もう、嫌だ
「……る」
う、ん?あれ……
「……お、る」
お、俺って……え?
「透?」
「……え。あ!?」
俺が目を開くと、目の前には舞の顔があった。あんなことがあったにも関わらず、不思議そうな顔を浮かべている。
「えへへ、起きた。えへへへ嬉しい」
(…………?)
おかしい。なんだか無邪気に笑う舞が、何故だか違和感を感じさせる。
彼女は病室のベッドから身を乗り出すように、俺に寄り掛かっている。顔をぐっと寄せてきており、後何センチかでくっつきそうなほど近い。
そういえばあの後、俺は舞の入った病室、つまりここに泊まり込んだ。理由はもちろん、舞が心配だったからだ。……いや、心配なのはもちろんだが、それだけじゃなかった。やっぱり、罪悪感のようなものが抜けきれなかったのだ。
「ま、舞……どうしたんだ?」
「え?そっちこそどうしたの?透」
……何か違う。頭部に包帯を巻きながらもあどけない笑顔を浮かべる彼女は、事件の前とはどこか違う。まるで、今までの重圧を全て忘れ去ったかのような……。
「……まさか。おい、昨日何があったか覚えてるか?」
もしかしたら、脳への衝撃で記憶が吹っ飛んでるのかもしれない。
しかし。
「えぇ。『あいつら』に襲われた。私は頭を撃ち抜かれて、殺されかけたわ」
「……お、おぉ。あれ?じゃあ……」
「それより」
彼女は、怪我人とは思えない力で俺にしがみついた。しかしそれは力強いだけではなく、どこか心地よかった。
「おもいっきり抱き締めてよ、透」
「!?」
なんでだ。
俺は、お前をこんなに傷付けたのに。俺のせいでこんなことになったのに。
なんで、こんな事が出来るんだ?
「舞……俺は……こんな……」
「何も言わないで」
舞は囁くように、甘い声で言う。
「私……もう、生きていけない。透が居ないと私、生きていけないのよォ……」
そう言って、彼女は抱き締める力を強める。まるですがるように、もう離したくないと、行動で示すかのように。
「ねぇ……大好き。透が好き。だから、守りたいの。アンタが苦しまないように、私が守ってあげたいの」
「な、何言ってんだ……俺には……俺にはそんな……」
「それでも守りたいのよ。もう、離れないで。私以外に目を向けないで……!」
舞の言葉に嗚咽が混じる。俺を抱き締める力も、まるで風船から抜ける空気の如く消えていく。代わりに残るのは、僅かな震えと、掠れるような彼女の声だけだった。
だけど。
いや、だからこそ。
「……やめてくれ……!」
「えっ……と、お……る……!?」
俺は彼女の拘束を、無理やり振り払う。
「俺は……俺はそんな人間じゃない!お前に守られる資格なんて……お前と繋がっていられる資格なんて……無いんだ!」
勢いよく立ち上がる。それは、俺を縛る最後の感情を振り払う為だったかもしれない。
まだ、幼なじみでいたい。
こんな、まるで悲劇に選ばれたかのような少女を、支えてやりたい。
俺の罪を、償いたい。
「違う……!透は私の……私だけの……幼なじ……!」
「ごめん……本当にごめん」
だけど。
俺がいるだけで、周りの人間が不幸になっていく。なんてことない日常が、引き裂かれていく。
そんなの、嫌だ。
俺が償える事なんて、何一つない。償うことすら、出来ない。
そんな俺が、彼女の側にいる必要はない。いや、居てはいけないかもしれない。
「お前を守れるほど強くなくて、本当にごめん」
そう言って、俺は病室を出た。廊下を駆け、そのまま病院から出る。
俺は走った。やがて、病院の駐車場に出た。そこには公園のような、リハビリの患者などの憩いの場があった。
「……ッハァ、ハァ……!」
なんでこうなる。
なんで、なんで俺は、こんな人間になってしまった。
どうして、自分が引き起こした事件の落とし前すらつけられない。
「……ぐ……!」
自然と、涙が出てきた。歯を食い縛っても、溢れ出してくる。
「……ぁ……ぁぁあ……ッ!」
もういやだ。
なんで。
どうして。
どうやって。
助けてくれよ。
誰か。
誰か、俺を助けてくれよ。
そう、口に出すこともできない。口に出す資格すら、俺には無いんだ。
「うああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッッッ!!!」
人目を気にせず、叫ぶ。
人目を気にする余裕すら、俺には無かった。
最近小説のボキャブラリーが異常低下してる気がします。マジで。




