計画の『要』
「俺の……存在……?」
俺は思わず少しだけたじろぐ。
「そもそも、この『計画』っていうのはね……?」
水瀬江里は俺の目をしっかりと見つめ、話し出す。
「あなたの『界転』と、小夜クンの『連結』の力をデータ化、それを目に見えないほどに縮小した『Black-eye』に入力するの。後はその全てを乗せた『Black-eye』……組織の連中は『界転地点』なんて呼んでるらしいけど。それを、国民全員に拡散させるのよ。方法は何でもいい。水道水に混ぜるもよし、会社だの学校だのの空気中に撒き散らすもよし。とにかく体内に入れば、『界転地点』は確実に機能する」
まさか、既にこれほど具体的に決められているとは思わなかった。
しかし、俺は今疑問に思った事がある。
「アンタ……やっぱり小夜の事、知ってたのか……!」
「『計画』について調べてたら顔写真ごと載ってたからね。もちろん、性同一障害なのも知ってた。まさかあなたと知り合いだとは思わなかったけれど」
水瀬江里は少々苦い顔をして、言う。
「……あの娘。色々なギャップを抱えてるようね。自分が同型真像か同型虚影かも分からず、なおかつ男か女かさえも分からない。そのくせ、『連結』なんて力を持ってしまった。あなたがそれを掘り返すような事をしてなかったのだけが救いかしらね」
「俺はそんな事しねぇよ!!……そんな事、するわけねぇじゃんか」
幼少期から人見知りで苦しんでいた俺からすれば、そんな差別なんてするわけがなかった。誰かを蔑むなんて、したくなかった。
「……まぁ、そういう所もあの人から受け継いだのよね」
「あの人?」
「何でもないわよ」
彼女はそう言ったあと、自分の髪を弄び始めた。
「……まぁ、だからこそ組織はあなたを狙おうとしているのだけれどね」
「なぁ、こう言っちゃ悪いが、舞はどうなるんだ?アイツも確か『界転』を使えただろ。わざわざ俺を捕まえるより、同じ組織の舞を使った方が早くないか?」
「あら、あなたは幼なじみの女の子を身代わりにするような男なの?」
「ち、違ぇ!そんなわけじゃねぇよ!」
そんな意味で言ったのではない。単に効率の問題だ。
幾分か捕まえるのに時間と労力が掛かる俺よりも、仲間である舞を使った方が楽だろう。時間も掛からず、言い方は悪いが騙して捕獲するようにすれば計画は早く進むだろうに。
しかし彼女は言う。
「……冗談よ。結論から言うと、それは無理。舞ちゃんの『界転』は、あくまで『舞ちゃん一人を運ぶため』のエネルギーしかない。つまり、一人分しか席は無い。でもね、透。あなたは『力が及んだ人間全てを運ぶ』ことが出来る。この辺が後付けした舞ちゃんの『界転』と、自然に発生した透の『界転』の違いかしらね」
簡単には言えば、バイクと乗用車のようなものだ。
バイクは一人しか乗れない。しかし乗用車は何人かまとめて乗せることが出来る。
つまり、そういうこと。
「試しに舞ちゃんを小夜クンで『連結』して、何人かで『界転』してみれば?きっと舞ちゃんの身体はエネルギーに耐えきれずに破滅するでしょうね」
「…………っ!?」
この前の、表世界への『界転』。
あれは、本当はとても危険な事だったのかもしれない。俺がもしも全員を乗せきれる器じゃなければ、俺は破滅していた。真咲や小夜に影響が出ていたかもしれない。
小夜自身は、この事を知っていたのだろうか。
「まぁ、この計画自体は、あなたと小夜クン、そしてエノと呼ばれる人造人間が居なければ成立しない。つまり……」
瞬間、彼女はニヤリと笑うと、
「この場であなたを殺せば、計画は中止になるのよね」
「なっ……!?」
俺は思わず後ずさった。椅子に座っているにも関わらず、無理やり後退する感じで。
「……でも、私はそんなことはしない。可愛い可愛い一人息子だもの。その為に、お母さんは頑張ってるのよ?」
ヘラヘラと笑う彼女には、どこか余裕があった。
そうだ。
そもそも、俺が居なければこの計画は成立しない。
『界転』が居なければ、計画は瓦解するのだ。
「だから安心して?大好きよ、透。お母さんを信じなさい?私がなんとかしてみせるから」
やはり、母親としての情は残っているのか。
水瀬江里は愛くるしい笑顔を浮かべると、その場を後にした。
気付けば80話を越してました。無駄に長い。




