追っ手
「っ!!」
銃弾が辺りの壁に突き刺さる。
そんな轟音が響き渡る中、私はとにかく逃げていた。
飛び交う銃弾の向こうから、可愛らしい声が聞こえる。しかしその内容は、
「ホラホラァ!!このままじゃ負けちゃうぞー?いいのかァー?」
と、乱雑極まりないものであった。言葉を発しているのは、私と同年代くらいの少女だというのに。
(くっ……このままじゃ……!!)
「あれー?ヤンデレ榎田ちゃんはこの程度なのかなー?このままだったらその可愛いお顔がオレの銃弾でベッコベコになっちゃうよー?」
(だ、誰がヤンデレよ!?オレっ娘にだけは言われたくないし!!)
もう何だか叫び返してやりたい気分だったが、そんな事をすれば奴に見つかってしまう。
私は唇を噛み締めながら、ひたすらに足を動かす。
あのオレっ娘は、恐らく『組織』の追っ手だろう。病院から抜け出した私は、『組織』の格好の的だった。
本当ならば、病院から抜け出すべきではなかったのかもしれない。だけど、私は耐えきれなかった。透が他の女にたぶらかされるのが。
だから『殺した』。金髪のあの女を。奴の汚らわしい心臓に、でっかい包丁を突き立ててやった。
あの時の金髪の表情といったらなかった。絶望に歪んだ顔。それでも助けを乞うような、そんな哀れな目。まったく、何故この世界の人間はみな同じ瞳をしているのだろう。アイツと私が同じ瞳だなんて、本当に気色が悪い。
アイツは苦しみ、あえいでた。私の方へ倒れ掛かったアイツをドアに立て掛け、そのままドアを閉めてから、私はその場を去った。
今頃は、既に見つかっている事だろう。透も、既にアイツの死体を発見しているはずだ。
透は、今どんな気持ちなのだろうか。悲しいのだろうか。
(いや……違う)
透は嬉しいハズ。私はここ何日か透を観察していたが、透はアイツを鬱陶しげにあしらっていた。
私は、透の役に立ったんだ。
「~~~ッ!!」
あぁ、身体がゾクゾクする。自分が透と一緒になってるような感覚。思わずにやけてしまう。
しかし、肝心のオレっ娘はそんな事は気にも止めない。
機関銃を乱射しながら、私の事を侮辱する。
「ホラァ、早く出てこいよォ!!オレの機関銃で蜂の巣にしてやるからよぉ!!」
とりあえず無視して、私は二階へと上がる。そこにはプレス機やらなんやらが設置してあった。元々何の工場だったのかは知らない。が、ランプとかが点いている辺り、とりあえず動くようだ。きっと、廃れてからまだそう経っていないのだろう。
と。
「ん……?」
私が目を凝らすと、奥の方に何かが散らばっているのが見えた。
数本の鉄の棒。
長さも太さもバラバラで、切り口は歪んでいる。無理やり引きちぎられたような、そんな歪み方をしていた。
(……武器になるかしら)
とりあえず手頃な長さ、太さの物を一本掴む。大体1メートルくらい、太さは水道管くらいだ。まぁ、無いよりマシかしら、くらいの感覚で、私はそれを握り締めた。
と、その瞬間。
「ッ!?」
私はとっさに、その場から離れた。そこへ、機関銃の銃弾が叩き付けられる。
「見ぃつけたァ……裏切り者よォ!!」
「っ……!!」
一応この先にも道があるが、道自体はこのオレっ娘と直線上になっている。機関銃を構えられている今、このまま進めば絶対に撃ち抜かれるだろう。
(……冷静になるのよ、私)
何故か、オレっ娘は機関銃を構えたまま動かない。しかしニヤニヤしたままだ。きっと、私が動けないのを楽しんでいるのだろう。『組織』の中にいる人間はそうだ。大体どこか狂っている。
私は彼女へじっと目を凝らした。内側にカールした金髪。どこか幼げなその顔立ちは、今は狂気を帯びている感じがある。なんというか、大人しそうな少女を無理やり凶暴にさせたような。
服装は戦闘服。しかしスニーキングスーツのような、ライダースーツのような感じがする。重装備、という感じではない。肩には弾帯をクロスさせており、腰にも恐らく弾薬が入っているであろう箱があった。弾薬箱、とでも言うのだろうか。
(あぁもう!!こんな事考えたって……!!)
と、その時。
私の肩から、血が噴き出した。
「ガッ!?」
「ホラホラァ!!アッハハハハハハハハハハハハハ!!」
オレっ娘の顔が楽しげに歪む。とろけそうな程愉快なその表情に、私は痛みと共に恐ろしさを感じた。
「ぐっ……なん、なの、よ……。アンタだって……イカれてんじゃない……!」
「ハハハハハハハハハ……えぇ?イカれてるってェ!!別にイカれてねぇだろーがよ。人間なら血を見て喜ぶのは当然だろォ!?」
その時、私の中で何かが切れたような気がした。
最近忙しくて更新できませんでしたてへぺろ(二回目)。すいません。