闇に落ちた少女
何なのよ。
コイツは、何を言っているの?
同じなワケないじゃない。
アンタは何も失ってない。私は、何もかも失った。
それでも拠り所を探して、そして見つけたのが『組織』。
なのに、今はその『組織』に追われてる。
何なのよ、私は。
目の前の、私と同じ少女は。
同じ顔をしているのに、私とは真逆の人生を歩んでいる。
何もかもが恵まれていて。
誠も居て、透も居て。
何だろう、この感覚は。身体の芯が熱くなるような、そんな感覚。
あぁ、そうか。
別に、おかしくない。最初から、分かっていた。
コイツと私は、違うんだ。
同じようで、圧倒的に違うんだ。
名前が同じなだけ。顔が同じなだけ。
だけど、別人。同じ身体を共有しているわけじゃない。全く別の、存在なんだ。
「く…………ぁ」
だったら。
なんで、なんで。
わざわざ、目の前の少女と同じ部分があるんだ。顔。背丈。
こんなの、ただの皮肉じゃない。
「ぁ…………ぁぁあ……!!」
目の前の少女と同じようで。
本当は違うんだと。
世界が、二つの世界が。
私を嘲笑っているようなものじゃない。
「あああ……!!あぁぁ!!」
嘲笑っている?
違う。
否定しているんだ。
この私を。
私は、完全な下位互換。
目の前の少女の。
私なんか。
私なんか!!
「あ、ぁぁぁぁぁぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッッッッ!!!!!」
その時、何かが解き放たれたような気がした。
肩が。
両肩が、熱い。
身体が、猛烈に熱い。
私の視界に、見慣れた二本の腕が目に入った。カードの束を集めたような腕。緑色のスライムに包まれた、不気味な異形の腕。
「コ、ロス」
思考が、血生臭い赤一色に染められていく。
ソウダ。
殺セバイイ。
目ノ前ノこいつハ認メテ、私ヲ認メナイトイウナラ。
こいつヲ殺シテ無理ヤリ認メサセレバイイ。
私ノ。
同型虚影ノ榎田舞ノ、存在ヲ。
「アアアアアハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハッッッッ!!!」
私は思うがままに、その腕を振るおうとする。
その異形の腕を。
「死」
私は、まるで何かを咀嚼しているかのような声で。
実際には、それは溢れんばかりのヨダレやら何やらだったのだが。
叫んだ。
「ネ」
その両腕を、振るう。
まるで壁に突き立てるかのように。
もう一人の私、その頭を突き抜けるかのように。
両腕を重ね。
槍のように、突き刺した。
轟音が、鳴り響いた。
埃やらなんやらが撒き散らされる。視界が封じられる。
しかし、私は確信していた。
殺した、と。
何故なら、彼女は気絶していたからだ。瞳を完全に閉じ、壁にもたれ掛かっていた。
「クク、ハ」
笑いが、こみ上げてきた。
「ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!アッハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハッッッ!!!!」
殺した。
絶対に、殺した。
これで、認められる。私の存在が。
私は、榎田舞だ。
この世界でたった一人。二つの世界で数えても、一人しかいない。
正真正銘の榎田舞なんだ。
「――――――聞こえたよ」
「ハハハ――――――ッ!?」
埃が消え去ったその場所。
私が異形の腕を突き立てた、その壁に寄り添うように。
榎田舞は、立っていた。
私の、緑色の腕。その横、たった数センチ程の場所に。
「ハ、ハ。どう、して?なん、で?」
「聞こえたんだよ、あなたの声が。そんな悲しい思考の奥底に沈んだ、本当の声が」
薄く笑い、彼女は言う。
「ねぇ、言ったでしょ」
その一言を。
「――――――助けて、って」
「ッ!?」
私は思わず、その右腕を振るう。横に、水平に。表世界の私の首を、吹き飛ばす為に。
実際、壁には横一直線の跡が出来た。
しかし、それでも同型真像には傷一つ付かない。彼女はしゃがむことで、それを回避した。
「見える。見えるよ」
彼女は得意げに、呟く。
「あなたがどんな動きをするか。あなたがどんな事を考えているか。この『目』のお陰かな!?」
「そッ……んな!!」
異形の左腕を振るう。ちょうど、私の右腕と挟み込むような形で。
だが、彼女はそれでもかわす。二本の腕の間に飛び込んで。スレスレの、ちょうどいいタイミングで。
(う、そ……ま、さか!?)
能力の、暴走。
それが、彼女にも働いたとでもいうのか。
「なんでだろうね!!周りは同型虚影の反応でいっぱいだけど、あなたのだけとんでもなく際立って見えるよ!!それ、能力の暴走ってやつじゃないの!?」
「……ッ!!知ったような事……!!」
異形の腕を振るいながら、一歩、二歩と後ずさる。
しかし、その腕が彼女に触れることはない。かすりさえ、しない。
気付けば、彼女の瞳はただの『蒼い瞳』ではなかった。
瞳は蒼いが、眼球は黒い。まるで化け物のようなその目が、私に悪寒を伝えてくる。
「どうやら私も暴走してるみたいだね!!目が痛いよ。ズキンズキン言ってる。だけどね、あなたを助けるためならこんなもの気にならないよ!!」
私に近付いてくる。駆け寄ってくる。
「今あなたはこう思ってる。怖い、って。私が怖いって!!でも大丈夫!!私は、あなたを救う!!」
「う……るさい!!うるさいッッ!!」
私は、再び槍のように異形の腕を突き出す。
しかし、彼女には当たらない。身体を急回転させて、その攻撃をかわす。
「あなたの深層意識。それが、私に反応を伝えてくる!!今も!!助けて、助けてって!!」
「そんなこと思ってない!!そんなこと!!」
「思ってるから、言ってるんだよ!!」
次の瞬間。
思い切り、抱き締められた。
もう一人の私に。
「助けて欲しいんでしょ!?救いが欲しいんでしょ!?あなたを慰めてくれる誰かが、欲しいんでしょ!?」
「そんなこと……ッ!!」
「自分に素直になりなよ!!あなたはそう思ってる!!ごまかせないんだよ、私の瞳の前じゃ!!」
「ふざけないで!!そんなわけない!!そんな……ッ!!」
私は、異形の右腕を持ち上げる。
もう一度、槍のように。
それを、彼女の背中に向ける。
「だったら!!私があなたの救いになる!!私があなたを助ける!!だから!!」
「この一撃を喰らってからでも、アンタはそんなことが言えるの!?」
私は喚く。
それと同時に、槍のような右腕を発射した。
彼女の、背中に。
例え、私自身が巻き添えになっても。
私は、彼女を殺す。
救いなんて――――――求めてない。




