二十八小夜
「お前の……変な力だって……?」
「はい」
俺がもう一度聞き返すと、小夜は間髪入れずに答えた。相変わらず悪戯っぽい笑みを浮かべながら。
「あ、僕のは先輩と違う力ですよ?『連結』って言うんですけどね。要は、能力を他人と繋ぐことが出来るってワケです」
「繋ぐって……どういうことだよ?大体、お前はなんでそんな力を……」
意味がわからない。能力を『繋ぐ』?どういうことだ?
そもそも、コイツは何者なんだ?瞳が緑色な辺り、裏世界の人間であることには間違いないだろう。やたらその色が濃いのは少し気になるが。そしてコイツは俺の『界転』の力を知っていた。ということはコイツはただのボーイッシュな女子中学生じゃない。
しかし、聞いたことがない。想像も出来なかった。『能力を繋ぐ能力』……か。
俺がそんな事を考えていると、小夜は言った。
「僕はちょっと先輩とは違う人間なんです。『法則』からも、裏と表世界からも関係のない、先輩とは接点のない人間なんですよ」
そんな事を。
「お前は……何なんだよ。ワケわかんねぇよ。ちゃんと分かるように説明しろよ」
すると、小夜は僅かに俯き、何やら苦い顔をしながら言う。
「僕は、二十八小夜です。それ以外の何者でもありません。同型虚影でも同型真像でもないんです。『法則』にも縛られない。だけど、同型虚影であって同型真像でもあるんです」
「はぁ?」
彼女は意味深な発言をしたあと、再び黙り込んでしまった。
その時、倒れていた立花が起き上がり、不安そうな顔で聞いてきた。
「ねぇ、二人共何言ってんの?『どっぺるげんがー』とか『おりじなる』とか意味わからないよ。ねぇ、トオル君!」
「い、いや……それは……」
まずい、この話に立花を巻き込むわけにはいかない。
この話は現実に命が危険に晒されたりする。いくら嫌なやつだからといって、コイツが死ぬところなんて見たくない。
いや、もう誰も死なせたくない。それは、同型真像の俺を殺した俺の義務だ。
しかし。
「ちょうどいいです。じゃあ先輩。ここで僕の力を見せてあげますよ。『連結』の力を」
コイツは、そんな俺の願いをいとも簡単にぶち壊した。
「真咲さん」
「えっ何?キャアッ!?」
小夜はいきなり立ち上がり、立花の腕を掴むと、もう一方の手で折り畳みナイフを取り出した。常に携帯しているのだろうか、ナイフを取り出す動きは素早かった。すかさずそれを逆手に持ち替えると、
俺に向かって、突き出してきた。
「な――――――――――!?」
「ちょっと、何をし――――――!?」
俺と立花が同時に驚きの声を上げたのと重ねるように、小夜は大きな声で叫んだ。
「さぁ、使ってみてくださいよ『界転』を!!降りかかる木材だってこうしてかわしたんですよね!?」
まさか、あの時の事を言っているのか?
何で知っているんだ。
何で――――――――――――?
その時、本能的だったのか、危険を察知したのか、俺の身体が薄く光を帯びた。
瞬間、俺の『界転』が発動する。
ナイフは俺の肌に触れるか触れないかというところで弾かれ、それは後ろの床へと転がる。カラン、という乾いた音が居間中に響き渡る。
「くっ……!」
よくわからないが、この力を俺はまだ制御しきれていない。任意で発動のタイミングを掴むことは出来るのだが、危険を察知したときに勝手に力が発動してしまうのだ。
確かにこの力を発動する時は、何者からの干渉も受けない。だからこそあの時は木材の波から逃げ切れたわけなのだが……。
身体がいくつものカードに分かれ、それらは裏返る度に俺の身体を掻き消していく。ゆっくりと消えていく俺を、立花は信じられないような顔で見ていた。
「トオ……ル、君……?それって……!?」
「さぁ、驚いてないで真咲さんも行きますよ。先輩も見ててください。これが僕の『連結』です」
そう言った瞬間、小夜は俺の消えていく身体に優しく触れた。
そして小夜は瞳を閉じ、小さく深呼吸をする。驚き呆然とする立花の腕をしっかり掴んだまま、小夜は僅かに全身に力を入れた。少なくとも俺には、そう見えた。
すると、小夜の身体が俺と同じように小さく輝きだし、身体がカードのような長方形の何かに分かれていく。まったく俺と同じように。
それと同じ現象は、立花にも表れていた。同じく身体がカードのように分かれていく。
「え……ぁ……?な、に……これ!?」
そう、『界転』が小夜や立花にも移っているのだ。
つまり。
これが、小夜の能力なのだ。
『能力を他人と繋ぐ能力』。
つまり、能力を他人と共有することができる能力。
「分かりましたか、僕の力が。触れた人間の間で、能力を共有出来るんです。まぁ、僕一人では何も機能しない能力ですけどね」
「分かったけど……おい、これからどうするんだよ。このままじゃ表世界に行っちまうぞ」
「え?あっち行ってから戻ってこればいいじゃないですか」
コイツはバカだ。結構策士に思えたが、俺は気づいた。コイツ、天然バカだ。
さっきも言ったが、俺はこの力を完全に制御しきれているわけではない。ましてや三人分を俺一人の力で表世界まで運ぶのだ。必ずしも三人一緒に同じ地点に辿り着けるとは限らない。そもそも、一人だったとしても着地地点に多少の誤差が生じる。同型虚影の舞が同型真像の舞を襲うとき、いきなり舞の家の中から襲えなかったのもそれが原因だ。本人の分からないところで、何かの誤差が生まれるのだ。
だがそんな事はお構い無しに、俺達の身体は消えていく。
そのうち、意識も消えていった。
二十八の意味深発言。結構重要かも……?




