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計画

そんな神代宅の騒動より半日ほどさかのぼる。

表世界、榎田宅。



「ただいまぁ……」

私は力無く玄関のドアを開けた。既に日は登っている。大体朝七時くらいだろうか。

もう眠くって仕方がない私の耳に、聞き慣れた声が入ってくる。

「姉貴……マジで朝帰りかよ……」

眠い目を無理やりこじ開けて前方を見ると、そこには玄関のカーペットにて正座中の誠がいた。

「むあ……誠?」

「しかもお疲れ気味のご様子で……昨晩は相当激しかったんですね」

「うぅん……にぇむい……」

「ヤベェ眠たげな姉貴にぶっちゃけ萌える」

多分、言語中枢は既に盛大な寝息を立てているのだろう。舌が全くと言っていいほど回らず、言葉がちゃんと発音出来ない。

もう視界も80パーセント暗闇に包まれており、辛うじて誠の存在が確認できるといった程度だ。

あぁ……もうダメ、眠す―――――――――――




「……ふぁ。え?あれ?」

目覚めパッチリな私は、とりあえず周りを見渡した。

ありきたりな広さ。ありきたりな机、ありきたりな窓、ありきたりな手鏡やらクローゼットやら。

間違いない。

私の、榎田舞の部屋だ。

「あ、起きた?いやぁ、姉貴を部屋までおぶるのキツかったわ。ぶっちゃけ死ぬかと思った」

「誠……?あれ?江里姉ちゃんは?」

「江里姉ちゃん?誰それ?」

誠に聞いても不思議な顔をするだけ。一体私はどうなったんだっけ。

「あ……」

そういえば。

あの研究施設に連れて行かれ、過去の記憶を呼び戻された。その後協力してほしいとか言われて、結局答えも出せずに家の前まで送ってもらったんだっけ。

「まさか……まさかの百合ッッッ!?そうか、だから姉貴は何人もの男をフッてきたのか!そもそも男に興味がなかったのか!!」

「ふぇ?百合!?いやいや違うって!そもそも私は刺激的かつエロティックな夜を過ごしたわけじゃないから!!」

「いやいや、恥じることはない姉よ。ぶっちゃけその方が喜ぶキモオタ共もたくさんいる」

「だから違うっちゅーに!!」

昨日の緊迫的ムードから一転、いきなり日常に戻ってきた私は、とりあえず歪曲しすぎた弟の思考回路を正すために首を横に振り続ける。

片っ端から愚かな弟の歪曲思考をぶち壊した私は、とりあえず現在時刻を知るために携帯電話の電源を入れる。あれ、そういえば今日金曜日だっけ。昨日木曜日だったし。

そんな事を考えていると同時に、タッチパネル式の画面に、確かな時刻が表示される。



午後。


4時。


32分。



「……学校サボっちまったアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッ!!!」

「あ、姉貴の高校には『昨晩ヤったのが激しすぎたようで体調が悪いそうです』って言っといたから大丈夫」

「君は学校に何デマ吹き込んでんだアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッ!!!」

この一軒家の天井が突き抜けるのではないかというほどの怒号を出し、私は焦燥と怒りをあらわにする。そのあとはどうしようもない羞恥心に襲われ、尚且つサボりに対する罪悪感がこみ上げてくるという始末。あぁ江里姉ちゃん、なんでこんなことになったのでしょうか。というよりほぼあなたのせいですよ、自覚してますか。

「終わった……私の華々しい乙女チック高校生活が陥落していく……」

すると、誠はニヤニヤしながら、

「嘘嘘。ぶっちゃけ姉のベッド上の愚行を学校に伝えるほど俺は落ちぶれちゃいないですよ」

「……舐めとるんかこのクソガキ」

「怖いですごめんなさいヤクザ顔負けの眼光で俺を睨みつけないでください」

ちょいと言葉に凄みをきかせると、彼はすぐに謝った。ちょろいもんだ。

「……で、とりあえず。君は何故、朝玄関に正座していたのかな?」

「姉上様の朝帰りを待ち、そしてぶっちゃけると冷やかすためです。はい」

何故その無駄な努力を勉強に活かせないのか、と私はつくづく思う。変な所にばかり労力を使って、アホか君は。

「……分かった。じゃあもう一眠りするからちょっと出ていって」

「晩飯は?」

「ん。なんか適当にインスタント食品でも」

「……昨日もだったんですけど」

「出ていけクソガキ」

「すいませんその据わった目をこちらへ向けないでください」

私が先程と同じ眼力で制すると、誠は部屋から出ていった。私はもう一度毛布を被り、起き上がらせていた上半身を再びベッドに預ける。ハァ、と一つ溜め息をつき、瞳を閉じた。

……しかし、眠れない。よほど目覚めが良かったのだろうか。いくらグッと目を瞑っても、逆に目が覚めるばかりだった。

(……どうしよう)

ここで思考をシリアス路線へと戻す。

先程の悩み。出せなかった答え。

だって、出せるわけがない。

彼女が、江里姉ちゃんが協力を仰いできたのは、たった一つ。

――――――裏世界のある『組織』は、とんでもない計画を立てているの。表世界が滅びる程の恐ろしい計画をね。でも、それには『(キー)』がいるのよ。それは三つの『能力』があって初めて成り立つ計画。

彼女は指を折りながら言う。

――――――既に一つは完成しているわ。『Black-eye』と呼ばれる……まぁもう装置として確立してしまっているから、もう防ぎようがない。簡単に言えば『黒い目』ってこと。二つ目は『連結(コネクト)』と呼ばれる能力。これは、能力の範囲を拡大できるっていうか……触れた人間の間で能力を共有出来るのよ。そして、最後が……

それは、聞き覚えのある名前だった。

――――――神城透の持つ、『界転(リバース)』。ご存知の通り二つの世界を行き来出来る能力。これらが無くなれば、計画を永久凍結させられるわ。

私はその時、戸惑いながらも、こう言った。

――――――つ、つまり……その三人を、殺す……ってこと……?

彼女は頷いた。

――――――『Black-eye』については機械化されてるから無理だろうけど、他の二人は替えが効かない。『界転(リバース)』については予備の個体がいるらしいけど……あれはあくまで予備。まぁ、最優先は『連結(コネクト)』ね。

その時、立花さんが話を遮った。

――――――ちょっと待ってよ。私、その「連結(コネクト)」らしきボクっ娘に会ったけど、アイツは私の『紅い目』には反応しなかった。私達が出来ることなんて……。

江里姉ちゃんは、子供に話し掛けるような気軽さで言った。

――――――だから、あなたたちにはこういう事を頼みたいの。神城透は舞ちゃん、あなたと接点がある。そして予備の『界転(リバース)』、裏世界の舞ちゃんはきっと舞ちゃんを襲おうとしてくる。だから――――――

決められるワケ、ないよ。

だって。

私に課せられた任務は、こうだった。



――――――『界転(リバース)』の二人と接触し次第、二人を抹殺して。『連結(コネクト)』は無理にとは言わない。接触出来たとき、出来ればでいいわ。



しかも、こんな事まで付け加えられた。



――――――この作戦が失敗してしまったら、同型真像(オリジナル)が全て死ぬ。表世界が、完璧に滅びてしまうわ。それを、心に留めておいて。



物語が進みますよ。今頭の中で設定がゲームの充電コードみたいにぐちゃぐちゃ絡まり中です。

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