外見
「はい、出来上がりー。いいよ、食べて」
フライパンからホットケーキを皿に移すと、私はそれをエノ君の前に出した。既にヨダレをだらだら垂らしながら『早く食わせろ』と目で訴えていたエノ君は、それを見るなりいきなりかぶりついた。
「あ……味付いてな」
「おいひい!あいういえあいえをおいひいふぉ!」
「ゴメン何喋ってるか少しも理解出来ないから飲み込んでから喋って」
一口でフライパン程もあるホットケーキを平らげたエノ君は、まるでスピードを最高速に設定したミシンのような速度でホットケーキを噛み砕くと、それを一気に飲み込んだ。スゴい。
と、不意にエノ君の表情が歪む。自身の胸の辺りをドンドン叩き、ジェスチャーで水を要求する。私は慌ててコップに水を注ぎ、エノ君に手渡す。エノ君がそれを一気に飲むと、ようやく彼の表情が緩んだ。安堵して溜め息を漏らすと、エノ君は、
「おいしい!何も味付いてないけどおいしいよ!」
「ホント?ちょっと自信無かったんだけど……えへへ」
嬉しい。やはりホットケーキぐらいでは料理の腕どうこうで味は変わらないということか。こんな素人の作るホットケーキごときで喜んでくれて、本当によかった。
先程二人でバカ笑いした後、私達はスーパーに行き、ホットケーキミックスや卵などを買ってきた。レジの店員に二人で睨みを利かせた時は、本当に面白かった。帰りも、ずっとそれを思い出しては笑っていた。
そんなことを思い出しながら、私は続けてもう一枚分のホットケーキの元を、フライパンに流し込む。エノ君は、再び待ちきれないという感じの顔付きに変わった。
そんな彼を横目で見ながら、私は二枚目のホットケーキの元をフライパンに流し込む。
……なぜ、あんな少年が恐ろしい目で見られなければならないのだろう。正直で、優しくて、他人の不幸に素直に共感して悲しめる。本当なら、尊敬の目で見られるべき人間だ。
外見。
そう、何故か身体にコードが通っているだけで、髪が元々緑色だっただけで、右目の眼球が黒いだけで、彼は虐げられる。
(確か、人間って八~九割は外見で判断するんだっけ)
嫌だなぁ。本当に嫌な生き物だ。人間って。
そんなことを思いながら、焼けたホットケーキを皿に乗せる。エノ君は、今度はちゃんとメープルシロップをかけてから食べていた。ナイフで小さく切りながら。
その時の彼の表情は、まさに『嬉しい』という言葉が一番お似合いな、純粋な笑顔だった。
「……ホント、美味しそうに食べるね。なんでそんな嬉しそうに出来るの?」
「え?だって美味しいもん。美味しいから笑うんだよ?それって変なことかなぁ」
……考え方まで純粋だ。ホント、外見さえ普通ならば、友達もたくさん出来ることだろう。
だから、私はこう言った。
「……変じゃないよ。むしろスゴいと思う。愛想笑いでも、苦笑いでも、嘲笑でもなく、純粋に笑えるのって」
私には、きっとできない。そんな素直な笑顔は、作れない。
この紅い目のせいで、私は幼少期から感情が歪んでしまっている。人の好意を素直に受け取れず、負の感情を敏感にキャッチしてしまう。
エノ君は、その笑顔を他人に移せる。エノ君が笑えば、私も不思議と笑ってしまう。
だけど、私は違う。私が笑えば、それはきっと誰かを傷付けている。他人の幸せを素直に祝福出来ないからだ。他人が不幸になったときこそ、私は笑うのだから。
「だから、さ」
エノ君の頬に私の右手をやり、小さくさすった。
「それを大切にしてって、エノ君。それって、きっとすごく、すっごく難しいことなんだよ。エノ君がそれを簡単にしてるのは、きっと一つの『才能』だと思うから」
「マサキ……?あ、れ……これ……なんか……」
エノ君は驚いていたが、何故だか懐かしそうにしている。頬に当てた私の手を握りながら、小さく笑った。ぐっ、可愛すぎる。少し涙目になってるのがまたなんとも……。
「って何で泣いてるの!?何か嫌なこと言った!?」
「いや……ちょっと懐かしくて……何でだろ……ホント……あの人と同じ……」
それから五分間くらい、エノ君は私の右手を握ったままだった。
少しストレスフルな今日この頃。だからどうしたというんだ、俺。




