「そんなことが・・・」と呟き、エリカは「私のファーストキス・・・」と落ち込んでしまった。・・・なんかすまん。


「なるほど・・・そういうことね・・・」


 上から降ってきたエリカじゃない女の声に、俺とイルニールはビクッと身体を震わせ凍りついた。恐る恐る顔を上げていくと、魔女集会に行ったはずのバルムが、空飛ぶスーツケースに腰掛け、足を組んだ姿でこちらを見下ろしていた。その顔は怒っているというより、呆れている感じだった。

 地面に降りてきたバルムに殴られると思った俺は警戒したが、バルムは俺を素通りし、エリカの正面に立った。そのまま品定めをするようにエリカを観察すると、ぽんっと肩に手を置いて微笑んだ。


「かわいいから許そう。」

「なにをだ!」

「お師匠様、ごめんなさいーーーーー!」


 突然イルニールが泣き出した。子供のようにわんわん泣くイルニールをバルムはすぐに慰めはじめる。やつは、かわいいものには甘い。すごく甘い。だからイルニールはババアのお気に入りでもあった。エリカは、突然のことで呆然としていたが。まぁ、無理もない・・・


「ねぇ、あの人って・・・」

「あれが俺たちの師匠で、魔女のバルムだ。」

「なんか、想像してたのと違う・・・」

「どんなのを想像してたんだ?」

「魔女だから、黒い帽子に黒い服を着た怖いおばあさんかと」

「どんな魔女だよそれ・・・」

「私の世界の魔女?」

「へぇ・・・」


 エリカの世界の魔女は、みんなそんな見た目らしい。まぁ、こっちの魔女もみんなババアだから、少しは似てるかもしれないが・・・

 イルニールが泣き止み、落ち着いたころ、バルムは俺に振り返り、満面の笑みを見せた。やばい!これ怒ってる顔だ!今度は殴られるだけじゃ済まないかもしれない!ババアはゆっくりと俺に近づく・・・


「ねぇ、レド?どうして女の子が、この屋敷にいるのかしら?」

「そ、それは・・・」

「どう見ても異世界の住人なんだけど、どうやってここにきたのかしら?」

「・・・・・・」

「あなたたち、私が留守の間に、なにかしたのかしら?」

「スミマセンデシタ・・・」


 怒りを纏った笑顔に負け、俺は、ババアの部屋を片付けている時に見つけた、召喚魔法の研究ノートを見て、それをイルニールと一緒に試したことを白状した・・・

 全てを聞いたバルムは、なにか腑に落ちないのか俺から視線を外そうとしない。


「・・・変ね。」

「なにが?」

「あなたとイルニールだけじゃ、彼女を呼び出すことは不可能・・・でも、彼女は召喚され、ここにいる。どうしてかしら?」


 ぞくっとした。初めて見る、貫くような鋭い視線・・・下手に嘘をつくのは危険、と俺の本能がそう告げた。


『レド、お願いがあるの。』


 魔女が俺に語りかけてきた。魔女もこの視線を感じているんだろう。いや、もしかしたら最初から、この視線は魔女に向けてられているものかもしれない・・・


『身体を・・・貸して』


 それは、魔女が俺の身体に宿ってから、初めて言われた言葉だった。バルムと直接話したい、ということなんだろう。乗っ取られたまま、魔女に身体を奪われるかもしれないが、きっと彼女はそんなことをしないだろう。自分でもわからないが、そう思った・・・


(好きにしろ)

『・・・ありがとう』


 意識が遠くなるような、感覚が遠くなる感じがした。でも、それは一瞬で、なにも変わった様子がない。そこにあるものはちゃんと見えてるし、ちゃんと感覚もある。本当に入れ替われたのか?

 俺には俺が見えない。だけど、目の前にいるバルムは驚いた表情を浮かべているし、視界に移ってるイルニールもエリカも驚いている。身体を動かそうとしても動かないし、ちゃんと入れ替われたのかもしれない。


 バルムの目には俺が映っていた。確かに俺だった。だけどそれは、俺の姿をしたまったく別の存在でもあった。


「初めまして、魔女バルム。私は魔女、無限の魔女」


 魔女は微笑む、レドの姿で。


サブタイトルは自分がわかりやすいようにつけてるだけなので

あまり気にしないでください。センスないんです・・・

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