謎の少女
「……あ、れ?」
私の傍らから、そんな声が聞こえた。
自らの机の上でパソコンをいじっていた私は、そんな声のする方へ顔を向けた。そこには私のベッドがあり、その上には『彼』が寝ている。
緑色の髪の毛、緑色の瞳をした、
緑色の少年が。
「……起きた?エノ君」
「マサキ……」
目の前の少年は、泣き出しそうな顔をしていた。
おそらくは、先程のことを申し訳なく思っているのだろう。いや、きっとそれどころじゃない。思いやりや感受性が強い子だから。
「……僕……マサキを……」
私は机から身を離し、エノ君の寝ているベッドに腰掛けた。慌てて起き上がろうとするエノ君を諭し、私は話し出す。
「大丈夫、エノ君のせいじゃないよ。悪いのはエノ君を操っているヤツなんだから……」
確信が持てるワケじゃない。エノ君が誰かに操られている、なんてのは私がその場で造り上げた予想だし、きっとエノ君にもそれを裏付けするための記憶はないだろう。
実際、エノ君は黙って俯いたままだ。状況が分からず、自分が何なのかもわからないような、そんな感じ。
「……私ね、信じてるから」
そんな彼の頭を撫でながら、私は微笑む。
上手く微笑むことが出来たのかは分からない。実際、私も何でこんな心理に陥ってるのかすらわからないからだ。
でも、これだけは確信している。
「エノ君は……私を傷付けるような人間じゃない。私の事を大事に思ってくれてる……とっても優しい子だよ」
「でも……でも……!!」
エノ君の言葉に、嗚咽が混じる。やっぱり、彼自身のメンタルはか弱い。
「だって、泣いてくれてるでしょ?」
「…………!!」
「私に申し訳ないって思ってるから……私が大事だから。そうだよね?」
彼は小さく頷く。自身の涙を拭いながら、何度も。何度も。
だからこそ、私は信じてる。
君は、私なんかよりも、ずっとずっと、優しい人間なんだって。
こんな復讐にしか心を燃やせない女より、よっぽど出来てる人間なんだって。
別に、自分を卑下しているワケじゃない。自身に悲観的なワケでもない。
ただ、比較対象が私なだけ。
そう考えると、目の前の少年がとても哀れに思えてきた。
こんな人に好かれるような性格をしていながら、恐れられる外見。
何処の誰かも知らない人間に(予想ではあるが)操られて、殺しなんてしなくてはならなくて。
まるで、生を縛られているかのように。
そう、鳥籠に囚われた、羽ばたくことのできない鳥のように。
「……本当に優しい子だから。私なんかの所に突然現れて、私の心を癒してくれて」
「ぼ、僕は別に何かしたわけじゃ……」
何だか、私はこんな事ばかり言っている気がする。
いや、こんな事しか言えないほど、私は彼に癒されているのだ。彼の笑顔に助けてもらって、私の心の傷を埋めてくれて。
感謝しても、しきれないくらいだ。
「そ、それにあの人が居なかったら……やっぱりマサキを殺してたと思うし……」
不意に、エノ君が意味深な発言をした。
「……あの人?榎田サンの事?」
「榎田サンっていうの?あの黒髪の人?」
黒髪と言うのだから、きっと榎田サンの事だろう。実際、私を助けてくれたのは榎田サンなんだし。
しかし。
「……うーん、違うと思うなぁ……前に会った気がするし……」
「え?」
前に、会った?
それはおかしい。
確かに、私は榎田サンとは一度会った事があった。水瀬に呼ばれた時だ。
しかし。
その時、エノ君は連れていかなかったハズだ。
(……前に……うーん……?)
エノ君は物事を記憶するのが苦手な方だ。実際、私もなのだが。
しかし、私は滅多なことでは外には出ない。高校も神代君が死んでからは、一度も行ってない。
なので、外出した記憶は鮮明に覚えている。数少ないからこそ。
別に、威張ることではないのだが。
(一個一個思いだそう……)
最新のは水瀬に呼び出された時。その前には、あのボクっ娘の家。
あの時は……なんで偽者を殺さなかったんだろう。やろうと思えば、できたハズだ。
エノ君……何気に同型虚影と仲良かったなぁ。ちょっと複雑な感じ。
「――――――!!」
その時、私は思い出した。
そう言えば、私はあの時以外エノ君を同型虚影共に会わせたことはない。と、いうより人と会わせすらしてなかった。
そして。
あの中で、黒髪の人間といえば。
「エノ君。それってさ、確か女のクセに僕とか言ってたヤツじゃなかった?」
それを聞いて、エノ君も思い出したように、
「そうだ……サヨだ!」
「サヨ?」
「確か……二十八小夜って名前だったと思う!」
「二十八……小夜……」
私は、それに少し引っ掛かった。
アイツは、確か自分の事を『正体不明』と名乗っていた。表の人間でもなく、裏の人間でもない。
だけど、アイツは神代君の偽者の力で裏世界に戻ったハズだ。
そして、ここは表世界。
アイツの能力は、能力を持つ人間と持ってない人間を繋げる能力。
なら、
アイツはどうやって、表世界に来た?
偽者の力を借りた?いや、それなら偽者もいたハズだ。
「ねぇ、その二十八小夜以外に、誰か居なかった?」
「いや……サヨだけだったよ?」
だったら、偽者に連れてこられた説はあり得ない。隠れていたとかはあるかもしれないが、わざわざ隠れる意味がないのだ。
「…………?」
アイツは、一体何者なのだろうか?
まさしく、『正体不明』だった。
何気に重要ですよサヨは。
ちなみにエノ君は親しい人の名前をカタカナで呼びます。小説ってこういうところで個性を出せるからいいですね。




