彼女と私の出会い
江里姉ちゃんは、私が彼女と出会った時の事を話しだした。
それは、ざっと八年前の話。
「表世界の人間なら誰しもが知ってる話だけど、ある日一人の少女が行方不明になったの」
「……それが榎田サン、ってわけだね」
立花さんは特に考え込むこともなく呟いた。
そう、八年前、私は唐突に行方不明になった。
それまで何の前触れもなかったのに、突然行方をくらませたのだ。
「彼女が消えた事は日本中の大きなニュースになり、捜索もされた。でも、結局彼女は見つからなかった」
「その時、榎田サンはここで研究の材料にされてた。『蒼い目』の、研究材料に」
「正解」
『蒼い目』。それは、私のこの目の事だ。
驚いた時、集中している時。その時に、私の目は蒼く染まり、小さな疲労感を感じてしまう。それだけだと思っていた。
しかし、この『目』の本当の力。
それは『裏世界の反応を認識できる』事。
「二年後、彼女は唐突に家に現れ、そして気を失った。もちろん、二年間の記憶は全て消えている」
「……?水瀬、なんで榎田サンが二年ぶりに姿を表したとき、そのことがニュースにならなかったの?」
「彼女の母親が、騒ぎになる事を嫌ったからよ。まぁ、私達が少し手を回したってのもあったけど」
そうだ。
そして、私はここにいたことを全て忘れ、今までと変わらない『榎田舞』として生きてきた。
この『蒼い目』だけを、形見のように残しながら。
「……最初に言っとくよ、榎田サン」
「え?」
私は唐突に話しかけられ、慌てて立花さんの方を向いた。
彼女は、私の目を指差しながら言う。
「あなたは、いわば『私を量産するために作られた実験体』のようなものなの。あなたのその目は、後付けってことなんだよ」
「じ、実験体?」
私は多少顔を引きつらせながら答える。
「まぁ、直接言ってしまえばそんなものかしらね。でも大丈夫。私はあなたを実験体だなんて思ってないから」
江里姉ちゃんまでそんなことを言う。しかし、最後の言葉は優しい響きがあった。
「あなたが眠っている間、私は水瀬からある程度話を聞いた。あなたがここにいた二年間、私もここにいたんだよ。あなたのような『後付け』を増やすための『素材』としてね」
「……よ、よくわからないよ。江里姉ちゃん、ちゃんと説明してよ」
すると、江里姉ちゃんは小さく笑う。
「わかったわよ。ほらほら、真咲ちゃんも離れる。その凄みのある顔で近づかれたらビックリしちゃうから」
「……悪かったね、凄みのある顔で」
立花さんは不機嫌ながらも私から離れる。実はちょっと恐かった。
「じゃ、今度こそ話すわよ。まぁ、舞ちゃんは知ってるだろうけど」
私は彼女の綺麗な声を聞きながら、過去の事を回想した。
「……ここはどこ?」
私が目を覚ますと、そこは知らない場所だった。
ベッドに寝かされている。
目の前には白衣の男性や女性が何人か居て、全て私を見ていた。
その時小学二年生だった私は、その状況に危機感は覚えなかった。好奇心が、先を行っていたのだ。
そんな私の言葉に、横にいた女性が答えた。
「ここはね、誰も知らない秘密基地。あなたはこれから、ここでヒーローになるの」
「ヒーロー?」
「そう、ヒーロー。格好いい目で敵を見つけて、ババッとやっつけちゃうヒーローなのよ」
「それ……かっこいい!わたし、ヒーローになれるんだ!」
その時は、すごく嬉しかった。なんでか知らないけど、嬉しかった。
気付くと、もう一人の女性が彼女に話し掛けていた。
「ホント、子供あやすの上手いわねぇ、江里。担当だからってはりきってんじゃないの?」
「いやぁ?別に、そんなわけじゃないわよ。でもね、一つ分かる。この子、将来可愛くなるわよ~」
「なんでそんなこと分かるのよ」
「だってそんな顔立ちしてるもの」
私は、最初に話し掛けてきた茶髪の女性が気になった。
「おねぇちゃん、えりっていうの?」
「え?あぁ、うん。そうよ?」
「じゃあ、えりおねえちゃんだぁ!」
私がそう言うと、彼女は照れたように頬を掻いた。
「江里お姉ちゃん、ね……。はは、なんかちょっとくすぐったいわね」
「どこかくすぐったいの?」
「いや、違うけどね……そういう意味じゃないの」
それが、彼女と私の出会いだった。
ちょっと短編も書いてみようかな……余裕があれば。




