非情な選択肢
「え……?」
何故?
何故、こんなところで『あいつら』が出てくる?
(透を捕まえる?そんなのは聞かされていないわよ?)
そんな事は、昨日の電話では聞かなかった。というより、そもそも『あいつら』と会話すらしていない。
なんで?
なんで、こんな―――――――――
――――――彼らは、彼も狙っているわ。あなたの幼なじみ、神代透君もね。
「――――――!」
そうだ。私は、水瀬が言っていた言葉を思い出した。
『あいつら』は、透を狙っている。
なんで狙っているのかは知らない。透が『界転』を使えるからだろうか?
いや、それはない。私は『あいつら』に身体をいじくられて、『界転』を使えるようになった。何もない私にそれを宿らせる『あいつら』が、それの事を何も知らないとは考えにくい。
ならば何故?
何故、『あいつら』は……。
「スマンな、榎田」
男の一人が、私に声を掛けた。
「お前に言うと、反対すると思ってな。悪いが、連絡はしなかった」
「あんたらは……なんで、透がここにいるのを知ってたの?」
「お前の携帯を傍受させてもらった。あらかじめ、話は聞いていたってわけだ」
その男がリーダー格なのか、私に近付いてくる。
私の前で立ち止まると、こう言った。
「これから彼を連行させてもらう。大丈夫、危害は加えない。少し協力してもらうだけだ」
「……なんだよ、協力って。お前ら、一体何なんだよ」
透が敵意の視線で睨み付けながら言う。
しかし、その足は震え、声も軽く上ずっているようだ。やはり、どこかで恐怖感が残っているのだろう。
「俺達は……まぁ、組織だ。特に名前は無いんでな。そのまま組織とでも呼べばいい」
「……何余裕ぶっこいてんのよ。私がそんなこと許すと思ってんの?」
私が透を庇いながら、彼の前に立ちふさがる。
こいつらに透は渡さない。
透は優しくて、本当に優しくて、私の先を行っている。
『闇』に染まらず、『光』を突き進んでいる。
そんなコイツを、『闇』に染めたくはない。殺人や裏切りが当たり前の世界へ、放り込みたくない。
私は、自分のポーチに手を伸ばす。その中には、鉛で人の命を断てる塊が入っている。
しかし。
「あんまり抵抗すると、血が飛ぶぞ」
ガチリ、と。
私の頭に、私が手に取ろうとしたものと同型のものが突き付けられた。その瞬間、私の手は本能的に動きを止めた。
「……っ!」
「舞!」
「おっと、お前も動くな。コイツの頭から血が噴き出すのを見たいのか?」
私が動けないまま、他の二人が透を押さえ付ける。両腕を掴み、透は身動きが取れなくなっているようだ。
(透……!)
「……あんた達、こんなことして誰かが通り掛かったら……!」
「その点は大丈夫だ。この辺はうまいこと人が通り掛からない様になってる。例えば、ベタだが交通禁止の看板を立てるとかな」
つまり、その辺の情報管理は万全というわけだ。
もちろん、
「銃声なんか起きれば、辺りの人にはバレるだろうけどね……」
「まぁ、そうだな。住民が窓を開けたりしても、ここの公園は木が多いせいで見通しが悪い。だから見つかる可能性は低い……が、音だけはどうやっても防ぎようがない。ま、お前が抵抗しない事を祈ってるがな」
(コイツら……心理的な面でも私を押さえ付けてる)
私がもし動いたとしても、コイツらは銃を撃たないかもしれない。周りに感付かれるのを避けて、他の方法で私達を押さえ付けるかもしれない。そうすれば、私にも勝機がある。
だけど、コイツらは躊躇なく撃つかもしれない。私を、殺すかもしれない。そうなれば、その先は私には何も出来ない。
その二択。
僅かな可能性をわざと与えることによって、私の判断を鈍らせる。どっちにするかの選択で、心を揺すぶる。
どうすればいい。
どうすれば、私達は助かる?
私はまるで救いを求めるように、透に目線をそらした。
「くっ……そ!舞!」
「…………!」
彼は、あくまで私を助けようと、必死にもがいている。
(そうよね)
そう。
(私は、何をしたかったの?)
私は、透を助けたかった。『闇』へと、進ませたくなかった。
だったら。
だったらやることは一つ。
私は、
透へと、駆け出した。
「っ!?くそ!」
その時、私はどんな顔をしていただろう。
苦しい顔をしていたのかな。
悲しい顔をしていたのかな。
まぁ、そんなのどうでもいい。
私は今、
撃ち貫かれるだろうから。
私が最後に見たのは、
透の、信じられないとでもいうような顔だった。
私が最後に聞いたのは、
普通の、映画とかでよく聞くような銃声だった。
カラオケって楽しいですよね。ドリンクバー付きだとなおよし。うん。




