表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔女の世界  作者: 小林久奈
レド編
11/19

報告書

 本人にとって重大な話をされている時に、すっかり熟睡して聞いていなかった魔女のために、俺はバルムが話したことを掻い摘んで説明することにした。


 無限の魔力を持つ災厄の魔女、その呼び名と所業を伝えれば、「そうなんだー」と深刻さの欠片もない声で相槌をつかれ、魂の浄化により記憶が消えている可能性を話せば「なるほどー」と答える。


 ・・・自分のことだよな?

 記憶がないから、ピンとこないんだろうが、もう少しなんか、思うところはあるだろ?


『まぁ・・・無限の魔女が危険な存在だって言ってたから、多分、悪いことをしてきたんだろうなーって思ってたし。話を聞いて、やっぱりー、って感じかな?』

「・・・ショックじゃないのか?」

『うーん、ショックって言ったらショックだけど・・・それよりも私は、魔力が無限にあるから浄化されず、消滅できないって方がショックかなー・・・』


 無限の魔女にとって、過去のことより、消滅できない事実の方がショックだったらしい。


「・・・それで、話を聞いて、お前はこれからどうするんだ?魔女」


 災厄の魔女、記憶がなくても、彼女はそう呼ばれるだけのことをして、また、それだけの力を持っている。だからこそ、聞かなければならない。彼女が過去を知り、過去の魔女のように災厄を起こそうとするなら、器である俺は、確実に身体を乗っ取られるだろう。そして、6魔女は躊躇なく俺と魔女を消そうと動き出すはずだ。ならば、そうなる前に自分で・・・

 そう思っていた俺は、忘れていたんだろう。半年間、俺の中で過ごし、会話を重ねてきた彼女が、どんな性格だったのかを・・・


『どうって・・・今まで通りかなー?レドやイルのことを見てるのは面白いし。今はエリカもいて、もっと面白くなってきたしね。』

「・・・真剣に悩んだ俺が馬鹿だった。」


 彼女にとって重要なのは、楽しい、と、面白い、だ。自分が興味を持たない、楽しくない、面白くないことには、すぐに不機嫌になって眠るという、子供っぽい性格だった。記憶がない時点で子供みたいなものかもしれないが。

 魔女は、災厄の魔女と呼ばれていた自分に興味がなさそうだ。つまり、今のところは危険がない。そう言えるだろう。もちろん、彼女の心が変わるようなことがあれば別だが・・・


 俺は、魔女の現状をバルムに伝える。おそらくこれも、報告書に書かれることだろう。それを読んだものがどんな決断を下すのかはわからない。だけど、今すぐ消されるということはない。それだけは確かだ。

 バルムは一言、「わかったわ」と言って、屋敷の中に戻っていった。報告書を書きにいったんだろうな・・・うん、まぁ、がんばれ・・・


「じゃあ、僕もお師匠様の部屋に戻るね。まだ、読み終わってない本が沢山あるし。」

「読んだ本はちゃんと戻せよ。」

「あ!あの時殴ったのって、それを怒ってたの?ごめんね、レド。気をつけるよ。」


 そういってイルニールも屋敷の中に戻っていく。残ったのは俺とエリカだけだ。なら、やるべきことはひとつだろう。


「さっきの続きだ。集中して自分の魔力を感じろ。」

「えぇ!?無理だよ、できないよ、きっと私、才能がないんだよ。」

「・・・魔法使いは諦めるのか?」

「う・・・諦める・・・だって、なれそうにないし・・・」


 魔法使いになれるかもしれない、という起爆剤は、どうやら思ったほど効果がなかったようだ。落ち込んだエリカは俯いている。これはやはり、別の方法を考えるしかないか・・・


「コントロールなしで、魔力を抑える方法か・・・」

『私が魔力注げばすぐだよ。』


 俺の呟きに、即答するように魔女が答えた。できればそれは、最終手段にしたい。


「そういう魔法道具とか・・・」

『ないと思うなー。魔力を増幅するのはありそうだけど・・・』

「だよなー・・・」


 魔法が全てのこの世界で、魔力を抑え、魔法が使いにくくなるような不便な道具を、わざわざ作ったりはしないだろうし・・・


「・・・お手上げか・・・」

『・・・ねぇ、6魔女に相談してみるのは?』

「ババアに?」

『全員に。』


 魔女はとんでもないことを言い出した。たしかに6魔女の中には、知識に長けたものもいる。しかし、相手は世界を守護する6人の魔女、無限の魔女を宿しているといっても、普通の魔法使いでしかない自分が、簡単に会えるような相手ではない。俺は頭を抱えた。


「それこそ無理だろ。というか・・・」

『ん?』

「それ、お前が他の魔女に会ってみたいだけだろ。」

『・・・ばれた?』

「やっぱり・・・」


 俺は呆れたようにため息をつき、一応、ババアに相談してみるか。とエリカを連れて屋敷の中に戻った。俺と魔女の会話、といっても、エリカには俺の独り言にしか聞こえないが、それを不思議そうな顔で見ていたところを見ると、もう落ち込んではいないんだろう。


「もう、魔力のコントロールは諦める。だから、他の方法を探す。」

「他の方法があるの?」

「これから探す。」


 そう言って俺は、さっきまでバルムがいた食堂を目指す。イルニールが部屋を借りている以上、まだ、そこにいる可能性があったからだ。案の定、バルムは食堂にいて、やつれた顔で必死に報告書を書いていた。その姿に話しかけるのを一瞬躊躇った・・・

 が、奇声を上げて頭を抱えだしたバルムに、俺は、はぁ、とため息をついて、ババアの向かいの席に座り、紙とペンを奪った。


「で、なんの報告書だ?まとめてやるから話せ。」

「レド?」


 突然のことに驚いたのか、バルムは不思議そうに俺を見ていたが、すぐに「助かる!」と笑顔になった。まったく、なんで報告書を書くだけに、こんなに紙を無駄にしてんだか・・・と、ババアの後ろで山になった紙くずに目をやった。


「それで、報告内容はなんだ?」

「半年前のことよ」


 ババアの言葉にぴくりと眉が動いた。半年前・・・俺の中に魔女が宿ったあの日のことか・・・しかし、あれはすでに報告書を出していたはずだが?


「ちょっとね・・・暈して書いてたことがバレて書き直しになったのよ。」

「それやばいだろ、普通に。」

「だからこうして今書いてるんじゃない。」

「はいはい・・・」


 俺はバルムから半年前の事件の内容を聞く、あの日のことは、俺自身もあまり覚えていないから、ババアの記憶だけが頼りだった。半年も経っているのに鮮明に思い出せるのは、それだけ衝撃が強かったということか・・・しかし、話が長い。要点だけを話せ、と言いたくなったが、そこは堪えた。まとめるのは俺の仕事らしい・・・


 掻い摘んでまとめると、ある少数の一族がある日、蘇生魔法で無限の魔女を蘇らせようと計画した。しかし、その儀式の最中、全身に黒い鎧を纏った何者かによって、儀式は中断させられ、一族は全滅させられた。・・・という感じだ。

 いつの間にか、エリカの入れた紅茶を飲みながらバルムは遠い目をした。


「・・・思えばあの一族は、無限の魔女の力を使って、村を蘇らせたかったのかもしれないわね・・・。今となっては、わからないことだけど。」


 それは俺にもわからなかった。あの一族のことも、儀式のことも、俺はなにも覚えていない。ババアが言うには、無限の魔女が身体に宿ったショックで、記憶が混乱しているのだろう。とのこと。

 あの日のことで俺が覚えているのは、真っ黒な姿をした存在と、血で染まった剣、そして・・・


「っつぅ!」


 突然走る鋭い痛みに、俺は思わず胸を掴んだ。その様子にエリカが心配そうに声をかけてきたが、なんでもない。と遮った。紅茶を一口飲み、自分を落ち着かせる。

 ・・・傷口などもう残っていないのに、痛みだってもうないのに・・・


「黒い鎧を纏ったものについては、未だ手がかりはないわ。目撃情報もないし、ファーネの目でも見つけられないっていうんだから、お手上げよ・・・」

「・・・他に報告すべき部分は?」

「あとは・・・あなたのことね。あの時の生き残りであり、魔女の器となった存在・・・」

「・・・それで全部か?」

「そうしたら次は、召喚魔法とエリカの報告書ね。これはあんたの方が詳しいから任せるわ。」

「わかった・・・」


 そう言って俺はペンを走らせる。ついでにエリカの魔力のことも書いておこう。もしかしたら、なにか方法を教えてくれるかもしれないしな。淡い期待を抱きながら、報告書を仕上げる。

 ほれ。と出来上がった報告書をババアに渡すと、泣いて喜ばれた。たかが報告書を書くのに、どんだけ苦労してたんだよ・・・などと、思ってしまう。


「本当に助かったわ。あなたが報告書をやってくれるなんて思わなかったけど、なにかあったの?」

「まぁ、ババアと話すには、まずそれを片付けないと無理だと思ったからな。」

「なるほどねー。それで?なんの御用かしら?」

「レド!?・・・大丈夫・・・?」


 さらっとババア呼びに反応して俺を殴ったバルムは、さわやかな笑顔を向けてそう言った。とりあえず、魔力を込めて殴るのはやめろ・・・と、反論すると話がずれていきそうな気がしたので、今回は気にせずに本題に入ることにした。


「エリカの魔力を抑える方法なんだが・・・」

「無限の魔女に魔力を注いでもらえばいいじゃない。」

「それは最終手段だ。他にないか?」


 バルムも魔女と同じ意見で頭痛を覚えたが、腐っても6魔女の1人だ、なにか方法を知っているかもしれない。・・・そんな淡い期待は、すぐ砕かれたわけだが・・・


「私、そういう魔法には詳しくないから、わからないわねー。」

「・・・なら、他の魔女で知ってそうなやつは?」


 俺の言葉にバルムは驚き、目を見開いた。しかし、すぐに思い立ったのか口を開いた。


「知識なら、北の魔女シャーネットね。あの子は勉強家だし、魔法にも詳しいはずよ。」

「北か・・・その魔女に会うことはできるか?」

「シャーネットに?・・・うーん、今すぐは無理ね。エリカのこともあるし・・・まずはファーネに話してからになるわ。私の弟子だからって理由で、すぐに会えるとは思わないでね。あなたは、魔女の器、でもあるんだから・・・」


 6魔女において、全ての決定権を持つのは、天空の魔女ファーネだという。

 彼女が、無限の魔女を宿したものを、他の魔女と接触させるのを許すかどうか・・・



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ