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窮地での意外な感情

「ぐ……ぅ……」

あ……れ。ここは、どこ?私は……偽者を追って……。殺したんだっけ?殺せたんだっけ?


「……目ェ覚ましましたよ、先輩」

「あ、マジで?」


「っ!?」

……どういう事?なんで私がコイツらに見下ろされなきゃいけないの!?

とにかくここから逃げなきゃ。いや、まずは殺し損ねたコイツを殺す。コイツらみんな皆殺しだ。その後、どうにかして家に帰ろう。家に帰ったら、エノ君に謝らなくちゃ。

(武器……ダメだ、奪われてる)

私は忌々しげに舌打ちした。くそ、この偽者共が。

しかし、チャンスといえばチャンスだ。

今、恐らくベッドに寝かされてるであろう私の周囲には、神代君の偽者しか居ない。私の目覚めを伝えた膨れっ面のボクっ娘も、何故か部屋を離れた。というより、ここはどこだろうか。周囲を見渡すと、どうやら男性の部屋らしかった。部屋の端には男物のTシャツが三枚ほど掛かっている。特に飾りっけもなく、ベッドも無地。女の子だったら凝るような所に、一切のこだわりがない。男部屋としか、考えようがなかった。

「……あのさ、お前……ファッションセンススゴいな。色んな意味で」

「は?」

不意に、偽者が馴れ馴れしくも私に話し掛けてきた。頬を赤く染めながら、小さく人差し指で掻いている。

「いや……その、お前ジャージの下何も着てねぇだろ。介抱するとき……ちょっち目のやり場に……困」

「キャァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッ!?お前神代君の顔して私をセクハラかッ!キモい!寄るなッ!ブッコロスゾ!!」

嘘だ。こんな奴に私の……!!もう終わった……私の人生終わった。

死にたい。コイツぶっ殺して私も死ぬ。

いや、コイツと一緒に死にたくない。おぞましい。

「やってねぇって!!痛い痛い引っ掻くな!!介抱しただけ!!お前の傷が酷かったから手当てしただけだ!!」

「ぅるさい!!どうせお前寝てる間に私の胸見てヨダレ垂らしてたんだろ!!気持ち悪い!!死んでしま―――――――」

その時、私は変な事に気付いた。

「あえ?お前なんで私を手当てなんて……」

「え?いや、あんな出血したまま放っとくのも何かと思って……」

ホントか?いや、嘘臭い。コイツがそんな優しいハズがない。だって、神代君を殺した張本人なんだから。

「むー…………」

「おい、何で俺をジトッと見つめる。しかも超恐ろしい目で」

「むぅー…………」

「……やめろって。ジトッと見るなって」

「むぅぅー…………」

「……ぅ」

「むぅぅぅー…………」

「……」

僅かに、目線を横に反らした。

「ほぅら嘘だ!絶対嘘だ!!やっぱり私の寝込みを襲ったんだろ!!乙女の純潔を!!よくも!!汚らわしい!!」

「だぁぁやめろッ!!枕で殴るな!!痛い痛い痛い!!なんでそんなこと言うんだよ!!」

「だって視線ずらしたとか絶対そうじゃん!!嘘ついてるときの男ってねぇ、視線を逸らすモンなんだよ!!」

絶対そうだ。私の初めてが……コイツに……あぁぁぁぁぁ。

「それはたぶん統計とかそういうのだろ!!全員が同じだと思うな!!大体嘘ついてるからじゃねぇし!!」

じゃあ、何でよ!?と、私は半ば泣きそうになりながら聞いた。

すると、再び偽者は恥ずかしそうにすると。

「その……むくれてる時のお前が……可愛……かっ……いや、何でもない」

「~~~~~~!!」

あぁ、もう、いきなりなに言い出すんだコイツ。恥ずかしいったらありゃしない。


そして何で内心喜んでんだ私ーッ!!


神代君に可愛いとか言われたから?いや、落ち着け。アイツは偽者だ。偽者。偽。所詮、神代君には成り得ない。

そうだ、嬉しくないぞ。アイツは同じ顔してるだけ。それだけだ。

(逃げ出そう。このままじゃアイツのペースに乗せられる。とりあえず逃げて、そこからならどうとでもなる)

「そ、そういえば、喉渇いたなぁ~……み、水飲みたいなぁ~…」

「そうか。んじゃ、水持ってくるわ」

なんか、随分とあっさりだなオイ。疑わないのか。

偽者は私に背を向けると、そのまま部屋を出ていった。

「おかしな奴だなぁ……まぁ、これで逃げ出せるからいいか」

はぁ……まだ脇腹がジンジンするなぁ……。

何故だろう。スゴくドキドキする。緊張っていうか、興奮っていうか。

んなわけない。アイツは神代君の仇だよ。殺すべき目標なんだから。いくら背格好が神代君だからって、いくら顔が神代君だからって……そんな、緊張なんて……興奮なんて……。

私は、紅い目に意識を寄せる。といってもほんの少しだけ。生まれつきこの目だから、もう力の使い方には慣れている。

どうやら私が居るのは二階らしい。偽者は一階に居る。もう一人、私の偽者も一階に居る。何やら神代君の偽者と話しているようだ。

「………………?」

ふと、私は違和感を感じた。というより、明確におかしい。

何故だ。

神代君の偽者。私の偽者。その存在は、確認出来る。

なのに。



何故、あのボクっ娘の存在は確認出来ない?



表世界の人間?ならば、何故偽者共の味方をするの?

それに、彼女は緑色の目をしていた。とてつもない緑色。限りなく黒に近い、緑色。同型虚影(ドッペルゲンガー)を沢山見た事があるわけではないが、それでもあれほど濃い緑色は初めてだ。黒緑とでも言うのだろうか?

私の胸の中に、明確な『不安』が浮かんできた。

(私の力でも見透せない……?何なのよ、アイツ)

私のこの自信。どこにいても追い付き、殺せる。その概念が、あのボクっ娘には効かない。

この半端じゃない索敵能力があるからこそ、私はアイツを殺せると確信している。しかし、奴は私の索敵を掻い潜る。もしかしたら、あのドアの向こうにも居るかもしれない。去ったと見せ掛けて、私が不審な動きを見せた瞬間、攻撃を仕掛けてくるかもしれない。

小さな『不安』が、大きな『恐怖』へと変わっていく。

(嫌だ……何だか見られてるみたい……アイツに監視されてるような、そんな気が……って、あれ?あの偽者共……?)

ふと、偽者共が不審な動きを見せた。二人とも玄関の方へと動いた。かがんでいる。背の低い誰かと話しているのかな?

あのボクっ娘は三人の中で一番小さかったが、かがむ程ではなかったハズだ。という事は、誰なのだろうか?

「クソ……肝心なトコでクソッタレだなぁ、この目は」

私は、この紅い目に妙な苛立ちを覚えた。

この目の力は、『裏世界からの反応を認識することが出来る』こと。それの精度は完璧だ。非の打ち所がない。

しかし、逆に言えば『裏世界からの反応しか認識出来ない』ということでもあるのだ。部屋の間取りの様なものはうっすら分かるが、表世界の人間は全く認識出来ない。

具体的には、私の紅い目が発動したとき、まず視界が真っ赤に染まる。その後、認識出来る物だけを正確に認識する。地形を細い骨組みにしたようなものが映る。同時に、裏世界の人間が色濃く、真っ黒に映る。

そんなものだ。それだけ、本当にそれだけ。表世界の人間は、キレイにまっさら、影すら残さず見えなくなっている。

そして、この能力は発動しっぱなしだ。

しかし、発動しっぱなしといっても普段から視界がこうなっているわけではない。大体、そんな視界なら私はこの表世界で生きていけない。ただぼやぁっと、なにもしなくても頭にその光景が浮かび続けているだけだ。

(……それでも、能力が発動しっぱなしっていうのには何の関係もない。紅い目は、生まれた時から変わることはない)

今まで意味もなく虐げられてきたことには何の変わりもない。実際、もしもこの紅い目が無かったとしたら、私はこんな事を考える人間にはなってなかったかもしれない。

そう考えると、さらに私は自分自身の目に苛立った。

「……!?ヤバイ、アイツらが上がってきた……!」

クソ、つべこべ考えてないで早く動けばよかった。このままじゃアイツらに何されるか分かったモンじゃない。ていうか、私の純潔は大丈夫なのか……!?おぉう、なんか背筋がゾクゾクしてきた。

とりあえず、まずはベッドから起き上がろう。このままじゃ、まともに応戦もできやしない。

「早く逃げなきゃ……痛ッ!?」

私が勢いよくベッドから起き上がったその時、私の横腹に激痛が走った。きっとまだ傷が治りきっていなかったのだろう。というより、先ほどの攻防からそれほど時間が経っていない事に私は気づいていなかった。時間にして二時間ほどだろうか。起き上がった瞬間時計が目に入った私は、既に半分身体をベッドの外に出してしまっていた。

腹が張り裂けそうな痛み。

思わず目を閉じてしまった私は、あろうことか何もない宙に体重の拠り所を求めてしまった。

「あっ……!!」

もちろん空中に手をつく事が出来るわけもなく、私の身体は木製のフローリングに叩きつけられてしまった。ベタン、という床ならではの奇妙な音が、耳に入る。

「痛ぁ……っ!」

私が痛みに横になりながら横腹を押さえていると、不意に部屋のドアが開く音がした。


ヤバイ。ミスった。


そう思って顔を青ざめさせた私の駆け寄ってきたのは、意外な人物だった。

実は作者、今回初めて投稿にパソコンを使いました。

えぇ、なにせ今までの投稿は全てPSvitaでやってたモンですから。

パソコンで使い勝手は少し違いますが、これもこれで便利だと思いました。

たまにパソコン使うのもいいなぁ。

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