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存在干渉の法則  作者: たびくろ@たびしろ
神代・立花編
7/110

殺人者

「助けてください!!あの下に……あの下に、私の大切な人が……!!」

嘘だ。嘘。信じたくない。

トオル君が、死んだ。大量の木材の下敷きになって、だ。

「早く!!早くしないと……彼が……彼が!!」

いや、死んでないかもしれない。大怪我しているかもしれないが、生きている可能性もゼロじゃないはず。

しかし、私はそれを確認出来なかった。後から騒ぎを聞き付けた野次馬が、通報したからだ。

私は泣いてその場に居たいと言ったが、それでも警察の人に連れていかれた。

といっても警察署まで連れていかれたわけではない。少し離れたところへ、警察の人の何人かに引っ張られたのだ。

「落ち着きなさい。その時の事を話してくれるかい?」

警察の人は優しげな口調でそう言った。しかし、その言葉は私の心を慰めるには至らなかった。

「……私、彼の事を追い掛けていたんです」

あぁ、なんでこんな簡単に喋ってしまえるのだろう。普通だったらもうちょっとむせび泣くとか、諦め切れないとかがあるんじゃないのか。

「そしたら……あの交差点に出ました。その時、私は……彼以外は……目に、入ってませんでした」

あれ、泣きすぎて声が枯れてるのかな。うまく声が……出ないや。

「それで……彼に抱き着いて……そうしたら……投げ飛ばされました」

嫌だよ。信じたくないよ。でも、思い出す度に……『あの瞬間』が……。

「そうしたら……木材が……彼を……トオル君を……ッ!!」

「……そうかい。君の彼氏は、君を守ろうとしたんじゃないかな?」

「え……?」

どういう事……何を言って……?

「ッ!?」

そうだ。あの時私を投げ飛ばしたのは、私を助けるため。

もし。

もし、あの時私が気付いて飛び出していなかったら。ううん、そもそも私が気付いて助けていたら。

彼は、トオル君は死ななかった。

「あぁ……」

私のせいだ。私が殺したんだ。

トオル君を、私が!!

「ああああああああああああああああああああああああああああああッ!!違う!!私じゃない!!私じゃああああああああああああああああああああああああああああああッ!!」

「お、落ち着きなさい!君のせいなんかじゃない、仕方なかったんだろ?彼は君を守るために……」

「私が殺したの!!私があんな事しなければ……気付いて飛び出していなかったら!!」

私がやったんだ。私が……私が。

もう一度彼を見たい。もう一度だけ、トオル君を見たい。

あの多少ツンデレ気味なあの表情を、もう一度だけ。

声を聞きたい。

あの罵倒を、他人をバカにするような、でも温かいあの声を。

「……帰ってきてよ……」

呟くように言った。それしか出来なかった。

「戻って来てよ!!また私をバカにしてよ!!私と……話してよ……!!」

もう、ダメだ。涙がこぼれてくる。止まらないよ。ボタボタ地面に跡が付いてる。もう、泣くしか出来ないや。

もう帰ってこない。

トオル君は、死んだんだ。

「…………」

お願い、やめてよ。そんな可哀想な目をしないで、警察官さん。私がトオル君を殺したんだから。殺したのは私。

なのに、そんな被害者の遺族を見るような顔で……私を見ないで。私を捕まえてよ。私を、殺人者だって罵ってよ。


「ちっ……俺は悪くねぇよ!!上司が積めって言ったんだよ!!俺じゃねぇよ!!」


「――――――――!」

あれ、声が聞こえた。男の人。見れば、作業着に身を包んだ40代ぐらいの男性だった。

「だが、そこで止めなかったお前も同罪だろう。実際に犠牲者は出たんだ」

「だって上司だぜ!?俺が止められるわけないだろう!!」

あぁ、あのトラックの運転手かな。木材を積んでいたトラックの。

私も同罪だよ。彼を殺したのは私。同罪だね。

「死んだのは高校生のガキだったってか。まぁ、悪かったと思ってるけどよ」

嘘だ。あれはまったく反省してない。

そう考えると腹が立ってきた。なんで私がこんなに悔やんでるのに、なんであの人は全く反省した様子がないの。

あなたも、同罪なのに。

私と、同罪なのに。


「事故だよ事故。これぐらい今の日本じゃ起こって当然だろ?」


「――――――――――――ッ!!」

なんだあの態度は。

私の大好きな人が死んだっていうのに。なんで。

そう思ったら、口から言葉が飛び出ていた。

「ふざけるな!!」

「ッ!?」

その男は突然の私の声にビックリしたのか、こっちも向いて肩を震わせた。

もう我慢出来ない。私は男に近寄った。

「あんただって同罪だ!!私と同罪だ!!トオル君のことを殺しておいて、何が事故だ!!ふざけるのも大概にしろ!!」

「お、おい!ちょっと、君!」

警察官が私を掴んだ。離して、離してよ。こいつは許せない。私の大好きな人を殺しておいて。

「だったらあんたを殺してやる!!あんたをぶっ殺して、トオル君の気持ちをわからせてやる!!」

「君!そんなこと言うものじゃない!」

「あんたもうるさい!!お前も殺してやろうか!!さっきから意味のない慰めばかり!!お前も死ねばいいんだ!!」

「ッ!?」

そうだ。この警察官だって、そこの運転手だって、今頃現場にいる野次馬も。

結局は他人事なんだ。そうだよ。だって自分には何の重圧もないんだから。

『大津、おい、聞こえてるか?』

その時、警察官のトランシーバーから声が聞こえた。大津、というのはこの警察官の名前だろう。

「西谷か。どうした?現場になにかあったか?」

トランシーバーの向こうの西谷という警察官は、戸惑ったようにこう告げた。

『あの大量の木材をどけたんだが……その……』

「どうした、早く言え」

警察官の男が急かすと、トランシーバーの向こうの声は言った。



『……遺体が、見当たらないんだ』

急にシリアス展開来ましたよ。シリアスなんで黙りますね、シリアスなんで。

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