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水瀬江里

「さて……と」

それにしても、何故に私はこういつも陰気臭い場所ばかり担当になるのだろうか。

目の前にはボロボロになった廃倉庫。ここは、『彼女』の潜伏先である可能性の一つだ。

彼女の名は、『水瀬江里(みなせえり)』。特徴としては、茶髪の女性らしい。それ以外はよくわかっていない。

いつも隠れて詮索している辺り、攻撃性はあまりないと思うのだが……あまりよくわからない。

「それを今から調べるんですけどねー」

私は軽く伸びをし、身体の調子を確かめてから歩を進めた。

とりあえず、入り口から中に入る。先ほど一周して確認したが、私が入れそうなのはやはりここしかなかった。他のところは特殊部隊とかが入るような困難なものばかりだったからだ。

「……っ」

ゆっくり、少しかがんだ姿勢で入り、そして辺りを確認する。

真っ暗闇だ。倉庫なので中は開けているが、それでも少しだけしか見えない。やがて目が慣れてくると、倉庫の全貌が見えてきた。

「……これは結構大変そうね……」

倉庫内には、一種の迷路になるように大量のコンテナが置かれていた。高さも均一ではなく、絶対に登れないように高く積まれたものや、頑張ったら登れるかな?みたいな感じのものまであった。

「ま、頑張りますか。人の気配はしないし……」

私は、多少の余裕を持ちながら歩き出した。




「来ちゃった……か」

ふふ、久しぶりね。まさかあの時の小さなお客様がこんな計画に参加してるとはね。

まぁ、弟さんが掛かってるとすれば当然かもしれないけど。

「今度は客と店員の関係じゃないから……敬意は払えないわね」

私は小さく笑う。

「奴らの化けの皮を剥がしてやるわ。彼女に、本当の事を教えなければならないから」




「クソ……何にも無いじゃない。もう全部探したわよ……!」

あれから倉庫内を全て歩き回ったが、怪しい所は一つもなかった。

「ここじゃないのかも……まぁ候補はたくさんあるし……」

諦めて倉庫から抜け出そうとした、その時。


かすかにだが、ドアを閉じたような音がした。


「―――――――――!」

この音。向こう側からだわ。

私は、その音源に向かって走り出した。コンテナを乗り越え、飛び降りながら進む。

しかし。

(何もない……確かにここから音がしたのに……)

そこには、ただの壁しかなかった。老朽化した、ただの壁。しかし、

(なんか違和感がある……なんか、ここだけ少し新しいような……)

試しに押してみた。ダメ、なんの反応もない。

なにか必要なのだろうか。カードキーとか、パスワードとか。しかし入力するためのスキャナーみたいなのもない。

「はぁ……やっぱり脈なしか……」

私が落胆して、壁に寄りかかった時。

「――――――?あれ……?」

私は妙な違和感を感じた。なんていうか、音が違う。

叩いてみると、他のところを叩くより高い音がする。これは、中が空洞だという証拠だ。

(隠し部屋……!!)

やっぱりここには何かあるんだ。

「……でも、どうやって開こう」

私がそう呟いた時だった。



「開かなくていいのよ」



こめかみに、拳銃が当てられた。

「――――――!?」

それは、私が愛用しているベレッタ92だった。

「動かないで。あなたが『彼ら』の仲間だということは知ってるわ」

顔は見えない。首を動かせば、拳銃で頭を撃ち抜かれる。殺される。

「ふふ……恐いな~恐いな~って顔ね。大丈夫、殺しはしないわ。あなたの行動次第だけれど」

「あ、あなたは誰……!?まさか……!!」

私が問い掛けると、彼女はかすかに笑った。


「えぇ。私が水瀬江里(みなせえり)よ。といっても、あなたは私の事を覚えているはずだけれど」


そう言う彼女に、私は妙な突っ掛かりを覚えた。変ね、この声どこかで……。

「それにしても拳銃だなんて、随分物騒な物を。あの時の小さなお客様とはだいぶ変わったわね?」

お客様?あの時?一体何を言っているの?

私は頭の中を必死に掻き回す。しかし、何も出てこない。

「大丈夫、後でちゃんと返すから。今はあなたに聞いてほしい事があるのよ。重要な事が」

水瀬は、私の耳元に近付いて、

「そう……すっごく重要な事が……」

「……ひぅっ……」

(今の色っぽい囁きは必要なくない?)

思わず反応しながらも、頭の中ではそんな事を考えていた。

「今、部屋の中を見せてあげるわね……」

そう言って、彼女は私の横から顔を出した。少しだけ上を向く。

(どこかで見たことあるような……そんな気はするんだけど……)

その女性は、情報にあった通り茶髪だった。その口調からは想像出来ないほど優しげな顔。フレンドリーで、誰にでも話せそうな気さくそうな表情。

「この隠し扉ね、網膜認証システムなの。スゴいでしょ?私の隠れ家なんだから」

小さな電子音が鳴り、そしてドアが開く。自動ドアのように、横に水平にスライドする。

「あ……!」

そこは、小さな小部屋のようだった。至る所に紙の束が置いてあり、部屋の奥のテーブルにはデスクトップ型のパソコンが置いてある。壁にもたくさんのメモがあり、一種の研究所みたいな感じがした。

「どう?私の隠れ家は。あなたの知らない事、いっぱいあるのよ?」

「これって……?」

「あなたが所属している組織の情報。あなた、まだ組織に関しては不透明な所が多いでしょう?」

私は驚き、辺りを見回した。

嘘。これ全部、組織の情報?

「例えば、こういう情報もあるわよ?」

彼女は、水瀬江里はある一枚の紙を取りだし、そして言った。



「榎田誠、及び実験個体『エノ』に関しての情報、とかね」



水瀬江里が誰なのか、もうお分かりですよね。

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