意気投合
あぁ、もう意味わかんねぇ。どうなってんだよ、一体。
「それで、お前は何でここにいるんだよ。ていうか、お前なんで俺と同じ顔してんだ?」
だから、もう逆だよ。俺が聞きてぇよ。
何で死んだかと思ったら路地裏に座ってて、家に帰ったら後から俺と同じ顔した奴が出てきやがんだ。
今、俺は自分自身(?)の家の居間でもう一人の俺とやたら目付きの悪い立花らしき女の子に事情聴取されている。しかも正座で。
とりあえず予想を立てよう、うん。とりあえずいくつか。
1.この目の前に居るもう一人の俺が偽者。立花は演技してるか、騙されてる。
2.俺が偽者。今まで気付いていなかっただけ。
3.さっきの事故でどっか超次元を越えて平行世界へとやって来た。
さぁ選べ、俺。多分この中のどれかだ、多分。
そういえば、俺がここに来るまでに気付いた事がある。それは、今まで見た街の人や、帰りがけのクラスメイト全員に当てはまる。
(瞳が……緑色じゃない?)
そう、さっきまでは、事故に巻き込まれるまでは、みんな瞳が緑色だった。
しかしあの路地裏で目を覚ました後、道すがらに通り掛かった人々はみな、目が黒か茶色だった。最初は『わ、なんだアイツ黒のカラコンとかチャラい奴だなぁマジキモ』とか思っていた。
しかし、それから通りすがる人達はみんな目が黒かった。俺の評価はだんだん『最近黒のカラコン流行ってんのか?クソだな』になり、年老いたカラコンとは無縁そうなじいちゃんの目が黒いのを見てついに『ん?なんかおかしくねぇか?』になったのだった。
と、いうことは。
(1は消えたな……演技にしちゃ範囲が広すぎる。2か?いや、それは信じたくない。なんじゃそのどっかの中二病感満載のトンデモ設定は)
「おい、さっきから何黙りこくってんだ。知ってる事言えって」
今考えてんだよ邪魔すんな。じゃあやっぱ3か?でも……
「言えっていってんだろが!!」
「うるせぇ俺だってわかんねぇよこのカス野郎!!」
あ、つい叫んじまった。
「なんだとこの野郎……!!」
もう一人の俺がつかみかかってきた。やばい。腕力が貧弱すぎる俺じゃ勝てねぇ。いや、相手も俺なんだけど……なんか無駄にスポーツマン感が漂ってくるんだよ。まったく逆だな、俺よ。
「……ゃ、ゃめてよ……!!」
「は?」
いや、何て言ったのかな?『めてよ』しか聞こえなかったんだが。もちろん、ぼそぼそと訴えかけたのは目付きの悪い立花だ。こえぇ。目付き悪いっていうか、目の下のクマがヤバいな。ホラー立花だ。
「……ちぃ。しょうがねぇな」
え、なに理解出来たの!?俺全然分かんないんだけど。
もう一人の俺は俺を掴んでいた手を離した。…………あ、分かった。『やめてよ』って言ったのか。
これはあれだな、コミュ障だな。
「喧嘩したってしょうがないよ。あ、いや、その、おち、落ち着いて話そうよ」
俺が聞き取れない、という風な表情をしたからか、ホラー立花は今度は声量を大きくして話してくれた。だが言わせてもらおう。
「お前が落ち着け」
「ひぃ!?」
おい、こんな一言でビビんなよ。身体をビクリと震わせた立花は隣に座るもう一人の俺の袖を掴んだ。何、もう出来上がってんのかお前ら。
あ、違う。気付かれない程度だけどもう一人の俺の顔がひきつってる。きっと怖いんだな。
「ていうかもう一人の俺。お前俺とは根本的に違ってんな。似てんのは見た目だけか」
なんてったってスポーツマン感プンプンするし、立花の仕草を拒絶してる様子もない。まるで他人との関わりを楽しんでいるかのようだ。
それに引き換え、俺は他人との関わりを自分から拒否し、運動もしないで図書館に入り浸っている。
「で、でも……」
口を挟んだのは立花だ。視線を下に落としながらも、ゆっくりと言う。
「瞳の色、違うよね……こっちの神代君は、茶色。偽者の神代君は緑色。珍しいね、緑色なんて」
「偽者って……チクショウ、なんか腹立つな……ていうか、緑色が当たり前じゃないのか?そういえば緑色の奴一人も見掛けなかったけど」
そう、そうだ。まだこの問題が解決してない。何故、みんな目が黒か茶色なんだ。
「は?何言ってんだ。緑色の瞳の人なんてそうそう居るわけねぇだろ。少なくとも日本じゃあんまり見ねぇぞ」
「ホント、珍しいよ。緑色の瞳なんて」
もう一人の俺が言うと、立花も続いた。
「いや、日本人のクセに赤い瞳のお前が言うな」
もう一人の俺がナイスツッコミを見せた。
そういえば、彼女は珍しい。赤色の瞳など、事故る前も後も見なかった。
「……あ、これ?いや、これは生まれつきだから……」
「いや、聞いてねぇけどな」
俺もツッコむ。
よし、これまでの事を整理しよう。……ていうか、選択肢がもう一つしかない。
3.さっきの事故でどっか超次元を越えて平行世界へと来た。
うん。これしかない。だって目の前の俺からは偽者って感じの雰囲気がしない。というか……演技しているという感じがしないのだ。まるでまったく正反対の自分を見ているような、それでいて素の自分が垣間見えるような……あぁ、よくわかんねぇや。
「う~ん。信じがたいけど、どうやら中二病全開の何かに巻き込まれて……それで別次元に来たとか、そんな感じだわ。俺」
「…………何言ってんだ、お前?」
チクショウ、こいつこういう理解しようとしないですぐ拒否る所だけ俺そっくりだな。オイ。
「でも、この人偽者じゃないと思う」
お、立花。いいこと言うじゃねぇかよ。
「何でだよ?」
「だって、同じ匂いがするもん。神代君の……むふ」
あぁ、こいつこの別次元の世界でも変態なのか。ていうか、顔が怖い分元の世界の立花が女神に見えるな。女神は言い過ぎたか。
「…………よし。お前の理屈はわかった」
「わかんのかよ!!お前なに!?この変態加減を受け入れられるほど人間出来てんのかこっちの俺よ!!」
「いや、まだ優しいほうだぞ。こいつストーカーだし」
うわぁ……と思わず声を出してしまった。ヤバいこっちの立花、俺の世界の立花より恐ろしい。
しかし、当の本人はそんなことお構いもせずに言った。
「ねぇ、これからどうするの?」
「は?」
「いや、だからどうするのって。元の世界に戻る方法、知ってるの?」
ぐ。そうだ、俺これからどうしよう。どうやって元の世界に戻ろう。俺は必死に考えるが、そんなもの浮かぶ訳もなかった。
その時、はぁ、ともう一人の俺が溜め息をついた
「ま、何がどうなるわけでもないしな。俺これから図書館行くけど、どうする?どうせお前本読むの好きなんだろ?めっちゃ貧弱な感じがプンプンするし、同じ俺だからな」
「え!?ちょ……私とのデ」
「いーからいーから。今度いくらでも付き合ってやるよ。じゃあなんだ?こいつほっといてどっか行こうってのか?」
う……と立花が黙ると、もう一人の俺は満足そうに頷いた。どんだけいい奴なんだよお前。いや、もう一人の俺よ。正直お前らに見捨てられたらどうしようかと思ってたとこだよ。
あ、いや違うな。満足と同時に安堵感も感じる笑顔だ。きっと立花にデートしてとか言われてたんだろな。ストーカーなら弱みを握られてるかもしれないし。あんな亡霊みたいな奴と隣り合って歩いてたら完璧に呪われてると思われるな。
「ありがとな。いい奴だな、俺と違って」
「いいっていいって。それに図書館だったらお前みたいな奴について調べられるかもしんねぇしな」
おぉ、俺と考えが合うな。根本的な所では一緒かもな。
「え?でもそんなのネットで調べれば……」
「「だまらっしゃい」」
ハモった。ハモったね、うん。
「……はは」
「ははははは……」
これは本を生き甲斐としている者のプライドだ。ネットなぞには頼らん。
あぁ、何か楽しい。
考えが合う仲間がいることが、楽しい。
「「あはははははは!!はははははははは!!」」
何か気付かされた気がするな。仲間ってのも、いいかもしれない。会話するってのも、いいかもしれない。
そんなことに、気付いた気がした。
だいぶ柔らかくなってきた主人公。過激型ツンデレ(立花談)のデレですよ。
誰が喜ぶんだ、男のツンデレなんて。