救い
そんな訳で。
私は今、何故か裏世界へと来ていた。
小夜ちゃんの『界転』に連れられて。もう夜の11時を回っているというのに。
「……ねぇ、私そろそろ家に帰らなくちゃなんだけど」
「じゃあ、舞さんは知りたくないんですか?『組織』の秘密を。同型虚影の舞さんを縛り付けている、その脅威ってやつを」
うぅ、と私は黙りこくってしまった。
確かにそれは知りたい。同型虚影といえども、やっぱり私と同じ存在だ。彼女を見過ごしていい理由なんて、どこにもない。
それに。
この事件には、透も関わっているらしい。小夜ちゃんが、そう言っていた。
(……だったら、私は透の役に立ちたい)
だって、私は。
あの時の、私の命を救ってもらったお礼を、まだしてないから。
まだ、彼の役に立っていないから。
「……そうだね。透を、助けなくちゃ。お礼を……しなくちゃ」
「でも、舞さんは許しているんですか?」
「え?」
小夜ちゃんは、私に問い掛ける。
出会ってまだ30分程度だというのに、随分と親しくなってしまった気がする。
「……あなたは表世界の人間です。ハッキリ言ってしまえば、『同型真像』じゃないですか。なのに、あなたは『同型虚影』の先輩を助けようとしている」
それも、と付け加えて。
「それも、あなたの幼なじみを殺した相手を」
囁くように。
呟く。
「……しょうがないよ」
「?」
それでも、私は答える。
所詮、自分で組み上げた理論なのかもしれない。それも理論、と呼ぶには随分と脆い、まるでシャープの芯のように折れてしまいそうな理由なのだろうが。
「正直、私だって分からない。頭ん中ゴチャゴチャで、彼をどう思えばいいのか迷ってる」
まさに、迷い。
どれが、正解?
どれが、間違い?
何が、正義?
何が、悪?
「だけど、」
私は。
私が。
「それで、仮に私が透を憎んだとして。それが何になるの?誰が救われるの?誰かが帰ってくるの?」
答えは、『NO』だ。間違いだ。おかしいんだ。
「それに、間違いなく私は透に救われた。あの時透が居なければ、今の私はない」
そう。
だったら、と呟く。
「私は、透を助ける。彼に、幼なじみとして力を貸す」
所詮。
私の自己満足かもしれない。足りない人間を、裏世界から引っ張って来ているだけかもしれない。拠り所が、欲しいだけなのかもしれない。
だが、助けたい。
彼が悲しむのなら、私は笑顔を浮かべる。そして、彼も笑わせる。彼が笑っていたら、私も一緒になって笑っていたい。
幼なじみとして。
例えそれが、世界を180度ひっくり返して紡いだ『偽り』だとしても。
彼が、大好きだから。
だってそれが、幼なじみなんだから。
「……そうですか」
小夜は、静かに答える。
「そういう所、先輩にそっくりですね。先輩だって、あなたを救いたいって言ってましたし」
「わた、し……を……?」
僅かな驚き。
それを口に出す。
「先輩ってホントお人好しですよね。こんな僕の事だって救ってくれたし……あなただって救われた。それだけじゃない」
口元を揺らしながら、彼女は笑う。
「同型真像の真咲さんも、素直じゃないですけどだんだん心を許し始めている。まぁ、彼女の場合はエノ君の影響で、心が柔らかくなっているだけだと思いますけど。それに、同型虚影の舞さんなんてデレデレです。もうヤンデレレベルです」
自分で笑いながら、彼女はしかし深刻な顔付きになる。
「……冗談にならない程のヤンデレっぷりですけどね。もうギャグにするのも嘆かわしいほど。そのせいで、あの人は……」
小夜ちゃんは苦い顔で吐き捨てる。何か、同型虚影の私にされたのだろうか。
「……小夜ちゃん?どうしたの?」
「いえ、大丈夫です……それに、これからはそんなことを気にしていられない状況ですしね」
「え?」
と。
小夜ちゃんは、足を止める。
その動作に違和感を覚えた私は、同じ様に歩くのを止めた。そして、小夜ちゃんから視線を離す。
瞬間。
私が目を向けた、その先は。
「ぅ……ぁ……!?」
目の前には、今にも何かが化けて出そうな廃病院があった。
施設自体は別にボロい訳では無いのだが、電気は全くついていない。イメージとしては、経営に失敗して誰も居なくなったとか、そんな感じ。ましてや廃『病院』となると、手術に失敗して死んでしまった人とかがお化けとして出てくる可能性がなきにしもあらずとかなんとか。
とにかく、怖いのである。
「……ねぇ、別に肝試しをやりに来たんじゃ……ってちょっと!!何の躊躇いもなく踏み入らない!!」
「え?だって目的地はここですよ?」
先程と変わらぬ表情で、彼女は言い切る。スゴいなオイ。ここマジでヤバイですって。
「別に廃病院って訳じゃないですから。経営に失敗して、一時的に誰も居ないだけですよ。別に何かが化けて出たりはしませんから」
予想的中。スゴい。
「で、でも……!」
「ほらほらビビらない。それに、そんなオバケなんかよりもっと恐いのが、ここに居るんですから」
多少涙目な私に笑いかけながら、彼女は意味深なセリフを吐く。
「も、もっと恐いって……」
「えぇ」
風が吹く。
冷たい、冷たい風。思わず、身を震わせてしまうほどの。
例に違わず、私は震える。しかし彼女は小夜ちゃんは動じず、また瞬きをすることもなく、一心に私を見つめて、言った。
その口元に、微かな笑みを浮かべながら。
「同型虚影の榎田舞。もう一人の、あなたですよ」
それは、私の鼓膜に深く響いたような気がした。
疑いたくなるような言葉を、脳内で何度も繰り返す。
「え……?今、とんでもないヤンデレだからみたいな会話をしたばかりだよね?」
「はい」
「しかも誰かがどうかなったみたいな独り言を呟いたばかりだよね?」
「はい」
「…………………………………………………………………………………………………………………………………………」
暫しの沈黙。
少しの呆れ。
そして抵抗心が沸き上がる。
「うぉぉぉぉぉぉい!!それってなに!?私に死ねと!?冗談じゃないよ!!っていうか居るの!?そこの廃病院に!?」
「そうですけど、なにか?」
「待って待って!!何の躊躇いもない無表情で言うのやめて!?大体、私がもう一人の私に勝てるわけないし!!」
なにしろ、触れられただけで死んでしまうのだ。勝ち負けどうこう以前に、無理だ。別に拳銃を持ってる訳でもないし、運動神経なら確実にあっちの方が上だ。
しかし。
「別に、僕は裏世界の舞さんと戦えなんて言ってませんよ」
「え?」
次回から後書きやめます。ネタが無いんで。
何か言いたいことがあれば後書きに書くので、よろしくお願いします。




