最悪の再開
「どこだ、今の銃声はどこから……!?」
「先輩、こっちです!」
路地裏を二人で駆け抜ける。俺は小夜の示すがまま、奥へと突き進んでいった。
「あの奥……きっとあの角を曲がれば!ほら、声が聞こえてきますよ!」
確かに、先程から聞こえていた少年のような声が、だんだん大きくなってくる。それにともなって、別の声も聞こえてくる。
『……てよ!か……う……よ!』
『とめ……いで!きっ……つは、あ……の……!』
声の欠片だけが、俺の耳に入ってくる。確かに少年の声だ。若干涙声になりながらも、何かを訴えかけている。
それを振り払うような声が、聞いたことのあるような声が、聞こえてくる。
先程も聞いた声。ここに来る前に聞いた、少女の声。
俺にすりよってくるような、そんな猫なで声だった。しかし、今ではそんな面影は見られないほど激昂した声。
つまり。
あの声は、立花のものだ。
俺は一層スピードを上げ、その角から勢いよく飛び出す。
「立花っ……!!」
しかし、そこから見えた光景は、
目の前で血みどろになって倒れている、
下腹部から血を流して倒れている、しかしまだ小さく、荒い呼吸を繰り返している、
立花の姿だった。
「た、ち……ばな……?おい、立花!!」
俺は慌てて駆け寄り、身体を抱き抱える。
「トオ……ル、君……?」
その緑色の瞳は生気を失っており、今にも閉じかけそうなほど薄く開いている。その小さな唇からは微かに吐息が漏れ、気持ちの悪い汗をびっしょりと流していた。
横っ腹付近が赤黒く染まっており、結構出血しているようだ。ポタ、ポタ、と赤い水滴が地面に落ち、コンクリートを赤く染めている。
「しっかりしろ!!大丈夫か!?誰にやられた!!なんでお前が……!!」
「あ、はは……トオル君、私の……心配して、くれて……嬉、しい。やっぱり……彼女を、心配するのは……彼氏と、して……当然だよ、ね……」
「クッソ!こんなときまでワケわかんねぇ事言ってんじゃねぇよ!!一体誰に――――――!」
その時、また銃声が響いた。
そして次の瞬間、
弾丸が、俺の頬をかすめていった。
「……は?」
「先輩、大丈夫ですか!?危ないです、離れてください!!」
小夜がそんな事を言うが、俺はその場から動けなかった。
「見つけた……」
そうだ。
「やっと見つけた……」
立花なんかを危険視する人間なんて、一人しかいない。
「やっとだよ、神代君……」
つまり、『法則』によって立花に殺される危険性のある人間。
「やっと、君の仇を討てる……殺せる……」
立花は目の前で苦しそうに吐息を小さく吐き出している。なのに、彼女の声が聞こえてくる。
「さぁ、こっちを向きなよ……今から君を地獄に送ってやるから……」
俺は恐る恐る、顔を上げる。
そこには、
「ほらぁ……偽者サァァァァァァァァァァァァァァァァァンッッ!!」
その紅い瞳をギラギラに輝かさせた、同型真像の立花真咲が立っていた。
もちろん、その銃口はまっすぐ俺のこめかみに向けられている。劇鉄も既に上がっており、引き金にも指が掛かっている。
簡単に、俺の命を奪うことが出来る。
「同型真像……!!」
「やっと見つけたよ、偽者ォ。まさか、まだ神代君を殺したのは自分じゃないなんて言わないよねェ」
口が裂けるかという程の笑みを浮かべ、同型真像はそんな事を言う。
「……あぁ、殺したのは俺だ。俺が表世界の俺に触れた時から、法則は始まってた」
すると、彼女は苦い顔を浮かべ、
「……格好つけるなよ」
「え?」
思い切り、俺のみぞおちを蹴り飛ばした。
「がっ……!?」
「俺だ、じゃないんだよこの悪党が!!犯罪者のクセに格好つけるなよ、クソ野郎!!お前は『俺はやってません』とか言いながらのたうち回ってりゃいいんだよ!!私はお前を散々いたぶって、地獄の苦しみを味あわせてから殺してやりたいんだ!!このクズが!!」
そう言いながら、彼女は俺を何度も蹴りつける。しかし、その時、
「やめてよ、マサキ!!マサキはこんなことするような人じゃ……!!」
同型真像の後ろから、緑色の影が飛び出した。その声から、先程の少年だとわかった。想像通り、泣き出しそうな顔で拳銃を持つ彼女の腕を押さえ付けようとしていた。
「やめて、エノ君!!私は……私はこいつを殺さないと……!!」
「お兄さん、逃げて!!マサキは僕が押さえてるから、早く!!」
俺は言われるがまま立ち上がる。立花を抱き抱えたまま、今来た路地を引き返す。
「待て!!逃げるなクズ野郎!!お前は私が――――――!!」
「やめてよマサキ!!僕、そんなマサキ見たくないよ!!」
後ろから聞こえるそんな声が、俺の心を掻き乱す。何が何だか分からない。あのエノと呼ばれていた少年は、何だったんだ。
「先輩、とりあえず人目に付かない所に逃げましょう!!」
「でも、病院に行かないと……立花が……!!」
「病院に行ったら警察沙汰になってしまいます!!それに、真咲さんは弾がかすっただけです!きっと、あの男の子が邪魔したので狙いが外れたんでしょう。この傷だったら手当てすれば大丈夫です。僕の家に行きましょう、人に見付からない裏ルート知ってますから!!」
そう言って、小夜は俺を先導する。
これなら心残りはない。きっと、立花は助かるだろう。
だが、一つ引っ掛かる。
ここが表世界なら、小夜の家で表世界の小夜に出くわす可能性は無いのだろうか?
夏休みって曜日感覚無くなりますよね。




