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存在干渉の法則  作者: たびくろ@たびしろ
二人の同型真像の少女
90/110

不思議な少女

『ったくもう、何で途中でどっか行っちゃうかなー』

機嫌を損ねたような声が、携帯の向こう側から聞こえる。

私は通話なのにペコペコと頭を下げ、

「ごめんね、ちょっと大事な用事思い出しちゃって……」

『カラオケの途中でー?もー、せっかく二人で夜が明けるまで歌い尽くそうと思ってたのに……』

「ホントにゴメン!!今から戻るから!!」

鈴奈は本気で怒ってるみたいだ。先程10件ほどメールが来ていた事に気付き、恐る恐る電話を掛けたらこれでした。

一言目は『ふじゃけるなバカモン』で、二言目は『今どこ?』だった。

そんなワケで、現在カラオケボックスまで帰還中の私、榎田舞なのでした。

(だけど、さ)

私は、溜め息をつく。

命が掛かってたんだから。大切な、友達の『命』が。それならもう助けるしかなかったでしょ。

まぁ、私が一方的に友達とか思ってるだけだと思うけど。

「…………エノ君、か」

立花さんを殺しかけたというあの少年、一体誰なのだろう。不思議な少年だった。

髪の毛は緑色、右目は黒い眼球、瞳は両方とも緑色。

身体には10本程のコードが通っており、四肢に黒い枷のような輪が付けてあった。

何らかの病気、なのだろうか。

(……なんだか、懐かしい感じがした……)

それはあの少年の雰囲気だ。そう、言うなれば……



「幼い頃の弟さんにそっくり、ですよね?」



「ッ!?」

いきなり掛けられた声に、私は思わず首を巡らせる。驚いた事により、疼くような感覚と共に私の瞳が蒼くなる。

それは、中学生くらいの少女だった。

塗り潰したかのような黒髪。まるで少年の様に短いその髪は、月明かりに反射して青白く輝いていた。

瞳は、濃い緑色。黒緑、とでも表現するのだろうか。

身長は私より少し小さいくらい。服装は、短パンにパーカーという至って平凡な格好。しかしパーカーには袖が無く、裾の高さも胸よりちょっと下だ。中に着ているランニングも、それに合わせるように裾が切られている。

ようは、ヘソ丸出しという事だ。

「だ、誰……!?」

「舞さん、ですよね。僕の名前は二十八(つづや)小夜(さよ)って言います。小夜、って呼んでもらえると嬉しいです」

目の前の少女は、そう名乗った。

その黒緑の瞳を、ギラギラと輝かせながら。口元に、薄い笑みを浮かべながら。

「……な、何の用?ていうかはじめましてだよね?なんで私の名前を――――――」

「そりゃあ、」

彼女は私の瞳を指差すと、

「あなたが『Blue-eye』と呼ばれているからですよ。既に、下調べはしてあります」

「――――――ッ!?」

一瞬、背筋に寒気が走った。

目の前の少女は、ただの少女ではない。私の秘密を知っている、この事件の当事者だ。

別に、目の前の少女に恐ろしさを感じたワケでもない。殺される、と思ったワケでもない。

ただ、不気味。

瞳が緑色ということは、きっと裏世界の人間だろう。なのに、

彼女は、私の『蒼い目』に反応しない。

それだけじゃない。

その性別がどっちとも取れないような風貌、口調が。

まるで、彼女からは何も感じないような気がして。人間として計りきれない何かを抱えているような、あるいは何もかも失って空っぽになっているような、そんな気がして。

それらを全部ひっくるめた結果。


私は、逃走を選んだ。


踵を返し、私はその場から走り去る。このまま逃げ切れる気はしなかったが、このままでは大変な事になると思ったのだ。

なのに、後ろから、声が聞こえた。

「まったく……逃げないで――――――」

それは、一瞬のノイズを生み出したかと思うと。

まるで飛んだかのように、

目の前から、

「――――――くださいよ」

聞こえてきた。

「う、――――――わッ!?」

まるで瞬間移動のようだった。

目の前に、一瞬カードのようなものが現れたかと思うと、それは一秒も経たずに膨れ上がった。

そして人型になり、最終的には先程の少女に。

そんな超常現象を目の当たりにしてしまった私は、思わず歩を止め、そのまま尻餅をつく。

「話を聞いてくださいよ。酷いじゃないですか、何も言ってないのに逃げるなんて」

「だって……あなた……」

「いいから話を聞いてください。危害なんて加えませんから」

まるで私を諭すかのように、人差し指を上げる。その仕草自体は、可愛らしい少女そのものだ。

「い、今のは……!?」

「ん?あぁ、これは『界転(リバース)』の時に生じる着地点の誤差を利用したんです。我ながらこの発想は神がかってると思うんですよ」

首を傾げる私に、小夜と名乗る少女は説明してくれた。

界転(リバース)』。透が使っていたあの表裏を行き来する能力。

実は、その力には誤差が生じる。例えば、裏世界のA地点から表世界のA地点に行こうとすると、そこより一メートル離れたB地点に降りてしまうとか。

今の瞬間移動は、それを逆手に取ったという。

最初からB地点にズレるのを予測しておき、それに調節したA地点に飛ぶ、ということ。ちょうど、アーチェリーなんかで風で矢の方向がズレるのを見越して、狙いよりずらして放つとか、そんな感じである。

その裏表の行き来を一瞬で行えば、まるで瞬間移動しているように見える。

「まぁ、力を結構使うんで無闇に多用は出来ないですけど」

「……っていうか、あなたも『界転(リバース)』を使えるの?透と同じように?」

小夜ちゃんは、小さく頷く。

「一度中継地点になりましたからね。本当の能力はそっちじゃありませんが」

何だかよくわからない言葉を呟き、彼女は再び口をつぐむ。

そんな彼女に、私は問い掛ける。

「……ていうか、透の事知ってるの?」

「そりゃあ先輩ですから。……それに色々助けてもらいましたし」

む。と、私は思わず声に出してしまった。

(まーたフラグ立ててる。表世界(こっち)の透以上に素質がある気が……)

「それより聞きたいこと、あるんじゃないですか?さっきの僕の発言に対して、とか」

微妙に苛ついていた心を振り払い、私は正気に戻る。

「うん。エノ君が誠に似てるっていうのは思った。だけど、なんであなたがそんなこと……」

「そんなの、下調べしたからですよ。あと、言わせてもらうと、」

彼女は、クスリと笑いながら、



「その予想は、間違ってません」




何だかんだで90話ですね。

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