失いたくないが故の行動
その瞬間、俺は頭の中が真っ白になった。
なんで?
なんで、舞は俺に向かって駆け寄ってきた?
そして、何故?
何故、
舞の頭から、血が飛び散っているんだ?
俺は、自問自答した。
答えは簡単だ。
舞が、あの黒服の銃に撃ち抜かれたから。
「う、あぁ……」
俺は呻き声を上げることしか出来なかった。ドサリ、と舞の不安定な身体が、俺にのし掛かる。その身体は小さく震え、微かな吐息が俺に掛かってくる。
「っはぁ……はぁ……!」
「舞!お前……!」
「……大、丈夫……」
その時、ガチリという音が聞こえた。金属音のような、何かを構えたようなその音は、俺の両脇から聞こえた。
「なっ……!」
「く……!?」
俺が視線だけ合わせると、俺の両隣の男達が戸惑った声を上げていた。
それは、喉元に拳銃を突き付けられているから。既に劇鉄は上がり、引き金を引くだけで鉛が飛び出す。
(拳……銃!?なんで、舞がこんなもの……!?しかも二丁も……!)
しかし、考えてみれば、舞はこの黒服達と同じ組織に居るのだ。拳銃を常時所持するなど、当然のことなのかもしれない。
「榎田!何をやって……」
「まさか、お前……」
男達が同時に何かを言おうとしたが、彼女はそれも全く気にかけず、こう言う。
「あんたダケハ、守ッテミセル」
その直後。
渇いた銃声が鳴り響き、俺の両サイドから血が噴き出た。
「ぁ…………!」
「ふ、はは。クク」
舞は、フラフラと、俺から離れる。
そして顔を空へと向けると、まるで狂った狼のように、
「アッハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハッッ!!!」
「ま、舞……!?」
頭を撃たれておかしくなってしまったのだろうか。両手に拳銃を握り締めながら、彼女は呟く。
「そうよ……これよ……ハハ。これが……」
そのまま、正気を失った調子で、
「守ルッテコトナンダ」
「な、なに言ってんだお前……!」
「透の周りの人間を全部殺す。透の側にいるのは私だけでいい。そうよ、そうすれば良かったのよ。誠の時も、そうすれば良かったのよ。そう、そうよ、そうなのよ」
舞は首を不自然に振りながら、不気味に笑う。涎でも垂れ流しそうなその口が、悪魔のように裂ける。
「アハハ、アハハハ。透ゥ、ダァイスキ。アイシテルゥ。アハハハ、アハハハはハハはハハははハハはッ!!」
「くそ……壊れたか。ならば、ここで確実に仕留める」
最後に残った黒服が、もう一度拳銃を構える。その銃口から、鉛玉が発射される。
「キャハハッ」
「!?」
しかし、それは舞には当たらなかった。
舞はトリッキーな動きで、銃弾をかわした。人間の反射神経でかわせるハズがないのに、舞はそれを即座にかわした。
そして、すかさず拳銃を構える。
「アハッ、アハハハッ」
放たれた銃弾が、黒服の腹へと直撃する。
「――――――――――ガッ!?」
黒服はそのまま後ろに倒れこんだ。先程の二人とは違い腹部に撃たれたため、致命傷には至らなかったようだがそれでも大量に出血しているように見えた。
しかしそんな事も気に留めず、舞は狂った様に笑い出す。
「アハッ、アハハハハッ、アハハハハハハハハハハハハハハハッ!!」
笑って、
笑って、
叫ぶように笑った。
「舞、早く病院に行こう!お前頭から血ィ出てるし!何か調子がおかしくなってるから!」
「おかしいってェ?別におかしくないわよォ。これが私なのよ、アハハハハハハハッ!」
「お、お前……」
おかしくないわけがなかった。頭からは帽子を突き抜けて尋常じゃないほどの血が流れている。ほぼ垂れ流しになっているそれは彼女の身体を赤く染めており、それがボタボタと地面に垂れている。
彼女の身体は、バランスが一切取れていないように見える。まるでやじろべえでも見守るかのような危なっかしさはある種の恐ろしさまで醸し出していた。
そう、まるで街を徘徊するゾンビのような。
「それより続きよォ。私の話を聞いてくれるんじゃなかったのォ?」
「バカ!そんなの後だ!お前、今自分がどうなってるか――――――――」
瞬間。
聞き覚えのある音が、俺の耳を貫いた。
これは、銃声。
途端に舞の笑い声が、消えた。
その身体が、真っ赤に染まった身体が、改めて俺に寄りかかった。
もう、僅かな吐息すらも聞こえない。
つまり。
「……ぐ、ぅ。死……ね、イカれた……殺人鬼が……!」
生き残った黒服が、苦し紛れに放った一発が舞を貫いた。それだけのことだった。
しかし、俺はその時。
「う……ぁ……!」
また、死ぬのか?
「……ふ……」
同型真像の俺のように、コイツも死ぬのか?
「ふ……ざ、け」
俺のせいで。俺のせいで、また?
「……ざ……んな」
そんなの。
「ふざけ……んな」
そんなの、嫌だ!
「ふッざけんなアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッッ!!!!」
俺は、舞が握っていた拳銃を奪い取った。
初めてとは思えないほどの要領の良さで拳銃を構え、引き金を引いた。
それからは覚えていない。よく、覚えていない。
今まで、俺は助けるために動いていた。誰かを助けるために、動いていた。
だけど、今日は。
初めて。
『殺す』ために、動いてしまった。
ついに作者、毛布じゃなくて布団で寝ます。どうせ明日はまた毛布に戻ってますけど。




