意外『だった』協力者
「くわー、怪我しちゃったの、舞ちゃん。半年は入院……ねぇ」
携帯の受話器から、声が聞こえる。声色が前聞いたときより少し上ずっている。
榎田舞。
この前同盟関係を結んだばっかだってのに、その翌日には脳への損傷、腹部への銃撃かい。いやはや、まだお若いのに可哀想ね。こりゃ。
「それよりなんか変わった?この一週間で何か明るくなった気がするわね」
舞ちゃんが『組織』に襲われたっていうのは、今知った話だ。どうやら一週間前に透を狙って『組織』が動きだし、舞ちゃんはそれを止めるために傷付いたらしいのだ。
『……そうかしら。透への愛が倍増したくらいしか変わってないわよ?』
「うん、もろ変わった。前はそんなオープンじゃなかったもの。なんかこう、透の方から来るのを待ってる感じ、みたいな」
何だか、色々吹っ切れたようだ。というか、むしろ吹っ切れ過ぎた感じもするが。
『うーん、そうかしらね?今はとりあえず、透エネルギーが足りなすぎて死にそう。後半年会えないのねー、なんかショックよ』
「透が他の女にたぶらかされたら?」
『んー、殺す』
(……ヤンデレだ。ん、メンヘラか?)
そこら辺のインターネット日本文化はよくわからない見た目大学生なおばさんの私、水瀬江里。実際引っ掛かるのが、現実にそんなのが居たら恐ろしすぎて失禁すんじゃね?というところだった。独占欲で殺しに掛かるって、恐すぎんでしょ。
しかも、実際通話してる少女がその過激的なLOVE押し付け型少女かもしれないのだ。
(……透も大変そうね。連絡してあげようかな)
私は少しほぐそ笑むと、
(保護者として、ね)
『あ、そうそう。前から気になってたんだけど。主にアンタの事』
「出会って一週間の可愛いお姉さんに何かしらー?」
『……自称可愛い、でしょ。大学生みたいな雰囲気だしても、結局は一児の母じゃない』
「あらあら。別に何か特別なことしてるわけじゃないのよ?『組織』を追いかけ回してたら、結構いい運動になるのよ」
『ふーん。まぁいいや、そうじゃなくて』
(ふーんって……何か私への態度がそっけ無くなってない?)
私が少し落胆していると、彼女はこんなことを言った。
『アンタ、透の何を知ってるの?アンタは、透の何なの?』
「……ほう、そこ聞いちゃうかなーん?」
『透の事を呼び捨てにしたり、やたらアイツに詳しかったり……何なの?』
「そりゃあ知ってるわよ。あの子の体重も、身長も、好きな食べ物まで知ってるわよ」
私がありのままを伝えると、彼女は僅かに驚いたような声を上げた。
『……ストーカー?』
「いやいや違うから!!れっきとした血縁関係だから!!」
驚きの容疑を掛けられ、私は電話にも関わらず大声で否定してしまった。
今私が居るのは地下街の喫茶店で、周りにも結構客がいる。その全員から、『現代っ子は周りを気にしないからなぁ』みたいな目で見られた。若く見られたのは嬉しいが、同時に大きな誤解を生んでしまった。
しかも若者が携帯電話で話すには釣り合わない話題だ。この日本に、携帯電話で『血縁関係だから!!』とか叫ぶ大学生がはたして何人居るだろうか。
ていうか、だんだん電話の向こうが殺気立ってきた。
『……血縁関係って、何?透の姉?透にはそんなの居なかったハズよ?』
「ありゃ。私ったら随分若く見られてるみたいねー。まぁ、これでも神代家のアイドルだったから当然かなー?」
『アイドル?何よ、ていうよりアンタ何歳?透に気があるんだったら、アンタも殺すわよ』
「恐い恐い。ていうか親近相愛の趣味は無いから。家族愛よ、か・ぞ・く・あ・い♪」
『…………?』
電話の向こう、その少女は未だによくわからないような声を出している。ここまでヒントを出してあげているのに。
私は少しほぐそ笑み、目の前のコーヒーを少し口に含んだ。
が、
「苦っ!!やっぱ無理だって!!苦すぎだって!!」
……大人ぶってコーヒーなんか頼むからこうなる。大人だけど。ホント、私は苦い物が苦手だ。実はココアに砂糖を五杯入れるほどの甘党だったりする。
しかし、電話の向こうはそんなこと気にも留めていない。
「……ふふ。にゃやんでるわね。じゃあ、しゃいごのヒントをあげましょうか」
『……早く言いなさいよ』
口の中は未だに苦さの余韻が残っているが、少しカッコつけて言う。ちょっと舌が回らないが、彼女は気にしていないから良しとしよう。うん。
私は傍らの水を飲み、舌の調子を整えてから、言う。
「あの子は私のお腹から生まれました。はい、大ヒント」
『―――――――――!?』
その瞬間、彼女は何かを打ち砕かれたようだった。
そして、何かを思い出したようだった。
「思い出したかしら?まぁ五歳の頃なんて覚えてなくて当然よね」
テーブルを指先で叩きながら、私は言う。
「『母親』である私のことなんて、ね。あなたのお母さんは随分面白い人だったわ」
『透の……お母、さん?嘘、なんでこんな事件に関わって……!?そもそも、水瀬っていうのは……!?』
「あぁ。水瀬っていうのは私の旧姓。こっちのほうが仕事に差し支えないのよ」
私は、小さく笑う。
少し息を吸い込んで、
「じゃ、改めて自己紹介しようかしら」
悪戯っぽく、囁く。
「水瀬江里改め、神代江里。11年ぶりに逢えたこと嬉しく思うわ、榎田家の娘さん」
まさかの真実。
それより、最近寝不足です。




