本当の気持ち
「ったく……何なんだよあいつ……」
俺は三枚くらいのプリントを掴みながら、ある場所へ向かう。
目的地は立花の家。
何故、俺がわざわざアイツの家へ行くのか。
それは、今から何十分か前の話。
「ちょっと、神代」
「ん?なんすか」
学校。
何だかんだあって二ヶ月くらい経った。相変わらず舞からのメールの波は続いていたが、俺は一つ一つ読んでいた。
アイツをあんな風にしたのは俺なのだから。
それぐらいは、当然だろう。
そんなある日、俺は先生に呼び止められ、プリントを手渡された。
「……?先生、これ朝配られたヤツっすよね。俺、ちゃんと持ってますけど」
「それをな、立花の家まで持っていってほしいんだ」
「…………………………」
しばらく無言だった。
いや、反応してはいけない気がした。
しかし。
「ハァ!?なんで俺が!?」
担任の先生という肩書きを持つ中年男に、俺は大きな苛立ちを覚えた。
しかし彼は続ける。
「いや、お前ら実は付き合ってんだろ?ていうかおおっぴらにくっついてるもんな」
「それとこれの何が関係あるんすか!!意味ワカンネェッスヨ!!」
「ほう、付き合ってるのは否定しない、と」
「グッ!?つ、付き合ってねえっすよ!!」
俺は必死に弁解するが、彼はにやけたままだ。
「まぁそんなわけで仲がいいから、届けてほしいってわけだ。いいだろ?」
「よくねぇよ!!もう敬語やめた!!もうお前は担任じゃねぇ、ただのクソオヤジだ!!」
「先生は応援してるぞ、色々と。ただし学校ではおおっぴらな事はすんなよ?」
「お前は教師失格だ!!指導しろよ!!ていうか付き合ってねぇし!!」
「ま、そんなわけでよろしく」
「ふっざけんなアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!!」
そんなこんなで現在に至る。ちなみにあのクソ教師は明日シバキ倒ス。必ず。
「はぁ……大体アイツなんで休んでんだよ……」
いつもは学校なんて滅多に休まないハズの立花が、今日は何故か休んだ。学校にも連絡はなく、電話しても反応がないのだとか。
おそらく風邪か何かだろう。人間である以上、そういう事もあるにはあるだろうから。
しかし、本当に珍しい。アイツとは(何故か)毎回席が近いか隣なので分かるが、アイツは今まで一回しか学校を休んだ事がない。その一回もインフルエンザの時だった。しかもその夜電話が掛かって来て、その声も今にも襲いかかってきそうなほど気迫のある物だった。
そんな事を考えながら交差点を歩く。
そういえば、ここで俺は『界転』に目覚めたんだっけか。
あの時、帰ってきたあの時は立花が俺に抱き着いてきた。その緑色の瞳から、大粒の涙を流しながら。
あの時から、既に俺はアイツを巻き込んでいた。
「よく考えたら……アイツはスゲェよな。あんな巻き込まれても、俺にくっついてくるんだから」
人混みの中で、俺は誰に言うでもなく、小さく呟いた。
アイツのメンタルは、もしかしたら俺より強いかもしれない。いや、明らかに俺より強い。
アイツからしたら、俺は本来殺してやりたいほど憎い相手だ。俺のせいで傷付き、撃ち抜かれ、挙げ句の果てに俺を慰めなければならなかったのだから。
だけど、立花は俺の事を好きだと言った。今まで何度も、何度も、何度も。
実際、俺は今までアイツを拒絶してきた。それは、アイツがあまりに変態くさいアピールばかりしてたからだと思ってた。
しかし。
本当は、恐かったのかもしれない。アイツが居なくなるのが。
俺は、舞が居なくなった時の悲しみを知っている。たかが幼なじみと別れたくらいで、と思うかも知れないが、あの頃の俺は誰にも寄り付かないような奴だった。それでも、そんな俺にも、舞は友達になってくれていた。本当なら呆れて絶交するような俺と。
だからだ。あの頃は、本当に依存性が強かった。だから、居なくなる時は本当に辛かった。
―――――――――大丈夫だよ。舞ちゃんが居なくたって、僕は一人で頑張れるよ。
あんなの大嘘だ。本当の、最大の嘘だ。実際にそれを、俺は『界転』を手に入れるまで抱え込んでいた。
そしてそれを、やっぱり今の今まで引きずっていたのだ。
でも。
何だかんだ言って、俺は立花の事が嫌いじゃないかもしれない。
嫌な奴ではないし、むしろあれほどいい人間は他には居ないかもしれない。
もし。
もし、アイツが俺を許してくれるなら。
俺は、アイツに…………。
いや、やめておこう。何だか恥ずかしくなってきた。
そんな事言ってる間に、既に立花の家に来ていた。
「アパートか……アイツ、一人暮らししてたのか」
目の前にあるのは、結構どこにでもあるようなアパートだった。住宅街に建っているせいか、あまり人通りはない。結構古そうな、だからと言ってボロボロとかそういうわけでもない、普通のアパート。三階建てで真ん中に階段があり、一つの階に左右二つの部屋が存在する、まぁ特に違和感のない仕組みだった。
中に入って表札を見ると、立花の名前は202号室にあった。階段を登ってみると、二階の右側にその部屋があった。
しかし。
「…………ッ!?」
目の前には、明らかな違和感があった。
それは、『血痕』。
ドアの下。その僅かな隙間から、血が覗いていた。
「なんだよ……なんだよコレッ!!」
俺は思わずドアを開けた。意外な事に、ドアには鍵が掛かっていなかった。
と。
中に踏み入ろうとした足に、何かが突っ掛かった。
俺が恐る恐る下を向くと。
そこには、胸から大量の血を流した立花が崩れ落ちていた。
ツンデレ神代がデレました。はい。ていうか後書き書くのキツくなってきました。




