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存在干渉の法則  作者: たびくろ@たびしろ
二人の同型真像の少女
97/110

早すぎる別れ

「ほら、行こう?」

私は彼女へ手を差し伸べる。

温かい。

人の温もりだ。先ほどまでの冷たい印象は、すべて消え去っている。

「えぇ」

彼女はそう答えた。

私はその手を引っ張り、歩き出す。この廃病院の出口に向かって。

「……っと、と」

不意に、足が絡んだ。

転びそうになった私の身体を、もう一人の私は引っ張ってくれた。

「あ、ありがと」

「大丈夫? ……やっぱり、さっきの……?」

「ま、まぁ……でも大丈夫だよ!」

私は無理やり笑顔を作りながら、彼女を安心させる。

しかし、彼女は未だ腑に落ちない様子で首をかしげていた。

(とはいっても……痛っ……)

彼女には隠しているが、なんだか身体中が痛い。特に足が。

おそらく、先ほどの回避運動のせいだろう。あの緑色の腕から逃れるために無理やり身体を動かしたからだ。

一応、あの時は身体をどう動かせば彼女の攻撃を回避できるかはわかっていた。さっきの暴走した『蒼い目』で、どこに攻撃が来るかは読めていたからだ。

と、いっても。

別に私は身体能力が高いわけではない。むしろ低いほうだ。なので、いきなりあんな急な運動をすればこうなるに決まっている。少年漫画の主人公みたいに、いきなり身体能力が上がるわけがないのだから。

そんなわけで、多少よろめきながらも私は進む。

すると、もう一人の私が話しかけてきた。

「アンタは……どうやって裏世界こっちに来たの? アンタには私みたいに世界を移動する能力はないはずでしょ?」

「あぁ、それは……」

そこで、言葉が詰まってしまった。

(あれ?これって言っちゃっていいのかな?)

伝えるのは簡単だ。二十八小夜、という少女の能力で連れてこられた、と言えばいい。

しかし。

確か、小夜ちゃんともう一人の私は敵対しているとか言っていなかっただろうか。

ここで伝えてしまっては、きっと彼女は逃げ出してしまうだろう。もしくは、小夜ちゃんを出会いがしらに殺そうとするかもしれない。

「どうしたの?」

無邪気な顔で裏世界もうひとりの私は聞く。

やばい。この顔を、再び『闇』に染めたくない。

「あ、えっと……」

気持ち悪い汗が背中を伝う。頭が真っ白で、何も考えられない。

どうしよう、どうしよう。

(で、でも……)

もしかしたら、和解してくれるかもしれない。あの瞬間で、すでに戦意は失っているはずだ。

そうだ。

彼女はもう、私と同じ、ただの女の子。

『闇』から脱却した、普通の高校一年生だ。

私は生唾を飲み込みながら、言葉を発した。

「つ、二十八小夜っていう女の子に連れてきてもらったの……透と同じ能力を持ってて……それで……」

「二十八……小夜……?」

(あーやっぱりまずかったかーッッ!?)

怪訝そうな顔を浮かべる同型虚影ドッペルゲンガーの私。まるで何かを思い出すような仕草を行う彼女に、私は正直ハラハラしていた。

まずい。

これは、なんだか踏まなくてもよかった地雷を踏んだような感じがする。

……と思ったのだが。



「……って誰?」



「あれ?」

予想だにしていなかった彼女のセリフに、私は思わず肩透かしを食らったかのようにコケた。

「え、え?いや、あれ知らないの?あれ?」

「いや、聞いたこともないわよ。まったくの他人」

そういって彼女は『知らない』とでも言いたげに眼前で片手を振る。その動作に、私は頭を抱える。

(どういうこと?二人は敵対関係にあるんじゃなかったの?)

小夜ちゃんは、確かに言っていた。

――――――――――僕が付いていけば、彼女は間違いなく僕らへ攻撃してくるでしょう。

それなら、もう一人の私は間違いなく小夜ちゃんのことを知っているはずだ。そうでなければおかしい。話が成立しないのだ。

(小夜ちゃんが……私を騙していた、ってこと……?)

いや、それなら意味が分からない。そもそも小夜ちゃんには私を騙して得られるものなどないはずだ。

今も小夜ちゃんは外にいるはず。

(いや、そもそも居ないのかも……――――――――――――ッ!)

そうだ。

分かった。

これは、罠だったんだ。

最初から。

全部。

「もう一人の私!!早く出よう!!もしかしたら……!!」

「え!?ちょ、ま……!」

私は全身が痛むのも構わず、走り出す。

いきなり走り出した私に驚きながらも、裏世界の私は後を付いて来る。

「どうしたのよ一体……!!」

「私達……はめられたんだ!!小夜ちゃんに!!」

「はめられた?」

「私達を接触させて殺し合わせるために……!!たとえ死ななかったとしても……『法則』の力で私が死んでしまうように!小夜ちゃんがそう仕組んだんだ!!」

つまり。

わざわざ表世界から私を連れてきたのは、このため。

私同士で、『榎田舞』同士で殺し合わせるため。

なぜ、こんな回りくどい方法を使うのかは知らないが、とにかく結論はこうだ。

「小夜ちゃんはあなたを殺すために私を連れてきた。だけど、それはすべて芝居だったんだよ!実際には、私を殺すためのステージを作ってただけなんだ!!」

「どういうこと?」

「私とあなたが出会えば口論になるのは誰だって分かる。それで、もしも殺し合いになったとしたら戦い慣れてない私が死ぬ。私があなたも殺していた可能性もある。でも、もしも殺し合いに失敗して互いに離れたとしても、あなたと触れた私は『法則』によって間違いなく死ぬんだよ!!」

「……なんで?」

彼女は、そう聞き返す。

「アンタは、なんでそこまで入念に用意されたステージの上で死ぬことになっていたの?こういっちゃ何だけど、アンタはそこまで身体能力は高くない。不意打ちでもされれば、すぐにでも死ぬような人間じゃない」

「……分からない。そもそもあののこと全然知らないし……。とにかく、早く出よう。もうすでに居なくなってるかもしれない!!」

目の前の玄関ドアを開き、私達は外へ飛び出す。

ポツポツと雨が降っており、病院の敷地内は街灯の光が反射して光っていた。

しかし、小夜ちゃんの姿はない。

「居ない……!!どこに……!!」


「ここですよー」


ふと、声が聞こえた。

声のするほうへ振り向く。病院の出口の方だ。

(いた!)

横断歩道をひとつ挟んだところに、彼女は立っていた。笑顔で手を降るその姿は、先ほどまでの『二十八小夜』と何も変わりがない。

「小夜ちゃん!!なんで私達を騙したの!?」

「え?何の事ですか?」

おとぼけ顔でしらばっくれる小夜ちゃん。しかし、もう全て分かっている。

「行こう!!直接話を聞かなくちゃ!!」

「そうね……!」

そういって、私は横断歩道へと飛び出す。相変わらず、小夜ちゃんはその笑顔を浮かべたまま。

しかし。


次の一瞬だけ、その笑顔が狂ったように歪んだ。


そして、横断歩道半ばくらいの時。


私のすぐ後ろを、猛スピードのトラックが通過していった。


「え……?」

そういえば、ちゃんと信号を見ていなかった気がする。深夜ということもあってか、そういう所に気が回らなかったのだろう。実際、信号は真っ赤に染まっていた。

しかし。

繋いでいた右手から温もりが消えた。

代わりに、生暖かいベットリとした液体が付着した。見なくても、感覚で分かった。

ただ、確実に。

私の後ろには、トラックが走り去ったルート上には。

もう一人の、私がいたはずだ。

「あ、ぁ……」

振り返ることは出来ない。首が、押さえ付けられたかのように動かない。

ねぇ、と呼び掛けてみる。

返事はない。

返事してよ、と言う。もう一度、握り直してよ、と叫ぶ。

返事はない。

「……う……、そ……」

ギリギリと、無理やり首を動かす。

少しずつ、視界に彼女が入ってくる。

いや、彼女ではなく、

『彼女だったモノ』と呼べばいいのだろうか。

そこに、それはあった。



身体はひしゃげ、血がそこらに飛び散り、



間接や骨格など、お構いなしに曲がった、



人間ではない『何か』が、そこにはあった。



「うわああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッッッッッ!!!!?」



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