おかしな日常
「先輩」
うるせぇな。
「ねぇ、先輩」
うるせぇって。
「無視しないでくださいよ~先輩」
「だぁぁぁぁぁもう!!うるっせぇなブッコロスゾこのストーカーが!!」
俺が痺れを切らして振り返ると、そこには活発そうな少女が佇んでいた。
「お、やっと気付いてくれましたか。いやぁ、先輩には聴覚というものが無いのかと思ってしまいましたよ」
「んなわけねぇだろお前がうるせぇから無視してたんだよ気付けこのクズ!!ていうかお前誰!?俺お前の事微塵たりとも知らねぇぞ!?」
今は、学校の帰り道。俺、神代透は放課後に立花が先生に呼び出されている隙に、奴の包囲網から脱出する事に成功した。よってアイツからのイラつく求愛行動を受けない、言うなれば『自由』の状態を手に入れた俺は、のんびりしながら帰路についていたのだが。
「え~とですね、僕は二十八小夜って言います!ヨロシクです!」
「ヨロシクです!じゃねぇよお前となんか関わりたくねぇよ!!そんな爽やかそうに自己紹介したって無駄だコノヤロウ!!」
その時、こんなボーイッシュストーカー少女のコイツに出会ってしまった。というより、一方的にコイツがつけてきただけなのだが。
特徴は、男子のように短く切った黒髪。一見すると男子のようだが、思いっきり女子の制服を着ているので女子だと分かった。背丈は小さめで、立花よりちょっと小さいくらい。瞳は、とても濃い緑色。この裏世界は誰もが緑色の瞳を持っているが、目の前のこいつの緑色は尋常じゃないほど濃い緑色だった。一応、瞳の緑色の薄さ濃さにも個人差はあるのだが、コイツほど濃いのは今まで見たことが無かった。
「さっきから口が悪いですね~そんなんだったら僕からの評価下がりますよ?」
「お前からの評価なんて求めてねぇよ!!っていうか何の用だよ!!お前は何で俺に喧嘩売ってんだよコラ!!」
「喧嘩は売ってないですけど……まぁいいや。え~とですね、用事というのは……」
その時、俺は本能的に危険を察知し、横へと避けた。
「ト・オ・ル・く~ん!!ってあれ、うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!」
「先輩のその……ってえええええぇぇぇぇぇぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!?」
追い付いてきた立花が、俺に向かって抱き着こうとして飛び込んできたのだ。しかし俺は避けた。
よって立花はそのままこの二十八とかいう奴に抱き着く羽目になったのだ。よっしゃ一石二鳥。一網打尽。
結果バランスを崩した二人は、抱き着いたままの姿勢で地面に転んだ。二十八の上に立花が覆い被さるような姿勢で。
「いっててて……あ、ゴメンね、すぐどけるから!」
「~っ……!!ふぁ、あ、いえ、あの、その、なんというか……その……えと……」
「おい、同性に抱き着かれて赤面してんじゃねぇよ気持ち悪ぃな」
言っとくが俺はそういうのを見て興奮するような変態じゃない。驚いて飛び退く立花を尻目に、未だに二十八は赤い顔でぼーっとしながら起き上がらない。そして、彼女は一つため息をつくと、
「クソ……なんで……」
「あぁぁぁ!!ゴメン!!ホントにゴメン!!すいませんでした!!」
どうやら自分にイラついたと勘違いした立花が土下座して謝るが、二十八はキョトンとした顔を浮かべた。
「あ、ぁぁ!!違いますよ!あ、あなたに言ったんじゃないですから!!土下座やめてください!!」
何なんだコイツら。
……ていうか、立花に追い付かれてしまった。
「……ヤバいな」
俺がそう呟いた瞬間、立花は物凄いスピードで俺を向いた。
「トオルくぅん!!まったく、君は彼女を置いて何をやって―――――――」
「俺がいつお前を俺の彼女にした!!やめろ!!気色悪ぃから俺の腕に抱き着くな!!さりげなく胸をくっつけんな!!」
「彼女たるもの常時こういうアピールをしなければ彼氏に飽きられるものなのでございますよあなた!!」
「あなた言うな!!勝手にお前の旦那認定してんじゃねぇよっていうか飽きる以前にお前に興味なんか持ってねぇからやめろヨダレが制服に付くって汚い汚い!!」
あぁ、結局俺はこの寄生虫のような女からは逃げられないのか。俺は墓に入るまでコイツに襲われ続けるのか。いや、墓に入ってもコイツなら一緒に入ってきそうだ。そうだ。そうに違いない。
「ぁぁ……ぁぁぁぁ……」
「トオル君!?目が死んでますけど!?あ、そうかトオル君ヤンデレ化か!いいよ~私いつものツンデレトオル君も好きだけど病んだトオル君も好きだよ~!あーもう可愛い!」
「あああああああ!!ホントお前のその驚きの許容範囲の広さなんなの!?全方位から俺の精神追い詰めていくのやめてくんない!?」
「あのぅ……先輩……」
「いや~だってトオル君が可愛いからついつい虐めちゃうんだって~」
「すいません……えっと……」
「ふっざけんな冗談じゃねぇブッ飛ばすぞコノヤロウ!!」
「その……えと……」
「是非!!是非ブッ飛ばしてください!!私を虐めてくださ―――――」
「~~~~~~~!!」
「チクショウどうすりゃいいんだコイツは誰か助け―――――」
「僕の話をキイテクダサイヨッ!!!」
「……あ、忘れてた」
「……えと……名前聞いてないんだけど……誰?」
「二十八小夜ですッ!!まったく……カップルでイチャイチャするのもいいですけど僕の話も聞いてください……!!」
ほとんど涙目で言う二十八は、頬を膨らませて激怒していた。
……ん?カップル?
「ふっざけんな!!誰がカップルだ!!」
「もう~そんな恥ずかしがらなくても~私とトオル君は決して切れない赤い糸で……」
「冗談じゃねぇよチェーンソーでその糸一刀両断してやりてぇよ!!」
「ほらぁ、またイチャつく!!僕の話聞いてくださいって!!」
「だからイチャついてねぇし!!コイツが勝手に―――――」
「またまた~可愛いなぁ、ツ・ン・デ・レ☆」
「ふっざけんなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!!!」
こんな感じの会話が30分は続いた。
無限ループって怖い気がする。




