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存在干渉の法則  作者: たびくろ@たびしろ
表・立花編
31/110

不思議な少年との出会い

「……ふぅ」

シャワー室から出た私は、上に掛けてあるいつものジャージを引っ張り、それを上にはおった。今日は何か暑いし、別にシャツ着なくてもいいよね。ジャージだけはおっとけば。いや、もちろんノーパンではないですよ?うん。

……何言ってるんだ私。一人でぶつぶつ喋って。アホか。

そんな事を考えながら、そこを出ようとした私の目に、ふと鏡がちらついた。

「……目……」

私は少し立ち止まり、その鏡をじっと見つめた。いや、実際には自分の『目』を。

紅い目。他人を見透かすような、そんな敵対的な紅い瞳。

「こんな目……なければ良かったのに。全部この目のせいだ」

私が小さい頃から疲れやすかったのも、友達が出来なかったのも、親から怖がられたのも。

全部、この目のせいだ。

いくら親が外国人のパパと日本人のママだからって、こんな紅い目の子供が産まれるものなのだろうか?いや、仮に目を外国人のパパから受け継いだとしても、紅い目はない。何故なら、パパの目の色は青かったから。

しかも、何か気持ち悪い能力まで持ち合わせている始末だ。何だ、『逆世界の反応を認識出来る能力』って。何の役に立つんだ。

……まぁ、今はとても役に立っているけど。あの忌まわしい神代君の偽者を殺すためには、ね。


『うわああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!?』


「ッ!?」

突如、二階から悲鳴が聞こえた。私は一瞬驚き、上を見る。まぁ、上は天井なのだが。

「この家は私しか居ないはずなのに……!?」

私は濡れた自分の金髪を急いで拭き、そのまま二階に駆け上がった。自分の部屋のドアを開ける。

「誰!?」

勢い良く開いたドアの向こうに居たのは、



「ビックリした!!ビックリした……ってあれ?お姉さん、誰?」



小学生くらいの、小さな男の子だった。

「……へ?」

唖然としながらも、私はゆっくりと首をめぐらす。

目の前には私の机の椅子ごと転がった見ず知らずの少年。そして机の上には私が愛用しているデスクトップ型パソコン。画面には、某動画サイトのホラーゲーム実況プレイが流れていた。よく見ると、先程ゾンビのようなものが飛び出してくるところだったらしく、その実況者の『うわぁぁ……超ビビったぁ……』という言葉が、小さく流れていた。画面をスクロールするコメントも、『怖えぇww』とか『ビビったわwww』などのようなものばかりだった。

「ねーぇ、お姉さん誰?お姉さん聞いてる?」

「ん?ってうわっ!?」

私がパソコンに視線を集中している間、その少年は既に私の目の前に居た。いきなり飛び出してきた見知らぬ少年の顔に、私は驚きを隠せずそのまま尻餅をついてしまった。

「お、お姉さん!?大丈夫!?」

大丈夫か、だって?

どう見ても君のせいでしょ。痛いよ、結構。




「……じゃあ、君の名前はエノ君でいいの?」

「うん!僕、エノっていうんだ!……たぶん」

私は自分の机の椅子に腰掛けながら、私のベッドの上に正座しているその少年、『エノ』を見つめた。

なぜエノ君が正座しているのかというと、『お姉さんに迷惑掛けちゃったから』らしい。なんか礼儀正しくて、素直な男の子だ。

「何でたぶんなの?自分の名前、覚えてないの?」

「うん……なんか頭の中にはこの名前しか入ってないんだ」

「ふぅん……不思議な子だね……」

ホント、目の前の少年は不思議だ。格好まで不思議だ。


まるで染めたかのような緑色の髪の毛。


いたいけなその笑顔はいいのだが、何故か右目だけ黒色だった。いや、瞳が黒いのではなく、眼球自体が、簡単に言えば白目の部分がまるで墨でも塗ったかのように黒かったのだ。ちなみに、瞳はどちらも緑色だった。


そして、緑色のセーターに、灰色のジーンズ。まぁ、これは普通だろう。


しかし気になるのは、両手両足と首に付けられた、拘束具のような鉄の輪だ。いや、どちらかというと機械のような、測定器のような感じか。


そしてその拘束具からはそれぞれ一本の黒いコードのようなものが伸びていた。それらは全て身体に繋がれており、手首のコードはそれぞれの手の甲に、足首から伸びるコードはそのまま腹の辺りまで繋がれていた。そして首の拘束具から伸びているコードは二本あり、一本は胸の辺り、もう一本は右目の下辺りに繋がれていた。


まるで人造人間のような佇まいに、私は正直驚いた。彼に聞いてみると、この拘束具のようなものは生命維持装置らしい。これが全て繋がって居ないと、彼は死んでしまうと言っていた。

何か、重い難病にでもかかっているのだろうか。それなら、ここから病院に連れていった方がいいのではないか?

しかしエノ君は、『大丈夫だよ、これは病気じゃないから』と言った。一体何なのだろうか。

「ねぇ、お姉さんは何ていう名前なの?僕、お姉さんの名前知りたい!」

そんな無邪気な笑顔で聞かれた。私はそんなエノ君を呆れたような顔で見てから、言った。

「私は、真咲(まさき)っていうの。立花真咲(たちばなまさき)。よろしくね」

「真咲お姉さんかぁ……ねぇ、長いから『マサキ』って呼んでいい?」

「いいよ、別に」

私が承諾すると、エノ君は宝物でも見つけたかのような、とびっきりの笑顔を浮かべた。

そして、いきなりベッドの上を飛び回りながら、

「やったやった!マサキ!マサキ!わーい!」

とか叫んでいる。

まぁ無邪気だ。無邪気過ぎる。


……ってちょっと待って。なんかいつの間にか仲良くなってますけど、この後この子どうしよう。

「ねぇ、エノ君。君、これからどこか行くあてでもあるの?」

「え?うーん、僕ある人に会いたいな」

エノ君は跳び跳ねるのを止め、その場に座り込んでそう言った。

「ある人って……誰?どんな人?」

「それが分からないんだ。そこの記憶もばっちり抜けちゃってて。とりあえず会いたいんだよ。でも、誰だか思い出せない」

なんじゃそりゃ。そんなの分かんないよ。何かと何かを足したら何になるでしょう?っていう問題を解けって言ってるのと同じだよ。

じゃあどうしよう。まぁ、家に置いといてもいいんだけど……エノ君はどうなのかな。

エノ君はこんな私の家でもいいのかな。

「ねぇ……これから行く所が無いならさ、家に泊まっていかない?別に嫌ならいいけどさ」

私がそう言うと、エノ君はとびっきりの笑顔を浮かべた。



「……うん!!ありがとう、マサキ!!」



可愛いなぁ。なんでこの子、こんな可愛い笑顔を浮かべられるんだろう。

まったく汚れを知らない、憎しみも持たない、他人を悲しませない、そんな少年。

それなのに。

それなのに、私は。

「優しいね、マサキ!顔は怖いけど」

「ぐっ。ちょっと……今、少し傷付いたよ、私」

恐らく、というか確実に、エノ君が言っているのは私の目の下のクマのことだろう。神代君にも治せと言われたけど、結局治っていない。

もう、朝昼晩四六時中、神代君の事ばかり考えていて、眠れないのだ。

……でも、その度に神代君は死んだという事を思い出し、切なくなってしまう。心を握り締められているような、そんな気持ちがするのだ。

もう一度会いたいよ、神代君。何で死んじゃったの。

「どうしたの、マサキ?なんで……泣いてるの……?僕のせい……?」

「え?う、うぅん。エノ君のせいじゃないよ……私も、ある人に会いたくなっちゃって……」

知らず知らずのうちに、泣いていたらしい。私は急いで涙を拭く。

「ふぅん、マサキもなんだ。会えるといいね!」

「うん。でもね、もうその人には会えないの。死んじゃったから」

「え……死んじゃったの……?」

「うん。だから、もう会えないんだ」

きっと、私は悲しげな表情をしているだろう。泣いてはいなくても、泣き出しそうな顔になっているだろう。

だけど、これだけは言える。

「だけどね、エノ君。君は、まだ会える。まだ、その人と会えるハズだよ。だから、一緒に思い出そうよ。その人の事」

そう。

神代君は死んじゃったけど、この子の探している人はきっと生きてる。なにかに教えてもらったわけでもなく、勝手にそう思った。

私は椅子を立つと、エノ君の前に中腰になった。その両肩を掴むと、ありったけの笑顔でこう言った。



「それまで、一緒に居てあげる。その人の、代わりになってあげる!」



その後、私達はどちらからもなく、笑い合った。

何だろう、楽しいな。

神代君が居なくなってから、初めて楽しいって感じたかもしれない。

エノ君は、その緑色の髪を揺らしながら、ただ、私と一緒に笑ってくれた。


今回は表、つまり赤い目の、クマが恐ろしい立花真咲の章です。しかも、新キャラ登場。

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