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研究機関での思い出

冷たい。

寒い。

なんで、こんなところに私は居るの?

「ねられないよ……さむい」

確かに、最初はヒーローになれると言われてドキドキした。

だけど、それでも私はただの小学二年生だ。すぐにコロコロ態度が変わる。

冷たい部屋。寝心地最悪のベッド。そんな、倉庫みたいな部屋に私の居場所はあった。

どうやら、財政的な問題でちゃんとした設備を用意できなかったらしいのだが、幼い私はそんなことを理解出来なかった。

「ぅ……ふぇ、ぇぇぇぇぇぇん」

気付けば、夜な夜な泣き出していた。

なんでこんなところにいるの?

母さんに会いたい。

誠に会いたい。

透に会いたい。

そんな気持ちが、涙となって私の涙腺から溢れ出た。

でも。

「どうしたの、舞ちゃん。寂しいの?」

横から、江里姉ちゃんが抱き締めてくれた。私が寂しいのを理解して、添い寝してくれていた。

それも毎日。泊まり込みで私の面倒を見てくれた。

「ふぇぇ……おねえちゃん……わたし、いつになったらかえれるの?わたし、おかあさんにあいたいよう」

涙ながらに毎晩毎晩、私は彼女にそんな問いかけを繰り返していた。

そのたびに、江里お姉ちゃんはこう言った。

「カッコいいヒーローになったらよ。弱いままじゃ、お母さんと弟くんを守れないでしょ?」

「でも……おかあさんとまことにはてきなんかいないよ?」

「これから出てくるのよ。お母さんと弟くん、それにあなたを殺そうとする奴がね」

その言葉は、幼い私には少しキツかったんじゃないのかな。怖かった。自分達が殺されるなんて言われて、本当に怖かった。それでも、私は二人の事を考えていた。

「おかあさんとまこと……しんじゃうの?」

でも、決まって出てくる次の言葉は、何故だか私を勇気づけた。


「だけど、それは舞ちゃん。あなたが弱かったら。あなたがヒーローになれれば、もう恐いものなんてこれっぽっちもないのよ?敵がどこに隠れようが、あなたの『目』で見つけて倒せるの」


ヒーローになれる。

今思えば、何故彼女はあんなに『ヒーロー』という単語を推していたのだろうか。幼い私に理解しやすいように、わざと分かりやすいような目標にしたのだろうか。

それでも、私はヒーローになろうと思った。

お母さんと誠を守るために。

思えば、あの言葉は当たっていた。予想外の敵が、『私』という敵が、私達を襲ったのだから。

その経過で、お母さんは死んだ。誠も、同型虚影(ドッペルゲンガー)の私の容赦が無ければ死んでいたかもしれない。

私だって、透がいなければ……。

ダメだ。

私は、まだまだヒーローになんかなれてない。むしろ、透の方がヒーローだ。




「うーん。えりおねえちゃんどこかなー?」

それとは別のある日。

軽い軟禁状態の私は、実験の時以外は暇なのだ。

そんなときは、まぁまぁ広いこの実験施設内をブラブラするのが趣味だった。

江里お姉ちゃんも玩具を持ってきてくれたりはするが、私はすぐ飽きたりすることがほとんどだった。なので、もっぱら私にはこっちの方が趣味になっていた。

「うーん、あそこかなー?」

私は適当な扉を開けた。そこはよくわからない機械がたくさん並ぶ、私の理解を大幅に超えるような部屋だった。

「ふえ?」

そこでは、なにやら揉め事が起きているようだった。

「もういいですよ!俺は勝手にやりますから!」

そう言って、研究員らしい青年は部屋を出ていこうとした。

その時、彼は激情して私に気付かなかったのだろう。そのまま私を跳ね飛ばした。

「ひゃっ!?」

「あ?」

私は尻餅をついてしまい、次の瞬間彼の視界に入った。

「……ちっ、実験体かよ。邪魔な奴だな」

「じ、じっけんたいなんかじゃないもん!わたしにはえのきだまいってなまえがあるんだから!」

「は?お前はここじゃあ実験体なんだよ。名前なんか必要ねぇ、お前はただの『物』だ」

「ち、ちがうもん!わたしはそんな……」

散々罵倒され、私がもはや涙目にさえなりかけていると、


八神(やがみ)、なにやってるの」


聞き慣れた声が聞こえた。

後ろを振り向くと、そこには江里姉ちゃんが立っていた。

「……水瀬か。このガキのお守りはお前の役目だろ、ちゃんとしとけよ」

「……あんた、また上に叱られたのね。あんたは才能があるかもしれないけど、独創的過ぎんのよ。もうちょっと周りと調和することを覚えたらどう?」

八神(やがみ)と呼ばれた青年はキッと目を向くと、

「ふん。俺はお前みたいなアマちゃんとは違ェんだよ。こんな実験体に情が移るような奴とはなァッ!!」

「――――――――――ッガ!?」

彼は頭に相当血が上っていたのか、ほぼ本気で荒々しく私を蹴り飛ばした。不意を突かれた私が反応出来るハズもなく、その一撃を腹部に喰らった私は面白いほどの距離を転がった。

「舞ちゃん!!大丈夫!?」

「……ガハッガハッ!!あ、ぐ……!!」

「ハハハ、いい気味だぜ。ガキのくせに調子に乗るからだ」

「……あんた、ブッ殺されたいの?」

江里お姉ちゃんは、静かにそう言った。

私を近くの長椅子まで寝かせると、そのまま八神に歩み寄っていった。

「あん?なんだよ、俺に喧嘩売る気か?」

「……あんたには地獄行きの切符でも売ってやるわよッ!!」

次の瞬間。



江里お姉ちゃんの拳が、八神のこめかみに突き刺さった。



「ッ!?」

相当な威力だったのだろう。彼はそのまま弾き飛ばされ地面に崩れ落ちた。

彼女も肩で息をしているところ、本気で殴ったらしい。息も荒く、恐ろしい視線で八神を睨み付けている。

「お、おねえちゃん……?」

「大丈夫よ、私は大丈夫。それより、舞ちゃんは大丈夫?怪我してない?」

「う、うん……」

その時、殴り飛ばされた八神がゆっくりと立ち上がろうとした。

「ぐ、ぅ……!」

江里姉ちゃんはまるで人が変わったかのように八神へ視線を移し、その背中を思い切り踏みつけた。

「ガッ!?」

「……あんたねぇ、私の舞ちゃんを傷つけといてこれで済むと思ってんの?本当だったら『コレ』であんたの頭撃ち抜いてもいいのよ?」

そう言って、彼女はポケットから黒い塊を取り出した。

その黒いフォルムは、幼かった私でもその攻撃性が窺えた。

それは、拳銃。

引き金さえ引いてしまえば、簡単に人の命を奪える危険なもの。

「ッ!?やめろ、そんな事は……ッ!」

「やらないわよ。ったく、粋がってるくせに小心者ねェ」

まるでなぶるような視線で八神を睨み付ける。

「ま、でも本当の子供の大切さは親になってみないとわからないかしら。それにしてもさっきの暴挙は人間として許されたものじゃないけど」

そんな二人を、私は震えながら見つめるしかなかった。

「……お前が、そんな事よく言えたもんだな……」

「あらぁ?私だって子供いるわよん?可愛い可愛い一人息子がね」

しかし、彼女は二言目には暗い雰囲気で、

「……まぁ、今は会えないけど。こっちの仕事が忙しいからね」

そして彼女は一息つくと、

「ほら、さっさと尻尾振って逃げなさい、この一匹狼。今は見逃してあげるわ」

そう言って彼女は八神を蹴飛ばした。

八神は悔しそうな顔をすると、そのまま起き上がってどこかへ走り去ってしまった。

あの時は、本当に恐かった。

まるで、いつもの江里姉ちゃんじゃない気がして。さながら獲物をいたぶるような、蛇のような気さえしてきて。

だけど。

だけど、彼女が次の瞬間私に見せた笑顔は、いつもの江里姉ちゃんのものだった。



「もう大丈夫だよ、舞ちゃん」



そんな一言も、優しかった。

今回は文章力が低すぎる……あぁ。すいません。本当にすいません。

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