魔性の女
「……ぅ」
俺は薄く瞳を開き、微かに目に入る太陽光に眩しさを感じる。
「うーん、あれ。この辺じゃなかったかしら……」
「ん……?」
寝返りをうつ。目の前には人影が見えた。
俺の部屋のタンスを漁りながら、なにやらブツブツ言っている。
……。
…………って。
「お袋ッ!?アンタ人の部屋で何を―――――――――――」
思い切り開かれた俺の両目に、とんでもない景色が飛び込んできた。
どう見ても大学生。しかし彼女は、俺の母親だ。歳は確か30代後半くらいで、確か一週間前くらいに家に帰ってきていたはず。
そんな神代家の自称アイドル、神代江里。
その極めてファンタジックな彼女は、今。
バスタオルを緩く巻いたまま、ほぼ全裸で俺の部屋に居た。
「………………………………………………………」
「ん?きゃー、エッチー☆」
「…………おふくろ」
俺の堪忍袋の緒は、起床から34.8秒でブチリという危険極まりない音を立てた。
右腕が、枕元の目覚まし時計へと伸びる。
「素っ裸のまんまで俺の部屋入ってきてんじゃねェよオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッッ!!」
まるでプロ野球のピッチャーの投球フォームをそのまま持ってきたかのような動きで、俺の右腕が目覚まし時計を発射する。それは絶妙な(無駄なの間違い)回転を行い、弧を描かずに直球のまま愚直なエロ母へと突撃していった。
が。
「あらよっと」
不意の一撃にも関わらず、お袋は上体を微かに逸らしそれを避ける。ちなみに目覚まし時計はクローゼットに衝突し、嫌な破壊音と共に床に転がった。
「あーあ、時計壊れちゃったじゃない。物は大切にしないとダメよ、透」
「とりあえず俺の部屋から出てけエロババァ!!」
「だってー、今着替え探してるんだもの」
「ここ!!お!れ!の!!へや!わかる!?俺の!部屋!!」
しかし彼女は俺の必死な訴えも気にせず、湿らせたその茶髪から水滴を落としながら(おそらくシャワーでも浴びたのだろう)、
「いやー、だから愛する息子のTシャツを借りようかな、と」
「なんでそうなる!?っていうか出てけ!今すぐ!!」
「えー、外見年齢20歳くらいの女性の裸体を見たくないのかしらぁ?」
「いいから出てけやアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア
アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッッッ!!!!」
「ごちそうさまぁ……」
俺は力無く箸を茶碗の上に置く。ちなみに朝食は超一般的な、『これぞ日本の朝食である』とでもいわんばかりのポピュラーなものばかりだった。
「あら、元気ないわね。どうしたの?」
「誰かさんが起床時にハプニングイベント起こすからだろうが!」
すると、いつもヘラヘラしてばかりのお袋が珍しく表情に怒りを映し出し、言う。
「ふざけるな!!あれはどうみてもラッキースケベイベントだろうが!!」
「実の母親からのラッキーイベントなんてお仕置きでしかねぇじゃねぇか!!」
「男が興奮するシャワー上がりでの濡れ濡れボーナス付きだったのに……」
「アンタがやると近親相愛に踏み込みそうで怖ぇんだっつの!!」
俺は憤りで拳を握り締める。ちくしょう、立花みたいなこと言いやがって。何なんだこのババァは。息子を誘惑して何が楽しいんだ。
「やぁーねぇーからかってるだけよぅー♪」
そう言いながら、彼女はケラケラと笑う。今のお袋の姿は、検索エンジンで『魔性の女』と画像検索したら一番最初に表示されそうなくらい悪女だった。
そんなくらい騒がしい、神代家の朝だった。
今回はシリアス無しのコメディオンリー編です。そのせいか、文章が激稚拙&超短いです。
まぁ、息抜きみたいな感じで読んでいただければ。




