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魔女の世界  作者: 小林久奈
レド編
1/19

プロローグ

 最初の記憶は黒、窓もなく光も差さない真っ暗な部屋と「ごめんなさい」と呟く女の声、そして告げられる自分の名前とその意味、レディアルド・ノール。それが俺の名前となった。

 次の記憶は赤、たくさんの黒い影がたくさんの白い影を赤く染めていく。黒い影は俺にも迫り、俺も赤に染まって倒れた。黒い闇に自分が落ちていくのがわかった・・・だけど、不思議と恐怖も孤独も感じなかった。

 目を閉じようとした時、目の前に小さな光が見えた。それと同時に頭の中に声が聞こえてきた、目の前の光の声だと、なぜかすぐにわかった。声は俺に『かわいそう』と言った。そして次に聞こえたのは『助けてあげる』という言葉、光は俺の中に入り込みこう言った。


『私は無限の魔女。あなたを器とし、再びこの地に降りましょう』


拒否も拒絶もできない。そうわかっていた、最初から・・・



*********



『レド・・・』


 頭の中で俺の名を呼ぶ声が聞こえ、目を開けた。あの頃の夢を見ていたせいか少し気だるい・・・

あの時から、俺の中に魔女は宿った。魔女が宿ることで俺の命を繋ぎ、同時に魔女は肉体という器を手に入れた。しかし、魔女が俺の体を支配してどうこうというのは、今のところない。


「なんだ?なにか用か、魔女」

『・・・夢を、見たのね・・・あの時の』

「・・・・・・あぁ」


 魔女は俺と感覚を共有しているらしい。宿っているから当然だと言われたが、俺が感じたことは全て魔女も感じる。つまり、俺が感じた痛みや苦しみが、そのまま魔女も感じることになる。それは宿っている方からみれば、苦痛でしかないだろう。悪かったと、そう告げるしかない。過去も記憶も消えるものじゃないのだから、思い出してしまえば苦痛も同時に訪れる・・・。そんな痛みさえも共有してしまうのは正直、厄介だと感じてる。


『まだ起きるには早いし、もう少し寝たら?』

「冗談だろ」


 今眠ればきっとまた同じ夢を見るだろう。そんなのはごめんだ。ベッドから降りて窓から外を覗いた、確かに起きるにはまだ早い。空は明るくなってきているが、森はまだ深い霧に包まれている。この屋敷は森の中にあるため、外を見渡しても森の木々しか見えない。どうしてこんな人里離れたところに屋敷を建てたのか、この屋敷の主が考えることはわからない。



*********



 魔女が俺に宿ったあの日、目を覚ますと知らない部屋にいた。そこには、見た目二十歳前後の女が、窓から外を眺めていた。俺が起きたことに気がつくと、ほっとしたような顔を浮かべ、俺の側に駆け寄った。

「大変、だったわね・・・。」


 そう優しい声で言った。どこか辛そうな悲しそうな色を瞳の奥で揺らしながら・・・。


 この女が誰なのかわからない、知らない女なのは確かだった。


「あなたを私の、西の魔女、バルム・バッカードの弟子にします。」


 突然すぎて意味がわからなかった。この女は拾ってきた俺を弟子にすると、自分が魔女だと言た・・・魔女?その言葉を聞いて俺は思い出す、自分が死ぬ間際に聞いた声を。あれはなんと言っていた?・・・無限の魔女、たしかそう言っていた。


「あなたの中には魔女が宿っているの、無限の魔女が。」


まるで、俺の心を読んだかのように女は話しだした。


「遥か昔、無限の魔女と呼ばれた魔法使いがいたの。彼女は死んだけれど、その魂は魔力と共に今のこの世界に留まっていて、その魂を呼び出して利用しようとする輩がたまにいるの。」


要するに・・・


「あなたはその儀式に利用されて、その身に魔女の魂を宿してしまった。それはとても危険なことなの。無限の魔女の力は、世界を狂わせてしまうほど強力なものなのだから。」


魔女を体に宿したことで、俺は要注意の危険人物となってしまったわけか?


「だから、あなたを私の弟子にします。」


だが、それでどうして、弟子にするという話しになる?


「あなたに拒否権はないわ。私は世界を守護する6魔女の一人、危険因子のあなたを野放しにするつもりはない。弟子にするのは監視のためよ。」


なるほど。と、俺は納得した。それと同時に頭の中で声がささやく。


「・・・俺はレド。あんたの弟子になるよ。どうせ、行く当てもないからな」

「素直でよろしい。まぁ、詳しい話は追々してあげるわ。」


 そして俺は、魔女バルムの弟子になった。それと同時に、俺の名前はレドとなった。本当の名前もその意味も誰も知らなくていい。俺はレドとして、魔女バルムの弟子として、生きていくことにした。

無限の魔女と一緒に・・・



*********



「・・・・・・さて、そろそろ始めるか。」

 そう言って俺は、窓から離れ、着替えを済ましてから部屋から出た。

『今日の食事当番はレドだっけ?』

 魔女が不思議そうに尋ねてきた。口調や態度を見る限り、そんなにすごい魔女には感じないのだが・・・


「いや、今日はイルニールの当番だな。俺は薪割りだ」

『えぇ~!やだー、斧重いー、腕が痛くなる~!』


 すごい魔女にはまったく思えないんだが・・・


「嫌だったら寝とけ。意識がなければ、感覚の共有は一時的に切れるんだろ?」

『あ、それもそうね。じゃあ、私は寝るね、おやすみ~』


 そう言って、魔女の声は消えた。理由はわからないが、魔女が眠っていると、俺との感覚共有が切れるらしい。もちろんそれは一時的で、目覚めればまた共有する。だから、自分が感じたくないときは、魔女は寝ることにしていた。寝る、という表現があっているのかは謎だけどな。


 屋敷の外に出た俺は、深呼吸して、清々しい朝の空気を胸いっぱいに吸った。あぁ、今日もいい天気になりそうだ。

連載に挑戦・・・読んでくださってありがとうございます。

頑張ります。

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