表と裏の出会い
「ちくしょう……なんでこんな事に……」
なんですか、これは天罰ですか。なんだってこんな条件を出されなければならないのか。
『私と……デートして』
冗談じゃねえよ。なんでこんな奴と。いや、かわいいっすよ?ホント、その溢れる不健康感を取り除けば、マジで可愛いんだよ。
だけど。
「むふふ……神代君と……ふふ」
いや、恐ろしいよ。もはや変態の顔付きだよ、お前。
隣で歩いている立花は、顔がとろけるんじゃないかと思うほど真っ赤に燃え上がっている。両手の人差し指の先をくっつけたり、離したりしながらにやにやしている。いや、ホント怖いって。
「とりあえず付いてくんなよ、お前。帰って着替えろよ。お前まだ制服のまんまじゃん」
今は学校からの帰り道なのだが、迷わず立花は俺に付いてくる。まさか監視するためか?
「いい。だって、私もう着替え持ってきてるし」
「なんで!?今日体育もなかったのに体育用のカバン持ってきてるのってそれのためか!?」
「うん」
迷わず、彼女は頷く。
ていうか、それよりこいつのファッションセンスが気になる。なんたってこいつは超が付くほどのコミュ障だ。きっとめったに外には出ないに違いない。
「お前いつも何着てんだ?」
「いつも?ジャージだよ?」
「いやいや、外に出るときだって。つっても、お前あんま外に出ないかもしんないけど」
「……?外に出るときも、ジャージだよ?」
…………そうですか、はい。いや、はいじゃねぇよ。
高校一年生のオンナノコってもうちょい服装に気を遣ってもいいもんじゃないのか。いや、それすらも俺の偏見なのか。
そうだよ、コイツやっぱり引きこもりだよ。
「……引きこもりじゃないもん」
またまた考えを読まれたのか、彼女は頬を膨らませて言った。あ、なんだ。そういう萌える仕草も出来るじゃないですか。くそ、あとはこの目の下のクマとこの変態のような性格さえなければデートが少しだけ楽しくなったかもしれないのに。
「……ヒドいよ。なんでそんなこと考えるの」
「いやお前の方がヒドいよ!!なんでそんな無差別に俺の思念を読み取るの!?お前実はエスパーじゃねぇの!?」
もうとうとう恐ろしくなってきた。これ以上耐えられない。
「神代君の考えること、手に取るようにわかるよ。だっていつも私、神代君と一緒にいるもん」
そうだこいつ俺のストーカーだった忘れてた。ていうか怖い。ていうかなんで俺のこと付けてんの。
「ん……待てよ?」
こいつは俺とデートしたがってる。んでもって俺のストーカーである。俺の思考すら読めるほど。
Q.こいつは俺の事をどう思っていますか?
今さらながら気付いた回答に、俺は頭を抱える。
A.純粋な高校一年生、立花真咲さんはこの俺に恋してます(ストーカーに成り果てるほど)♪
「ぎゃああああああああああああああああああああああああああああッッッ!!」
「うわ、びっくりした。どうしたの?」
「やめて!!俺本当はバカだから!!お前を引っ張っていけるような奴じゃないから!!お願い、お前には俺なんかよりもっといい男がいるから!!」
こいつとの未来予想図を想像してしまい、俺はついに発狂した。嫌だ、こんな奴と俺は未来設計なんかしたくない。
しかし、立花はそんなこともお構い無しに頬を赤く染めると、
「むふふ……大丈夫。私は、神代君で充分だから……」
「やめて!!俺の未来をぶち壊さないで!!もうちょっと明るい未来を俺に模索させる権利を下さい!!」
「もう未来は決まってるから……むふ、昨日の寝顔は可愛かったよ、むふ」
え……いや、待て。ちょ、待って俺の寝顔って……いやいや、まさか俺の家までもはや見られてんの!?
「ていうか、神代君はああいうのが好みなの?ああいうシチュエ……」
「うあああああああああああああああああああああああああああああッッッ!!お前俺のパソコンの中身見たの!?見れるの!?」
「いや、この前神代君が、パソコンのその動画を見ながらオ……」
「やめてえええええええええええええええええええええええええええッッッ!!何でそんなとこまで……!!」
「大丈夫、その時は私も一緒にし……」
「いや大丈夫じゃねぇよ!!お前と一緒のタイミングでしてたって何の救いもねぇよ!!ていうかしてたの!?怖ッ!!お前やっぱ正真正銘のストーカーじゃねぇか!!やめろ!!今すぐストーカーやめろ!!」
「ストーカーじゃないもん。ただ私はずっと神代君の側にいるだけ。むふ」
「むふじゃねぇよ!!ゲームの正ヒロインみたいな表情で堂々と言うのやめろ!!ていうかそれをストーカーっていうんだよ!!」
ダメだ、俺の人生オワタ。ダメです、いつから俺はこいつの呪縛に囚われたのだろうか。ていうかなんで俺はこいつに惚れられたのか。あぁもうダメだ、家で首吊って死のうか。いや、俺は高校一年生という青春エンジョイ真っ盛りにストーカーによって殺されるのか。そんなのはゴメンだ。あぁでも耐えられる気がこれっぽっちもしない。ゴメン、親父、お袋。俺、死んじゃうかも。
くっそ……こいつ、素は可愛いのに。
「ん……?」
素は、可愛い……?
「ハッ!!」
その時、俺は閃いた。大丈夫だ、親父、お袋。俺にもまだ生きる希望が残されてるかもしれない。いや、これは最高に最高な人生の始まりかもしれない。
「……あー、うむ。立花、お前、俺が好きか?」
ちょっと恥ずかしいが、生き残るにはこうするしかない。
「え……ちょ、いきなり?いや……うん、好きだけど」
その亡霊のような顔を火照らせ、立花は言う。
「じゃあ俺の言うことを聞いてくれ。いや一つか二つでいい。そしたら俺はお前が好きになるかもしれないぞ」
「……!?なに!?なにをすればいいの!?」
珍しく明るい顔をして俺に問いかけてきた。あぁ、やっぱしこいつ元々は可愛いよ。
「まず、ちゃんと寝ること。その目の下のクマをなくせ。それと、もうちょい健康的になりなさい。そうすればお前、結構見た目のポテンシャル高いからよ」
「……!!うん!!そうする!!」
よし。これで俺は見た目最高、しかも俺を一心に愛する彼女が出来たということになる。
今はアレだが、こいつ多分スタイルもいいと思う。ファッションセンスも見た目直していく内に回復するだろ。
あれ?うまくいきすぎてません?俺、もしかして今から人生の勝ち組直行ですか?
「じゃあ、私頑張る!!だから、よろしくね!!」
あれ、そう考えると何かこの亡霊のような顔も可愛く見えてきた。いや、浮かれてるのか?
「あ、家に着いた。じゃあちょっと待ってろ。今着替えてくるから」
「いや、私も着替えたいから中に入る。大丈夫、欲望全開の神代君の部屋には入らないから」
「やめてくれ。お願いだからあの時のことは忘れてくれ。まぁ、中には入ってもいいかな」
むふ、と立花は小さく笑った。あれ、何だろ。この笑い方、萌える。あれ、可愛い?あれ、俺大丈夫か?
と、その時。
「ん……?」
「どしたの、神代君」
「いや、鍵がかかってねぇんだ。朝掛け忘れたのか?やべぇ、泥棒とか入ってねぇよな」
恐る恐る、ドアを開く。
よかった、誰も入ってないみたいだ。いや、隣のこいつならやりかねないかもしれないが。
「じゃあ、下の居間で着替えてくれ。俺は自分の部屋で着替えるから」
「うん。わかったよ」
俺はカバンを肩に掛け、階段を上がる。いや、待て。俺が今下に降りたら勢いで童貞卒業出来るのでは?
いや、まだ早い。あいつが充分に変身してから、それから卒業しよう。うん。
その時、気付いた。
俺の部屋の中から、物音がする。
(……やっぱ泥棒入ってんのか……?さっき入ったばかりとか?)
少しだけドアを開け、間から覗く。
(なんだ、俺と同じくらいの歳じゃねぇか。なんだってこんなところに……)
見れば、俺と同じくらいの背丈の、同じくらいの歳の少年だった。後ろを向いてるからよくわかんないが、貧弱そうな腕してるし大丈夫だろう。
俺は生唾を飲み込み、そして大きく息を吸い込む。
そして、ドアのノブに手を掛けた。
「おらァ!!お前こんなとこでなにやってんだこのクソ野郎!!」
勢い良くドアを開き、大声で叫んだ。
すると、後ろを向いていた少年は振り返る。
こんな、間抜けな声を出しながら。
「ん?」
…………おい、ちょっと待て。
なんで、俺と『同じ顔』してやがんだ!?
見れば、あっちも信じられない、という顔をしていた。
そして。
「「ええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!?」」
会いましたね、うん。ていうか、またシリアスさが抜けてますね。大丈夫、きっと次はシリアスになる……はず。ていうか神代と立花の掛け合いが何か書いてて悲しくなってきました。…………なぜ俺は非リアなんだ。