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任務

「誠ォ……」

私、なんでこんな惨めな思いをしているんだろう。

自分の部屋で膝抱えて弟の名前呼んで。バカみたいだ。

「……もう、お昼……か」

―――――――僕、ホットケーキが食べたいな!

「……誠」

いつまで考えてるんだ、私。三年前の事を、いつまで引きずってるんだ。

バカみたい。部屋の中なのに帽子なんか被って。形見でもない帽子を。一回も、誠に手渡すことすら出来なかった帽子を。

「クソ……なんで同型真像(オリジナル)には……誠が……!!」

その瞬間、私は彼女の事を恨めしく思った。

「……く」

彼女は私とは違う。

私が失ったものを、全て持っていた。

だから殺そうと思った。彼女の母さんと、誠を。

そして、母さんは殺した。

しかし――――――――――

「誠だけは……殺せない……!」

思わず抱き締めてしまっていた。涙を流してしまっていた。

しかも、そのあと同型真像(オリジナル)を殺す事すら叶わなかった。

「透……なんで……!」

透は、私を止めた。乱雑に壁に押さえつけ、敵意のこもった目で私を見た。

やっぱり、あの時行ったのは間違いだったのだろうか。

あの時、透に会いに行ったあの時。

「迷惑……だったかな」

あの時は、とにかく誰かに会いたかった。いや、透に会いたかった。

私を、止めてほしかった。大好きな人に、止めてほしかった。

だけど、それを口に出すことすら出来なかった。

最後に口に出せても、すぐに逃げ出してしまった。

「……透と……しちゃった……」

私は、彼と触れた自分の唇に触れる。

彼はどう思っただろう。止めようとした相手に、突然唇を奪われたら。

こんな、自分の同型真像(オリジナル)を殺そうとするような人間に。

「……まだ……」

まだ、幼なじみだと思ってくれてるだろうか。

「……こんな……」

こんな、こんな私でも。落ちぶれた、泥沼から抜け出せないような奴でも。

人を殺し、闇に溺れ、挙げ句に弟の名を呟くような弱虫でも。

「……っ!?」

その時、私は突然の振動に身を強張らせた。

それは、短パンのポケットに入っていた私の携帯電話だった。

ブルブルと震える携帯をポケットから取りだし、それを耳元に当てる。もちろん、相手など考えるまでもなかった。

「……何か用?」

『おいおい、随分とテンションが低いな。なに、また仕事をやってほしくてな』

『あいつら』だった。私に『界転(リバース)』の力を与え、変な任務をこなさせる連中。

「仕事?何よ、また同型真像(オリジナル)を襲いに行くの?」

『いや、それはまだいい。まぁ、コンセプトは変わらないがな』

「変わらない……?はぁ、また『殺害』系の任務?」

『あぁそうだ。俺達を嗅ぎ回ってる奴が居るらしくてな。そいつを殺ってほしいんだ』

「俺達?私をアンタ達みたいな野蛮な連中と一緒にしないで」

私はそう言ってその場に立ち上がった。携帯を肩と頬で挟みながら、色々と用意する。

「私はアンタ達が誠を生き返らせる事が出来るっていうから協力してるだけ。アンタ達の仲間にはなっていない」

『もう既にお前は同じ穴のムジナだと思うがな』

携帯の向こうの男は、嘲笑うようにそう言う。

「…………どうだか」

『とりあえずそいつが現れるであろう場所を複数教えておく。そこからはお前の管轄だ』

「殺した方がいいんでしょ?情報は奪っとく?なんか知ってるかもしれないわよ?」

『いいや、ものも言わせずに殺しておけ。そいつはバックが居ないらしいからな』

「ふーん……あ、そう」

会話を適当に流しながらも、情報は的確に脳内に吸収していく。頭は悪いくせに、記憶力だけは高くなってしまっている。

とりあえず、夜に出た方がいいわよね。相手も私が居るとは思わないだろうし。

そんなことを考えながら、引き出しから『あるもの』を取り出す。


拳銃。名称は『ベレッタ92』というらしい。


アメリカなんかでは結構ポピュラーな拳銃らしく、よくマンガなんかで見掛けるような外見だ。

もはや使い方には慣れてしまい、任務には必ずと言って良いほど使っている。別に、愛着が湧いているワケではないのだが。

私は小さなポーチにそれをしまい、チャックを閉めた。何の抵抗もなく、自然に。

だが、同時にこう考えてしまう。


私はこんな物騒な物を、普通に使うまでに落ちぶれてしまったのか、と。


「くっ……」

『どうした?今から場所を教えるから、早く地図でも何でも用意しろ』

「……分かってるわよ」

どうせ、そんなものだ。

『まずは……』

私は一歩闇に足を踏み入れてしまった。そこからは、進んでしかいない。戻ってはいない。

もう、戻れない。

光なんて、訪れない。

今は、突き進もう。誠に出会うまで、いくらでも進もう。

その為ならば、いくらでも殺す。いくらでもいたぶる。いくらでも黒く染まる。

誠にたどり着けば、きっと光に戻れるから。RPGなんかで、洞窟から一気に抜け出せるアイテムのような。

そして、二人でまた、楽しく暮らすのだ。

『……あと、ここだ。分かったか?』

「えぇ、分かったわよ」

『それじゃ、よろしくな』

そう言って、男は電話を切った。間抜けな通信音が、携帯から漏れる。

「さて、と」

どうせ、闇から抜け出せないのなら。

出口のない、漆黒の闇ならば。

誠に会わなければ、抜け出せないような闇ならば。

「今日もお仕事、頑張りますか」

せめて、心地の良い闇にしようじゃないか。

誠というゴールまで一直線の、血みどろの大橋でも掛けてやろうじゃないか。

誰が立ちはだかっても。

例え、同型真像(オリジナル)の私でも。例え、透だとしても。

全部殺して、道を開くだけだ。

「ふふっ。『同型真像(オリジナル)』の私と、『同型虚影(ドッペルゲンガー)』の私って」

私は、笑った。

多少、自嘲気味に。



「どっちが、本物の『榎田舞(えのきだまい)』なのかしらね」



誰が主人公か分からなくなりそうですね。

とりあえず神代透。それと、同型真像の立花真咲。

榎田舞は……どっちも主人公っぽいなぁ。

まぁ、読者様が好きなキャラを主人公にしてください。

あ、二十八小夜を忘れてた。

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