表と裏の攻防
「拳銃……お前、拳銃はどこにやったんだ。何でわざわざそんな鈍器で……」
「ん?あぁ、別に拳銃なんかいらないよ。こっちの方が、お前に苦痛を与えながら殺せるからねェ」
そう言って俺を睨み付ける紅い目は、完全に血走っていて恐ろしかった。まるで正気を失っているかのようなその目は、復讐の感情だけをこもらせていた。
「先輩……真咲さんを連れて、逃げてください。僕は、ここでアイツを足止めしますから」
「そんな事出来るワケねぇだろ!俺も戦う。アイツの狙いは、俺なんだから」
「ククク……ゴチャゴチャ言ってんじゃねぇよ偽者共がァァァァァァァァァァァァァァァッッ!!」
完全に口調が変わってしまっている同型真像が、鬼のような形相で襲い掛かってきた。金槌を大きく振り上げ、こちらに向かってきた。
俺と小夜は横に分かれ、間一髪でかわした。寝ている立花は、俺が抱き抱えている。
くっ……重い。さすがに典型的帰宅部の俺がオンナノコ一人を抱き抱えて応戦するってのが……!
俺達がかわした場所には大きなテーブルがあったが、それは降り下ろされた金槌の一撃によって叩き潰された。真ん中に思い切りヒビが入り、テーブル自体が僅かに湾曲する。
「くっ……あの野郎……!」
「あっ……!」
小夜が、湾曲したテーブルを見て小さく悲鳴を上げた。
「避けてんじゃないよォ!逃げるなよォ!アッハハハハハハハハハハハハハハハハ!!」
狂った笑い声を上げながら、立花は金槌を振り回す。俺はそれをギリギリでかわすが、その度に家具やら何やらがメチャメチャになっていく。その光景を見る度に、小夜の表情が歪んでいく。
「やめて……もうやめてよ……!」
小夜のそんな弱々しい声が聞こえてくるが、何か言ってやることも出来ない。
気を逸らせば、目の前のこいつに叩き潰される。
殺される。
そう、肌で実感出来るほどの嫌悪感を、こいつはまとっていた。
と、その時不意に。
「っ!?」
何かにつまづき、俺は勢いよく床に叩きつけられた。
(―――――――ヤバいッ!!)
そう直感したのは、身体が床に激突してからだった。
しかも、その衝撃で立花を手放してしまった。
立花は僅かに苦しそうな声を上げ、部屋の中を転がった。最終的に、テレビ台に衝突して静止した。
「っ……!」
「立ば――――――!!」
その時、背中付近をとてつもない衝撃が襲った。肺の中の酸素が、全て何処かに飛んでいったような気がした。
「私の心配してくれるの?あ、違った偽者の方かぁ~。まぁ、こっちは大丈夫。これからお前に地獄の苦しみを与えてあげるよ」
同型真像の立花が、倒れた俺の上に馬乗りになっていた。先程の衝撃は、きっと俺の背中に金槌を打ち付けたのだろう。金槌を振り上げ、俺の身体を余すことなく、舐めるように観察している。
「どこからやってやろうか……まず意識を奪うかな?ってことは頭?ん~?」
「くっ……離せよ、この野郎!!」
「そんな暴れたってムダムダ。あ~、やっぱり偽者だとしても神代君だなぁ。どこからどう見ても神代君。恥ずかしながら、ちょっと興奮してきちゃったよ、むふふ」
彼女は不気味に、妖しく笑う。
「お前が神代君を殺してなかったら……二人目の神代君としてここに存在していたら……私、これからヤってるな。絶対。まぁ、今はもうひとつの意味で殺るけど。むふふふふふふ」
そう言って、立花は視線を俺の顔に定める。その紅い目をギラギラに輝かせ、さらに金槌を振り上げる。
「目標決定。まずは顔面にしましたぁ♪結構痛いんじゃなぁい?顔だもんね。もう、偽者があのカッコいい神代君と同じ顔してるのが耐えられない。まずはその顔をグチャグチャにしてあげるよ」
そして、その金槌を。
力一杯。
降り下ろ――――――
「やめろォォォォォォォォォォォォォッッ!!」
「ッ!?」
その時、立花の身体が、小夜によって弾き飛ばされた。立花は俺を攻撃することに気が回りすぎていたのかもしれない。実際問題、立花は床を小さく転がった。
「小夜……!」
「この変態野郎が……真咲さんの皮を被った殺人鬼が!!」
小夜は俺に気遣いの一言もかけず、ただ同型真像の立花だけを睨み付けていた。
「邪魔すんなよ……ボクちゃん野郎が……!!」
立花は、フラフラと立ち上がろうとする。
しかし小夜は、そんな立花の襟元を掴んで壁に叩き付けた。
「よくもお父さんの家を……僕の思い出を……!!殺してやる!!」
そう言う小夜の手には、先程立花が叩き潰したテーブルから取れたであろう、尖った薄い板のような木片が握られていた。
そして、それをすかさず、
「っ!?」
「死んじまえよ、ド変態!」
立花の腹に、突き刺した。それだけでは飽きたらず、ぐりぐりとねじ込み始めた。
「ぐ……ぁ」
「ここは僕の家族の家なんだ……死んだお父さんの……!お前みたいな変態が汚すな!」
「がぁ……む。ふ。ふふふふふふふフフフフフフフ……!!」
と、急に立花が笑い始めた。
そして、小夜が訝しげな顔を浮かべた瞬間。
「――――――!!小夜!横!」
「え……?」
ゴィン!!と、鈍い音が響いた。
それは、立花が振るった金槌の音だった。小夜のこめかみを殴り飛ばした音。
一瞬の静寂の後、小夜が横倒しに弾き飛ばされる。宙を、赤い液体が舞っていた。
そして小夜は床に倒れ込んだ。床に、赤い液体が広がる。まるで、赤い円が大きくなるかのように、血がドロドロと広がっていく。
「小夜!!」
不意に、小夜の腹を立花が踏みつけた。しかし、小夜はピクリとも反応しない。
「痛い……痛い……むふふふ。私、マゾヒストにでも目覚めちゃったのかな?でもね、全然感じない。痛みなんて、これぽっちも。あ、最初に痛いって言ったか。あぁ……ぁぁぁはははは」
無理矢理、脇腹の木片を引き抜く。まるで待ってましたと言わんばかりに、待ちきれなかった鮮血達が傷口から溢れてくる。
「むふふふふふふふふふふ……アハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!さぁ、邪魔者は居なくなったよ。これからは私とお前、二人のショータイムだね。偽者クゥン?」
そう言って、立花はゆっくりと近付いてくる。まるでダルマのように、フラフラと左右に揺れる。だけど、絶対に倒れない。
(あの時と……同じ……!!)
そう、俺が同型真像の俺を殺してしまった時。あの時と、まったく同じだ。俺が追い詰められた、あの時。
――――――殺してやる……殺してやる……。
「殺してやる……殺してやる……」
やめろ、同じ事を言うな。
――――――コロシテヤルコロシテヤルコロシテヤルコロシテヤルコロシテヤルコロシテヤルコロシテヤルコロシテヤル。
「コロシテヤルコロシテヤルコロシテヤルコロシテヤルコロシテヤルコロシテヤルコロシテヤルコロシテヤル」
やめろ、やめてくれ。
もう、俺の前まで来ている。後は、その右腕を降り下ろせば。
逃げる、なんて選択肢はない。いや、あるのに、選べない。ゲームで二つ選択肢が表示されているのに、何らかの理由で片方が薄暗く表示され、選択できなくなっているようなものだ。
しかし。
「コロ……シテ……ヤ……」
「え?」
不意に、身体に重圧を感じた。しかし、叩き付けられたような痛みではない。何か、こう、ゆっくりのし掛かってくるような……。
恐る恐る確認すると、俺の身体に、同型真像の立花が寄り掛かっていた。意識は、ない。
腹の辺りが温かい。ゆっくり立花の身体を引き剥がすと、俺の腹に、立花の真っ赤な鮮血がべっとりと付いていた。
「助かった……のか?」
俺は安堵の溜め息をつき、立花が寄り掛かっているにもかかわらず、その場に崩れ落ちた。
助かったんだ。死なずに済んだんだ。
まだ手足が震えている。呼吸も荒い。頭も、恐怖で真っ白だ。
ふと、俺に寄り掛かっている同型真像の立花を見る。
「…………」
こうして見ると、同型虚影の立花と何の違いもない。その真っ白な、雪のような肌も。まるで染め上げたかのような、綺麗な金髪も。まぁ、可愛いに分類されるであろう、その適度に整った顔付きも。確か、外国人とのハーフだとか聞いたが、同型真像の方もなのだろうか。
ただ、相変わらず目の下のクマは恐い。
ハァ、ハァ、とその小さな唇から吐息が漏れている。
そういえば、早く手当てしてやらないと。みんな、ケガをしている。今動けるのは、この俺だけだ。
俺は立花をソファーに寝かせ、そのまま手当てに取り掛かった。
……やり方は知らないが。
いや、マジで立花さん書くの楽しいです。裏表問わず。




