法則無視(イレギュラー)
「どっちでもないって……どういう事だよ……!?」
「ま、いいからとりあえず座ってください。ちゃんと話しますから」
そう言うと、彼女は俺の腕を掴み、そのまま同型虚影の立花の横に座らせた。
同型真像も、乱雑に小夜の隣に座った。すると、エノは彼女に近付いていき、その隣に座った。どうやら、相当なついているらしい。
「えーとですね、とりあえずまずはこの世界について、ですかね」
「そんなの最初から分かってるよ。いいからお前の正体について話せ」
同型真像が小夜に催促するが、小夜は小さく笑った。
「いやいや。エノ君や真咲さんだってこの世界の事を詳しく知らないんだよ?急に話したってごちゃごちゃになるだけじゃないか」
同型真像を相手にするときに敬語が解かれるのは、まだ敵対心が残っているからだろうか。
「ふん。だったら手短にね」
そういうと、同型真像はエノを両手で持ち上げ、そのまま自らの膝にのせた。エノの腹に手を回し、抱き着くように頭に顎を乗せる。その時の彼女の顔は、まんざらでもない感じだった。
(弱点はエノか……覚えとこう)
「じろじろ見ないで、偽者」
「すいません」
「じゃ、説明しますか」
小夜は小さく笑みを浮かべ、指を二本立てた。
「まず、この世界は二つに分かれています」
「私達がいる『表世界』。そしてお前ら偽者がいる『裏世界』。この二つでしょ?」
同型真像は多少苛つきながら言った。
「んでもって、表世界には『同型真像』、裏世界には『同型虚影』がいるんだよな?」
「ご名答です先輩。んで、本来ならばこの二つの世界はまるで平行な直線のように、決して交わらないハズだったんです」
そう言って小夜は右手左手で一本ずつ、人差し指を立てる。二つとも上を向いており、そして平行だ。
しかし小夜は、右手の人差し指を少しだけ曲げ、平行ではないようにした。
「でも、何らかの力でその直線が歪み、重なるようになってしまった。というより、個人的に歪めてしまえるといった方が正しいでしょうか。そして、その力が……」
「『界転』ってワケか……。でも、それとお前とは関係ないじゃねぇか。しかも、お前確か同型虚影の舞の『界転』の事を純正じゃないって言ってたよな。あれはどういう意味だ?」
「後付けって事ですよ。先輩とは根本が違うってことです」
「は?」
いや、全然意味がわかんねぇんだけど。どういうことだよ。
「まぁ、そんなことどうでもいいです。で、そんな特殊な『力』は別に裏世界の専売特許じゃない。だよね、同型真像?」
「気安く私に話し掛けないで。……この『目』でしょ?私の『紅い目』と、榎田サンの『蒼い目』の事が言いたいんでしょ?」
その真っ赤な眼光をもろにぶつける同型真像と、それをニヤニヤしながら流す小夜。なんだか、妙なライバル関係が出来上がってるらしい。
「Oh、恐い恐い。そうだよ、その『目』の事だよ」
小夜は小馬鹿にしたようににやけると、
「『裏世界からの反応を認識することが出来る能力』。それがあるからこそ、アンタは僕達を追いかけ回す事が出来た。そして、その能力は同型真像の榎田サンにも備わっている。でも言っとくとね……」
「え?」
「あの『蒼い目』でさえも後付けなんだよ。榎田舞ってのは、表裏問わずに『後付け』に好かれてるってことだね」
「後付け……?同型真像の舞も?おい、何が言いてぇんだよ、お前は」
「ま、後で分かりますよ。それより、僕の正体を知りたいんですよね?」
再び笑う小夜。
なんだか、俺達は小夜の手のひらで踊らされているかのようだ。少なくとも俺はそう思った。
「僕って、だいぶイレギュラーな人間なんですよ。僕は同型真像の『紅い目』には認識されません。でも、表の人間では無いんです。だって、僕は『界転』を使えません。なのに、僕が裏世界にいるっておかしくありませんか?」
「……ん?って事は、同型真像でもあって、同型虚影でもある……いや、どちらでもない……のか?」
俺は思考の泥沼にはまったらしい。待て、ちゃんと考えろ。
同型真像であって、同型虚影でもある。
「まぁ、これについてはハーフである真咲さんが一番実感あるかもですね」
「え、私?まぁ、確かにアメリカ人と日本人の子だけど……って、あ!まさか!」
ん?何か分かったのだろうか。
俺が聞く前に、勝手に立花は話し出した。
「表と裏、どっちでもあるんだよね?って事は小夜ちゃんは……」
まるでパズルと解いた子供のような笑顔で、立花は言い放つ。
「同型真像と同型虚影のハーフなんだよ!だから表の私の『紅い目』にも反応しないんだ!表でも、裏でもないから!」
「当たりです。そういうことですよ。僕はお父さんが同型真像で、お母さんが同型虚影なんです」
その瞬間、場が一瞬静かになった。あまりの新事実に、皆呆然としているのだ。いや、エノはいまいち分からない顔をしているが。
「つまり、『法則無視』って事ですよ。世界に囚われないので、僕は僕しか居ません。なので『法則』も僕には関係ないんです。だからこその『法則無視』なんですから」
「でも、それってどっちでもあるって考えられねぇか?」
「どっちでもいいんですよ。結局、裏世界の反応を表世界の反応で打ち消してしまってますし。反応の力はそれぞれ二分の一。結果的に『相殺』ってことになるので、どっちでもないっていう方が正しいんじゃないかって僕が勝手に思ってるだけです」
まぁ、そういう解釈もアリかもしれない。むしろ、それが正しいと思う。
俺は頷き、そしてふと考える。
じゃあ、ここは彼女の父親の家なのだろうか。どう見ても男性の家だ。そもそも、彼女の両親はどこなのだろうか。普通に考えれば、裏世界に居るのだろうが……。
「なぁ、お前の両親はどこだ?ここってどう見てもお前の父さんの家だよな。お前の母さんは裏世界か?別居してんのか?」
すると、小夜は暗い顔をして、
「僕の両親は……居ません。僕が小さい時に、二人とも死にました」
顔を俯け、トーンを低くして語った小夜は、何だかとても悲しそうだった。
「そ、そうか。悪かったな」
それでも、小夜は暗いままだった。
すいません。なんかアクションが入らないとセリフばかりで地の文が書けないんです。




