エノの好き嫌い
その日の昼。
私は、エノ君にあることを聞いた。
「ねぇ、エノ君。君、昼は何がいい?」
私は基本的にカップ麺とかそんなもので済ませるのだが、エノ君の好みも聞いておいた方がいいだろう。もしもインスタント食品とかが嫌いだったら、私が料理を作らなければならない。
……といっても、私は基本料理なんてしないから、とんでもないことになるだろうが。
「えーとね……何でもいいよ!」
「ホントに?何か食べたい物とかないの?」
私が念を押して聞くと、エノ君は腕を組んで少し悩んだ。
そして、思い出したように顔を上げると、
「そうだ!僕、ホットケーキ食べたい!」
「ホットケーキ?そんなのでいいの?」
正直、ホッとした。いや、変なダジャレなどではなく。
もしもこの子の親がものすごく料理が上手くて、それを私に要求してきたらどうしようかと思ったのだ。
「うん!あのね、今思い出したんだけど、僕の会いたい人がね、よくホットケーキ作ってくれたんだ!」
「ふぅん……そうなんだぁ」
ホットケーキ程度なら簡単だ。私でも作れる。というより作れなかったらオンナノコとして色々ヤバい。ホットケーキ程度作れない女なんて、嫁にもらってくれる人がいるのか。たぶん居ないな、うん。
ていうか、こんな事で安心してる私って……
「……私って相当ヤバいかも……」
「ど、どうしたの?大丈夫?」
いや、大丈夫だ。たぶん。とりあえず、この子を喜ばせてあげよう。
……ていうか、材料が無い。普段ホットケーキなんか作らないからホットケーキの粉もないし、卵もちょうど切れてたハズ。牛乳は……ムダに二本ぐらいストックしてたハズ。その、色々大きくするために。
まぁ、結構大きい方だと思うんだけどなー。ていうか、牛乳飲んだら本当に大きくなるのかな?よく分からないけど。
「マサキ、やや視線を下に向けながら何を考えてるの?」
「えっ!?いや、別に何でも。うん、何でもないよ」
「……そんな心配しなくても大丈夫じゃない?大きいよ、結構」
「分かった上で言ってるよね!?今の私の考えを分かってた上でその一言は放たれたよね!?」
私がエノ君にそう指摘すると、エノ君はじれったそうな顔を浮かべた。
「それより早く作ろうよ~!僕お腹空いたよ~!」
「でも材料無いから……ね。買いに行かなきゃいけないよ?」
「え?買い物?」
私は頷いた。というより、エノ君の全身から発せられるこの好奇心オーラは何なんだ。目をキラキラ、いやギラギラと輝かせて見つめるその顔は、『一緒に連れていけ』と言わんばかりの笑顔だった。
「……一緒に行く?」
半ば呆れ気味に提案すると、エノ君は大きく首を縦に振り、『うん!!』と言った。あぁもう可愛い。心奪われてしまいそうだ。
恋心的に神代君に惹かれているのに対して、この子は小動物的な可愛さがある。野良猫を『あ、可愛い』って言うような感じ。
でも、所詮二つは別のカテゴリー。神代君が消えて出来たこの穴は、エノ君では満たすことが出来ない。
だから、私は復讐する。あの神代君モドキを殺すことで、この穴を埋めてやる。
私は、知らず知らずのうちに両手を思い切り握り締めていた。
「……マサキ?どうしたの?」
「うぅん、何でもない。じゃあ、近くのデパートにでも行こうか?」
「うん!デパ――――――――」
そう言いかけたエノ君は、
急に顔を真っ青にして、一歩後ずさった。
「どうしたの、エノ君?大丈夫?」
「デパート……ぼ、僕、ちょっとデパートは……怖い」
怖い?どういう事だろう。何か、嫌な要素でもあるのだろうか。
「怖いって……何が?どうして?」
「わ、分かんない……分かんないけど……怖いんだ……何か……危ない気がして……」
危ない気がして、とは何だろう。エレベーターが怖いとか?でも、この怖がり方は尋常じゃない。まるで化け物でも見たかのような表情だ。
「じ、じゃあ近くのスーパーにする?別に、そっちでもいいけど……」
「じゃあ、そうする……ご、ごめんなさい……」
エノ君は本当に申し訳なさそうをしてみせた。顔を俯かせ、少し涙目になっている。
「ああああああ大丈夫大丈夫!!泣かないで!?大丈夫だからどっちでも大丈夫だから!!」
今分かった。この子は、相当な泣き虫だということが。
だけど、申し訳ない時はちゃんと謝れる子。他人に共感して、一緒に悲しめる。
そんな優しい子だということも、分かった。
作者はジェットコースターがトラウマで乗れません。怖い。




