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叶わない空想

ベッドから転げ落ち、痛みに顔を歪めていた私に駆け寄ってきた、意外な人物。

しかし、それは随分顔見知りな少年だった。

つまり。



「マサキ!!大丈夫!?」



「エノ……君!?どうしてここに……!?」

「お兄さん達が、教えてくれたんだよ」

その時、何かが私の胸の中に飛び込んできた。手に取ってみると、淡いピンク色のタッチパネル式携帯電話だった。

「……これ……私の……?」

「それをちょっと借りたんだ。同型真像(オリジナル)の俺以外なら話しかけすら出来ないお前の事だから、きっと登録されてる連絡先は少ないだろうってな。思った通り、登録されてたのは三件だけだった」

エノ君の後から続いて現れた神代君の偽者。どうやらこいつが、私の携帯を投げ渡したらしい。

しかも連絡先まで見られた。クソ、このゴミ共が。

「そしたら思ったとおり、あなたのその小さな連れ君の連絡先があった。えっと、エノ君……だっけ?」

「うん!でも、なんでマサキが二人も居るの?そっくりさん?」

今度は、私の偽者が話し始めた。エノ君と親しそうに会話している。

「う~ん、まぁそんな感じかな?」

という事は、コイツらが私の携帯を使って、エノ君を呼び出したって事?

ダメだ、危ない。コイツらは神代君を殺した。エノ君にだって、何をするか分からない。

だから、私はエノ君にこう言い放った。

「ダメだよ、エノ君。ソイツらはね、殺人鬼なの。平気で人を殺すような、そんな野蛮な奴らなんだよ」

私のそんな言葉に、先程の正体不明ボクっ娘が反論してきた。

「ちょ、殺人鬼って……!アンタの方が殺人鬼じゃないか!金槌もって襲ってきたりして……!」

「エノ君、殺人鬼の言葉なんて信じちゃダメ。私はコイツらが危険だと思ったから、早めに消しておこうと……」


「どっちも違うよ。サヨもマサキも、殺人鬼なんかじゃない。もちろん、マサキのそっくりさんも、トオルも違うよ」


「え?」

私は思わずアホらしい声を上げてしまった。

どうしたのだろう。まさか、もう既にコイツらに言いくるめられてしまったのだろうか。

「ど、どうしたの、エノ君。なんでコイツらを庇うの……?」

「別に庇ってなんかいないよ」

エノ君は、やけに真剣な態度で、そう言った。

「当たり前の事を言ってるだけだよ。みんな殺人鬼なんかじゃない。みんな、ちゃんとした普通の人間さ」

「エノ……?」

神代君の偽者が、そんな風に呟く。

「お兄さん達も誤解しないで。マサキはね、顔も恐いし、僕以外にはいつも喧嘩腰だけど……」

「私、エノ君にそんな見られ方されてたのか……」

少し心に突き刺さった。今の二つの要素は、結構気にしてることだったりするんだけどな……。

すると、エノ君は私に向かって振り返り、『エヘヘ、ごめん』と笑った。

小さく、照れ臭そうに。

だけど次の一言は、私のそんな悩みを吹き飛ばした。



「でもすごく、すっごく、優しいんだ!!」



「や、さ―――――――――――?」

優しい?この、私が?

「僕が困った時はちゃんと相談に乗ってくれるし、僕が何か食べたいな~って思ったら何でも作ってくれるし……!!」

「あぁ、分かってるよ」

「ちょ、先輩!?」

すると、神代君の偽者までもが頷いた。納得したような笑顔で。

「お、お前……何言って……!?」

「エノの言う通りだ。こいつは優しいんだよ。というか、純粋なんだよ」

「だよね!!分かってくれるの、お兄さん!?」

「おう。純粋さはこいつの同型真像(オリジナル)だから保証できるだろ」

そう言って彼は、親指で私の偽者を指差した。

「私……?いやぁ、そんなぁ。照れるねぇ、やっぱ私の彼氏だけあって良いこと言うわ」

「……変態度も筋金入りだな」

「ヒドイ!!もうなんか私変態キャラとして確立してない!?」

「何を今さら」

「ふにゃぁ!?」

なんだかよくわからない声を上げている。彼女はショックを受けているようで、何となく彼女の周りが負のオーラで包まれている気がしてきた。

「……同型真像(オリジナル)。悪い、お前がそうなったのは俺のせいだ」

「……それこそ、何を今さら」

「俺が同型真像(オリジナル)の俺を殺さなければ、こんな事にはならなかった。全部俺が悪かったんだ。俺があの時お前らに出会わなかったら、お前らは一緒にデートしてて、きっと今頃いい感じになってたのかもしれない」

「えー!同型真像(オリジナル)の私セコくない!?なんでそんな発展してんのフシャー!!」

「真咲さん、今真剣なんだから黙ってください。猫キャラとして確立したいんですか、あなたは」

エノ君からサヨと呼ばれていたボクっ娘が、偽者の私を押さえつける。ホント、なんというかKYだ。

……私も、神代君とくっついてたら……あんな感じになれたのかな。

不意に、心が締め付けられた。まるで握り潰されているような、そんな感覚。やがて、それが『寂しい』というのだと、私は気付いた。

もしも……そんな空想が、私の頭をよぎる。


もしも、神代君と付き合えてたら。


もしも、神代君といい雰囲気になれてたら。


もしも、神代君と一夜を共に出来てたら。


やりたいことも、いっぱいあった。


もしも、神代君と遊びに出掛ける事が出来たら。花火大会なんか行ったりして、一緒に花火なんか見たりして。プールに行ったりして、神代君が私の水着姿なんて見てモジモジしたりして。冬には雪合戦なんかやったりして。神代君の後ろにこっそり近付いて、背中に雪玉入れたりなんかして。終わったあとに、二人でコタツにこもったりなんかして。一緒にミカンなんか食べたりして。


いや、すべてこの一言に尽きる。



「もしも……神代君が……生きていれば……!!」



最後の言葉が、口に出てしまった。

そして、一緒に涙も溢れてしまった。ポタポタ、と音を立て、透明な粒が木製の床に落ち、そして染み込む。

「……悪い。ホントに……悪かった」

「……バカ……お前に謝ってもらったって……何も意味ないんだよ……!!」

そうだ。コイツが謝ったって、神代君が帰ってくるワケじゃない。そもそも、私は謝罪なんか求めていない。

『死』。

私は、この一つしかコイツには求めていない。

『死』こそが、コイツが神代君に償える唯一の行動。

「申し訳ないと思うのなら死ね!私に殺されろ!!私は、これしかお前に求めてない!!」

私はほぼ泣きながら、偽者にそう訴えた。

「私から希望を、神代君を奪って……それなのにお前が生きているのはおかしいんだ!!お前が死ねば、この問題は解決するんだ!!」

そう。

コイツさえ死ねば、問題は解決する。

しかし、コイツはきっと納得しないだろう。自分は人を殺しておいて、死にたくないとかいうんだ。

所詮、人間なんてそんなモンだ。自分の命を最優先する。別にそれを批難しようとも思わない。私だってそうだ。

だけど目の前のコイツにそんなことを言う資格はない。コイツは、死でしか償うことが――――――――


「あぁ、死んでやるよ。何回でも、お前に殺されてやる」


「――――――――――、え」

なのに、なのに、コイツは簡単に命を捨てようとする。

「じゃ、じゃあ、なんでお前……私に殺されなかった……!?」

「今はダメなんだ。『アイツ』を助けるまで、俺は死ねないんだよ」

偽者は、真剣な顔で答えた。固い決意がこもったような決意で、私を真っ直ぐに見つめる。

「……『アイツ』……?」

「お前も知ってるハズだぜ。なんてたってお前の携帯に『アイツ』の名前があったからな」

「私の……!?」

私は頭の中で私の数少ない、三つの連絡先を思い浮かべた。


一つはもちろんエノ君。非常用の為に、スマートフォンを持たせている。折り畳み式の携帯電話で、ひっくり返して畳めばタッチパネル式の携帯としても使えるやつだ。


もう一つは『あの人達』だ。たまに連絡があったりするので、連絡班の人達の番号を登録している。


と、言われたら、後は一つしかない。

偽者と関わりがあって、尚且つ私が番号を知っている相手。

黒髪ショートカットで、赤いヘアピンが特徴的な大人しい少女。

私は思わず口に出してしまった。

「榎田……サン?」


「あぁ。榎田舞(えのきだまい)同型虚影(ドッペルゲンガー)同型真像(オリジナル)も関係ねぇ、俺はどっちも救って見せるんだ」


そう言う偽者の目は、緑色で、しかし決意の光を帯びていた。

そして、彼はこう言った。



「その為には、できるだけ情報が欲しいんだ。俺に協力してくれないか?」



立花さんやっぱKYだぁ。

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