正体不明
五分後。
「やっと終わった……」
「お前理解力無さすぎでしょ。タッチとかフリックとかの単語すら理解してないし」
「うっせぇタッチくらい分かるわ!!」
「フリックは?」
「知りませんでしたすいません」
俺は冗談交じりにそんな会話をすると、苦心して手に入れた舞のアドレスから電話を掛ける。特に用はないが、今はどんな状況なのか確かめたかった。
俺は時代遅れ(らしい)のガラケーを耳元に近付ける。軽い感じの通信音が数回鳴った後、久しぶりな少女の声が聞こえてきた。
『はい、榎田です』
「えーと、舞か?俺だよ。透」
『ふぇ!?透!?あっ、ちょ、誠!!今話してるんだからスタートボタン勝手に押さないでよ!!』
携帯の向こうから、舞のおどおどしたような怒号が聞こえた。どうやらゲームでもしてるようだ。
「あ、ちょっと都合悪かったか?だったら後でも……」
『いや、大丈夫だよ?うん。今ちょっと誠をヘッドロックで押さえ付けたとこだから……!』
明らかに力がこもった声で舞は状況を伝えてきた。そういえば『痛い!!痛いから姉貴!!ヘッドロックは反則!!そしてぶっちゃけ言うと胸押し付けんな!!』という少年の声が聞こえる。きっと舞の弟、榎田誠だろう。
「元気そうだな、舞。あの時、そのまま寝ちまいやがって」
『あっ……あれはその……!!で、でも、あの事は寝ぼけてたワケじゃないからね!!本気なんだから!!』
――――――――大好きだよ、透。友達としても、幼なじみとしても。
あの時の言葉を思いだし、俺は少し恥ずかしくなった。それを見た立花が僅かにニヤけたのは見なかった事にしよう。絶対ただの嘲笑に違いないから。うん。
「……そ、そうですか」
『そうだよそうだよ。うんうん。私は君が大好きなんだから』
『うおっ、告白!?誰々!?電話の相手誰!?ぶっちゃけ教えてくれ姉貴ィ!!』
『うるさい君は黙ってなさい。姉貴の胸で窒息死させるかい?』
『巨乳だということを理解しての一言だと!?ぶっちゃけ姉貴は自分のポテンシャルが高い事を理解してますね!?あざとい!あざとい……ってムガッ!?やめっ……マジで死ぬって!!ぐあ!?』
……チクショウ、弟という立場を利用して思う存分胸を満喫してやがる。くっそ、羨ましい。いや、俺も立花(裏)の胸に飛び込めるな。アイツは絶対抵抗しないだろ。でもアイツのを堪能するのはなんか癪だ。
「……おい、エロい顔つきになってるよ、お前」
「へ?あっ、やべ」
立花(表)の指摘に、俺は急いで脳内の色をピンクから無色透明に変換する。
「でも良かったよ。お前の母さんが亡くなってから、正直お前の事が心配だったから。落ち込んだままになってないかってな」
『心配……?あ、ありがとう。……まぁ確かに、あの後復帰するのに少し時間はかかったんだよ』
少しトーンを落として、舞は話し始めた。
『ショックで一週間くらい学校休んじゃって……先生からも、鈴奈……っていうのは私の友達なんだけど。クラスメイトからも心配されちゃったしね』
「今はどうしてるんだ?父さん居たっけか、お前の家」
『うぅん、居ないよ。だからね、とりあえずは高校生だし、今まで通り家に住んでる。私と誠の二人っきりでね』
「そっか……もう、大丈夫なのか?」
『……私、決めたんだ。いつまでも母さんの死を引きずらない。もう、落ち込まない。ウジウジしてたって仕方ないしね』
彼女は努めて明るい声で、言う。
『せっかく透と立花さんに助けてもらったこの命だし、私は精一杯生きていこうと思うんだ。誠もそれで納得してくれたから……』
「あぁ、それがいいよ」
『あ、そうだ。ねぇ透、彼女とか居ないの?』
「へ?」
俺はアホらしい顔で、アホらしい声を出した。
『彼女とか。ねぇ、どうなの?』
ちょっと待て。あの時の言葉は恋愛的な意味じゃないのか。あの『大好きだよ』はあくまで幼なじみとしてなのか。
あ……そういえばアイツ、『友達としても、幼なじみとしても』って言ってたな。
……『彼氏として』は含まれていないのか。
見てないもん!視界の端で立花(表)が大爆笑してる所なんて見てないもん!
「はぁ……えーと、自称彼女の迷惑女が一人」
俺は少し落胆した感じで溜め息をついた。
『うぉ、良かったね。ポテンシャルは?』
「……金髪のセミロング。背丈は俺よりちょっと小さいくらい。ド変態」
『ドへん……へ?ちょ、大丈夫?なんかストーカーにでもあってるの?』
「クラスメイトだよ、ド変態の。まぁ、今はうまくあしらってるから大丈夫」
『胸は?』
「……お前対抗してんのか?」
『胸は?』
「……まぁまぁ大きいくらい。お前の方がデカイんじゃね?」
『っしゃ』
「なんか居間からもそんな感じの声が聞こえたぞ、さっき」
『自分で言うのもなんだけどさ、頭脳明晰でスタイルいいって最高だと思うんだ』
こいつ、こんなキャラだったっけ?まぁいいか。
「はいはい。じゃあ切るぞ。いきなり電話して悪かったな。一応立花から番号聞いたからさ」
『いや、実は気付いてたんだ』
「え?」
『私の「蒼い目」で見たからね。透ともう一人、さっき言ってた女の子でしょ?その二人を認識したからね』
二人?
「おい、ホントにその二人だけなのか?」
『え?うん。じゃあね』
「あ、あぁ……」
プツッ、という音と共に、通話が切れた。トーンの同じ音が、一定間隔で鳴り響く。
(二人だけ……?)
おかしい。こっちへ来たのは三人だ。俺、立花、小夜の三人。
しかし、舞が感じていたのは二人。
俺と、
立花の二人だけ。
なら。
なんで、小夜は舞の蒼い目に反応されなかったんだ?
俺は急いで立ち上がり、部屋を出て居間へと降りる。同型真像の立花も、驚いた表情で俺についてくる。
居間。
そこには、エノと楽しげにじゃれる立花と、それを見て笑っている小夜が居た。
俺は小夜に駆け寄り、その肩を掴む。
「ん?何ですか、先輩」
「小夜……お前……」
俺の態度に、小夜は僅かに悟ったような表情を浮かべた。
「バレちゃいましたか。最初に言った時に気付いてたと思ったんですけど、違いましたか」
「……お前は……」
俺はゆっくりと、その口を開く。
「お前は、どっちの世界の人間なんだ?」
すると、小夜は小さく、妖しげに笑う。
その小さな唇から、予想外の答えが飛び出した。
「……言ったじゃないですか。どっちでもないって」
皆さん、夏休みの課題は終わりましたか?作者は終わってません。
関係がややこしい透と舞。一応、透は勘違いだと思い、この先は普通に幼なじみとして舞と接します。一方、舞は後から気付いていく感じですね。
……久々のまともな後書きかも。




