悲しい結末
――――――が。
「…………ッ!?」
近付く俺の顔とは逆に、立花の顔は遠ざかっていく。
俺の頬から、生暖かさが消えた。それは俺の頬から口元をなぞるように、軽く滑り落ちていく。
ストン、という音。
あまりにも軽いその音と共に、彼女の綺麗な金髪が揺れる。それは床に広がっていた血の海に沈み、まるでペンキでも塗っているかのように赤く染まる。
「…………ぁ、ぁ」
もう微かな吐息すら聞こえない。微かな呟きすら聞こえない。
僅かな温もりすら、感じられない。
「うあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッッッッッ!!!!」
冷たくなった立花の身体を抱き抱えながら、俺は泣き叫んだ。
心が消え去った、後は朽ちるしかない彼女の身体に、俺の涙がこぼれた。
なんでだよ。
なんで、なんで、なんで、なんで、なんで、なんで、なんで、なんで。
なんで、この気持ちに気付いた時に。
こんな事になるんだ。
いや、違う。
なんで、俺は。
立花がこんなになるまで、気付かなかったんだ。
最初から。
最初にコイツを拒絶した、あの時から。
俺は、心のどこかで。
コイツが、『真咲』が好きだったんじゃないか。
「真咲…………う……ぁ……!」
彼女の瞳は、既に光を失っている。
先程までのような、少しだけ命がこもった瞳じゃない。本当に何も無くなった、正真正銘の。
カラッポな、瞳だ。
だけど、その半開きの瞳は。
確かに俺を、見つめていた。
その口元は、微かに笑みを讃えていた。
まるで、今『真咲』と呼ばれたのが心から嬉しいかのように。
死んでいるのにも関わらず、だ。
だからこそ。
俺は、この笑顔に明らかな罪悪感を感じた。
そして、復讐心が目覚めた。
「……ふざけんなァ…………ッ!」
落ちた涙が、流れる血に混ざる。しかし、その血の色は薄れない。
俺は、この涙とは違う。
「真咲を殺した奴に……復讐してやる!!」
今に見ていろ。
真咲を殺した奴。お前は、俺が殺す。
お前に散々命乞いさせて、
お前を散々泣かせて、鳴かせて、哭かせて、啼かせて。
その涙で、この血を全て洗い流してやる。
その後に。
誰が涙を流しても消えないような、徹底的などす黒い血を、お前の身体から噴き出させてやる。
「殺してやる……殺してやる……殺してやる……殺してやるッッ!!!」
その時、俺の脳裏に一つの光景が蘇った。
――――――コロシテヤルコロシテヤルコロシテヤルコロシテヤルコロシテヤルコロシテヤルコロシテヤルコロシテヤル。
「――――――ッ!」
それは、この両手で抱え込んでいる少女と同じ存在。
同じだけど正反対の、存在。
表と裏、すれ違うハズのなかった存在。
同型真像の、立花真咲。
あいつは、こんな気持ちだったのか。
そうか。
そうだったのか。
大好きな人を、一番身近な人間を殺された気持ち。
拠り所を、奪われた気持ち。
これからもう、会えないんだという気持ち。
「…………う、あああああぁぁぁぁぁ」
知らなかった。
俺は今まで、こんな寂しい思いを彼女にさせていたのか。
そう思うと、この両手の中にある『肉体』が、とても重みのあるものに感じられた。
これは、ただの『肉体』なんだ。
もう彼女自身は、俺のクラスメイトで、俺に構ってくれた、俺の恋人の『立花真咲』は、もう消えたんだ。
俺は、何も出来なかった。
ただ、耳に入ってきたサイレンを聞く事しか、出来なかった。
うわあああああああ真咲イイイイイイイイイイイイイ( TДT)




