非日常の再開
「じゃあね」
私は携帯電話を切り、ヘッドロックしていた腕を外した。
「ってぇ……!ぶっちゃけ死ぬかと思った……」
「どうよ、私のヘッドロックは」
「いや、むしろ乳圧で死にかけた」
「ふふーん」
私は少し得意げになった。ナイスバディな姉が居て幸せだな、弟よ。
「あー、宿題やんねーと。ぶっちゃけ終わってねーし」
「頑張ってー。私一人用モード進めとこうっと。今日こそはチュートリアルより後に……」
私がそう言うと、誠は『はぁ!?』と言う驚きの声を出した。
「姉貴、高校の宿題は?」
「朝に全部終わらした。いつも後からやる君とは違ってね♪」
「確か八伽の姉貴から宿題頼まれてたろ」
「それも込みで」
「くっそ秀才め……!」
そんな事を言いながら、誠は居間を出ていった。ゲームが続けられなくて、物凄く悔しそうだった。ざまぁみろ。
まぁ、それでもちゃんと宿題をやろうとするところは、きっとケジメはあるんだろうけど。
「それに比べて鈴奈はやろうともしないからなぁ……」
それを注意出来ない私も甘いのだろうけど。でも……あれはやらざるを得ないと思……う。
『宿題やってください!お願いします!』
『ダメだよ……鈴奈の為にならないから』
『……舞ちゃんが今弟くんとハマってるレースゲームの裏機体、欲しくない?』
『む?』
『私、ゲームのプロダクトコード持ってるんだけどなー』
その時私の頭の中で、二つが揺れ動いた。
そして、そう言えば前日に誠に一回も勝てないどころか最下位の12位に留まり続けていた事を思いだし、
『……やります。やらせていただきます』
『交渉成立ね!じゃあはい、これ。どうだったか教えてねー!』
そう言って、彼女はそのまま帰ってしまった。
「思えば、考えるべきだった……」
そう、私は知らなかったのだ。同じゲーム機で二人プレイするのに、そのゲームに裏機体のデータをダウンロードしたら。
誠だって、そのデータが使えるようになってしまうということが。
案の定、私は誠にそのデータを使われ、ぶっちぎりの一位を奪われた。
しかも、私もそのデータを使ったにも関わらず、12位からまったく変わらないという結果に。どんだけ下手くそなんだ、私。
最終的には誠に最弱の機体を使ってもらい、私は裏機体を使い、そして結果が変わらないという惨事に。
私自身が弱いだけでした。はい。
なので、私は今一人用モードで実力の底上げを図っているのですが……未だにチュートリアルしかクリア出来ないという下手くそさ。もう死にたい。
「あーもー。コイツどうやったら抜けるんだよー。あ、また抜かれた……」
……負けた……12位……。
「……やめた」
少し機嫌を悪くした私は、少し乱雑にゲーム機本体の電源を切った。セーブしてないけど、どうせ進展がないからいいや。
そのまま、後ろに転がった。仰向けで、広い居間で大の字になる。
「……暇。どうしよう」
そういえば、夕飯は何にしよう。母さんが居なくなったから、私が三食作ることになってしまっている。料理は得意……くらいの部類には入るだろうが、そんな特化しているというわけでもない。中途半端。
でも、色々足りないものがあったはずだ。卵が切れてた気がするし、牛乳もないし……。
(……乳……)
視線を少しだけ下に向ける。
……立派な二つのマウンテン。
「……えへ」
何やってんだ私。アホか。暇すぎておかしくなったのか。なんで牛乳からそうなるんだ。
とりあえず買い物行ってくるか。確か今日は卵安かった気がするし。
「よいしょっ」
上半身を起こし、そのまま立ち上がった。二階の私の部屋に行き、クローゼットから愛用の黒い襟つきのジャケットをはおる。ちなみにその中はオレンジ色のTシャツ。私のお気に入り。下は白いジーンズ。これも私のお気に入り。
「よっし、行くか」
『姉貴~どこ行くの?』
壁の向こうから、誠の声が聞こえる。部屋の間の壁が狭いため、結構聞こえてくるのだ。
「ん。夕飯の買い物」
『ふーん。行ってらっさい』
やる気のない声が聞こえる。もうへばってんな、きっと。
「ちゃんと宿題やんなよー」
そう言い残し、私は家を出た。片手にはちゃんと買い物袋。エコな女子高生なんです、私。
早く買っちゃって家でのんびりしよう。あんまり外には居たくない。結構視線を集めるから。
……まぁ、たぶん顔がいいからで、それはそれで嬉しいんだけど……恥ずかしい。
目、蒼くなってないよね?変な目で見られたくないし。私の方が変な目だけど。
「ちょっとごめんなさい」
「へ?」
ふと、私は後ろから肩を叩かれた。
おもむろに振り返ると、そこには私より少し背の高い女性が居た。髪の色は茶色。なんだか妖艶な、妖しい感じの女性だった。
「ちゃんと顔を見せてくれない?」
「え、あ、ちょっと……!」
彼女は私の顎に手を掛け、そのまま少しだけ持ち上げる。
突然の事に私は驚き、それがきっかけで目が『蒼く』なってしまった。
「あっ……あぁ、いえ、この目は……その……」
「フフ、やっぱりあなたね。大きくなったわね、榎田ちゃん」
「へ……?」
その時だった。
「ぐ……!?あ、が……っ!?が……ぁ!!」
不意に、衝撃的な頭痛が襲い掛かってきた。頭が割れるような、耐えられそうにない痛みだ。
(なん……、え?どういう事!?この人……見覚えが……!?痛っ!)
再び頭痛が私を襲う。何だか、意識が朦朧としていく。
「あ……あなたは……一体、痛っ!!が……ぁぐ!!」
「フフフ……思い出せない……?そうよね、私が消したもの。あなたの記憶を」
「け、し……!?」
記憶を……消した?どういう事だろうか?この人は……誰!?
あぁダメだ。頭が割れる。意識を保ってられない。
誰か、助け……。
その瞬間、頬に冷たいコンクリートの感触を感じた。
横倒しになった私に、こんな声が聞こえた。あの女性のものだ。
「そろそろあなたの出番よ……?榎田舞。いや、『RED-eye』の上位互換、『BLUE-eye』さん」
この章は表榎田と裏榎田を交互にやろうと思います……たぶん。あの茶髪の女性。実は、既に登場していました。




